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第191回 「無効な特許」のライセンス


ニュース 法律 作成日:2015年11月11日_記事番号:T00060316

産業時事の法律講座

第191回 「無効な特許」のライセンス

 特許権の効力は、既に特許が取得されている技術を、他者が市場において利用することを排除することにあります。つまり、端的に言えば特許権とは、特定の技術を独占する権利ということになります。すると、特許権を他者にライセンスするという行為は、自らが独占している権利の全てまたは一部を他者に受け渡すということになります。さて、ではもし「無効な特許」をライセンスした場合、そのライセンス契約は有効なのでしょうか?

権利金払わず公表

 騵創科技(以下「騵創」)は2009年1月15日に台湾実用新案特許M328034号、および同様の中国特許を陞達科技(以下「陞達」)に対してライセンスしました。ライセンスされた技術には、07年に申請された「磁場および磁場センサーによる座標位置付け」のタッチスティックの構造という、いわゆる「携帯電話のタッチスティック」技術が含まれていました。

 判決によると、陞達は、10年3月の関連セミナーにおいてタッチスティックを展示し、「開発は最終段階に入っており、世界最小のマウスポインターとなるでしょう」との公示を行いました。これに対して、騵創は11年に訴訟を提起、陞達が何らの権利金も支払わず、また何らの報告も行っていないことを理由に、97万5,000米ドルの支払いを求めました。

 これに対して被告は、▽原告の提供した技術資料が不完全であった▽特許には取り消されるべき原因があった──と抗弁しました。しかし、台北地方裁判所は審理の後、▽被告の提出した先行技術資料では同特許が無効であることを証明することはできない▽被告の製品はすでに試作、サンプル配布などを行っており、また原告も技術提供を行っている──などを理由として、原告の全面勝訴という判決を下しました。

知財裁判所は「支払い義務なし」

 被告は控訴後、新証拠を提出し、▽同特許の内容は、米国特許US2004/0119687(NEC專利)と同じであるため無効である▽ライセンスされた特許が無効なのだから、ライセンス契約は実現不可能である▽よって契約そのものも無効である──と主張しました。

 これに対して、知的財産裁判所は04年2月に以下のような判決を下しました。

1)本件台湾特許はNEC特許と近似を構成するため、特許を取り消すべき事由は存在する。

2)ライセンス契約が付与した特許権にそれを取り消すべき事由があったとしても、民法における「履行不能」とはならず、また契約を「原始的不能」とするものではない。それは契約目的物の「権利瑕疵(かし)担保」の問題でしかない。

3)原告は契約の付属項目を交付していないので、給付義務を完全に履行していない。これは、被告が11年5月6日にライセンス契約を解除した理由になる。

4)ライセンス契約中の特許権に取り消されるべき事由があったことも、被告が13年12月11日に法廷において契約の解除を表明した理由である。

5)ライセンス契約は、取り消された後に契約締結時にさかのぼって効果を失うため、被告には権利金を支払う義務はない。

 これを不服とした原告は最高裁判所に上告。最高裁判所は今年10月22日に、以下のような理由を強調し、訴えを退ける判決を下しました。

1)裁判所による判断で、係争特許には取り消されるべき理由が存在し、「両当事者の間では、被上告人は特許が存在しないことを主張し、契約を「履行不能」とすることで、……債務不履行の規定により権利を行使することができた」。

2)新規性・進歩性のない特許とは、つまり「パブリックドメインに属する技術」であるため、社会一般大衆は誰でもそれを使用することができるのであるから、「そのライセンスを受けた者が有効性に関する抗弁を行うことは許されるべきである」。

3)被告が係争特許の技術を利用していたかどうか、またはそれにより利益を得ていたかどうかは、被告が契約を解除する権利に何ら影響を与えない。

特許権の無効を主張できる

 最高裁判所のこの判決の重要な意義は、「特許のライセンス契約の当事者が訴訟中に特許権の無効を主張することができる」という点にあります。裁判所はその理由を「特許が有効かどうかは公益にかかわる問題である」としていますが、それはすなわち、特許の受け渡しを受けた者、果ては特許の共有者も、訴訟中において同様の主張ができるということにほかなりません。

 しかし、1)判決は特許権の本質を説明していません。特許権は一種の排他的な権利なのですから、特許権が無効であるということは、ライセンスを受けた者も同様に他者を「排除」する目的を達成できないことになります。この点こそが、ライセンスを受けた者が契約解除または契約の無効を主張できる理由なのです。

2)本件特許は、別途中国特許にもかかわっていますが、中国特許の特許についてはどのような範囲がされたのでしょうか?同様に無効なのでしょうか?判決には何の説明もありません。さらには、本件ライセンス契約はそれらも含めて全て無効なのでしょうか?疑問が残る点です。

3)ライセンスを行うことができる技術は特許を取得している技術だけとは限りません。最高裁判所は、被告が利益を得ているかどうかについて、原告は別途訴訟を起こすべきとしています。しかし、ライセンス契約からすれば、そもそも原告は、被告が得た利益の返還を求めることができなければならないはずです。

徐宏昇弁護士事務所
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