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第187回 「いいかげん」な特許審査


ニュース 法律 作成日:2015年9月9日_記事番号:T00059188

産業時事の法律講座

第187回 「いいかげん」な特許審査

 達通科技(以下「達通」)は2006年6月に「リフレクターを利用したマルチポイントのリアルタイムリモートストリーミングビデオの転送およびストレージに関する問題解決方法」という発明特許を申請し、09年5月に許可を受けた後、7月1日に公告、26年6月4日までの特許期間で特許権を取得しました。

 本件特許発明は、過去の技術における「ワイドエリアネットワークから送られてくるビデオデータがネットワーク上の他のデータと『クラッシュ』することでロストされてしまう」という欠点を改良し、「絶妙な方法により、マルチポイントのリモート転送において、極めて安全かつ快速な通信を提供する」としています。この「絶妙な方法」とは「DVRまたはVideo Serverと…リフレクター間、リフレクターとサーバー間、リフレクターとリフレクター間に、rtpネットワークトンネルを構築し、rtp-over-tcpのネットワークトンネル内で通信を行う」というものです。つまり、「リモートのDVRまたはVideo Serveより送られてきたデータが、ワイドエリアネットワークを利用した転送」であってもデータの完全性と快速性を保つことができるというものです。

提供先の中華電信を起訴

 達通は07年から08年にかけて、「マルチポイント転送ストレージシステム」を中華電信に提供していました。達通は契約終了後の09年2月に中華電信に対して、中華電信が構築した「P2P監視システム」が前述の特許を侵害していることを通知しました。これに対して中華電信は、それらは異なる技術だとしたため、達通は12年に中華電信を起訴、損害賠償を請求し、侵害物品・器具・設備の破棄、および新聞への謝罪文の掲載を求めました。

 この訴えに対し、知的財産裁判所は13年3月に原告の訴えを退ける判断を下しました。理由は以下の通りです。

1)同特許の請求項からは、それが物の発明なのか、方法の発明なのかの判別ができず、またその請求範囲も明確ではない。

2)同特許には無効たるべき原因があるため、原告は被告に対して特許権を主張することはできない。

 原告の控訴に対して、同裁判所二審は13年12月に原審の判断を維持し、原告の控訴を棄却しました。その後、原告は最高裁判所に上告を行いましたが、15年2月、知的財産局は被告の特許無効審判の訴えに対して、「無効にすべき」旨の審決を下しました。その理由には以下のものが含まれていました。

1)請求項には発明の効能に関する説明があるだけで、特許説明書にも当該効能の実現方法に関する説明がない。そのため、台湾の特許法(專利法)が求める説明書の記載方式の規定に違反している。2)被告が挙げている先行技術資料は、特許の特定効能を記載していないため、係争特許に進歩性がないことを証明することができない。

 しかし、最高裁判所は15年8月7日に知的財産裁判所の判決を破棄しました。理由は以下の通りです。

1)台湾の特許法は方法の発明の請求項の形態に関して何らの規定や制限を設けていないため、方法の発明の技術的特徴を表現できていればよいと解される。しかし原審は、同特許の「関連記載が方法発明の技術的特徴を表現できていない」ことについての説明を果たしていないにもかかわらず、上告人に不利な判断をした判断には瑕疵(かし)がある」。

2)被告は原告の設備を購入した経歴があり、原告は同設備は係争特許技術を用いて作成されたものであると主張している。すると、同特許の記載内容が本当に不明確なものであるかどうかについては疑問が残る。

 知的財産局の審決内容からも分かる通り、本件特許の特許説明書には、発明の目的を実現させるための技術内容が記載されていませんでした。当時の特許審査は既に違法だったということです。しかし、特許無効審判の審決書では、かなりのスペースを割いて、特許を許可した当初の特許説明書の記載には大部分違法は見られなかったことが記載されています。

 また、同特許は内容のない特許であるにもかかわらず、知的財産局は被告が特許無効審判に際して提出した証拠から同特許が進歩性を持たないかどうかを判断してしまいました。このような審決判断そのものも、すでに論理的なものではありません。

 特許権がこのような「いいかげん」な審査によって付与されていることこそが、一切の問題の根源となっているにもかかわらず、知的財産裁判所はその特許審査の問題点に対して直接意見を述べようともしていません。知的財産裁判所の意見を誤解した最高裁判所は、自判せずに裁判を差し戻してしまいました。結果、裁判所の「修復機能」も発揮できていないということです。

徐宏昇弁護士事務所
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