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第183回 台湾の裁判所の民事判決が中国で認可、執行されることについての新規定


ニュース 法律 作成日:2015年7月8日_記事番号:T00057976

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第183回 台湾の裁判所の民事判決が中国で認可、執行されることについての新規定

 中国最高人民裁判所は、2015年6月29日に「関於認可和執行台湾地区法院民事判決的規定(台湾地区における裁判所の民事判決の認知、執行に関する規定)」を公布、15年7月1日から施行するとともに、「最高人民法院関於人民法院認可台湾地区有関法院民事判決的規定(人民裁判所が台湾地区における裁判所の民事判決を認可することについての最高人民裁判所規定)」(98年)、「最高人民法院関於人民法院認可台湾地区有関法院民事判決的補充規定(人民裁判所が台湾地区における裁判所の民事判決を認可することについての最高人民裁判所補足規定)」(09年)などの関連規定を廃止しました。

 この規定によると、中国で認可および執行をすることができる民事判決には、台湾の各裁判所で出された民事確定判決、裁定、和解調書、調停調書、支払い命令などのほか、刑事案件中で認めた損害賠償関連の判決、裁定、和解調書や、台湾の各裁判所が認可した調停文書も含まれます。また、仲裁判断については、別途特別規定が設けられています。

 認可、執行の申請者は、その所在地、通常居住地、債務者の所在地、通常居住地、財産所在地の中級人民裁判所、または専門人民裁判所に対して申請を行います。代理人を立てる場合は、委任状を提出しなければなりません。委任状が台湾またはその他の地域で作成された場合は、公証、認証を受ける必要があります。

 文書の真実性、被告が合法的に呼び出しを受けたかどうかなどについては、当該規定の第9条の規定により、人民裁判所は「海峡両岸調査取証司法互助」のルートを通じて調査を行うことができます。人民裁判所が必要と判断する場合、案件の関連事項について、職権により、前記のルートを通じて台湾の関連機関に調査を申請することができます。

 当該規定における認可のプロセスについては、一般の国で他国の裁判所の判決を審査する際に取られるプロセス上の保障事項のほか、特別規定として「当該民事判決を認可することが、一つの中国の原則など、国家法律の基本原則に違反する、または社会の公共利益を害する場合、人民裁判所は当該認可をすることはできない」といった規定が設けられています。この「当該民事判決を認可することが、一つの中国の原則…に違反する」というのが「当該民事判決の内容が、一つの中国の原則…に違反する」ことを指すのかどうかは、現在まだ分かりませんが、とにかく、このような規定の存在は、中国の債務者にとっては、格好の抗弁理由となることは間違いありません。

台湾の判決の効力を認めず

 当該規定は、基本姿勢として、台湾の裁判所の判決の効力を原則として認めていません。したがって、当事者が認可を申請する以前に既に下記の状況にある場合は認可がなされません。

1.当事者の一方が同一案件に関して人民裁判所に起訴した場合。

2.人民裁判所が同一案件に関して既に判決を出している、または中国の仲裁で仲裁判断が出されている。

 この基本姿勢に従い、例えば、台湾の裁判所で既に判決が得られている場合でも、当事者が人民裁判所に対して同一案件を起訴した場合、人民裁判所は当該案件を受理しますし、さらには、人民裁判所が台湾の裁判所判決の認可を認めなかった場合でも、同一案件を人民裁判所に対して起訴することができます。つまり、台湾で敗訴した当事者が、人民裁判所による認可、執行を避けたい場合、相手方当事者による認可、執行より先に、人民裁判所に対して当該案件を起訴することで、時間稼ぎをすることが可能なわけです。

 また、例えば、当該規定は当事者が台湾の裁判所の判決に基づいて、仮差し押さえなどの保全処置の申請を行うことも認めていますが、差し押さえを受ける前に人民裁判所に起訴してしまえば、保全処置を免れることが可能かもしれません。

 外国人または外国の企業が台湾の裁判所の判決の認可、執行を申請する際には、中国の弁護士を代理に立てなければなりません。ただし、身分関係に関する判決については、その限りではありません。

 仲裁について、最高人民裁判所は、「関於認可和執行台湾地区仲裁裁決的規定(台湾地区における仲裁判断の認知、執行に関する規定)」を同じく6月29日に公布し、7月1日より施行しています。この規定が適用される「仲裁判断」には、台湾の常設仲裁機構または臨時仲裁廷が出した仲裁判断、仲裁和解、仲裁調停が含まれます。

 当該規定の内容は、前述した判決の認可、執行の規定と類似していますが、下記のような状況では認可は行われないという規定が別途盛り込まれています。

1.当該仲裁事項が、中国の法律により仲裁で解決できない事項である場合。

2.当該仲裁判断を認可することが、一つの中国の原則など、国家法律の基本原則に違反する場合。

3.当該仲裁判断を認可することが、社会の公共利益の損害となる場合。

徐宏昇弁護士事務所

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