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第193回 発明者は誰?


ニュース 法律 作成日:2015年12月9日_記事番号:T00060847

産業時事の法律講座

第193回 発明者は誰?

 発明とは、他人が思い付かないような創作をすることです。さて、発明者は特許を申請することができるほか、自らの氏名を発明者として表記することができる権利を有していますが、企業が特許権を取得する場合、発明者は特許権者でない場合がほとんどです。エンジニアなどの発明者は、特許の発明者として表記されることを光栄に思い、また転職などの際に評価される要素になると考えています。

後特許で非発明者扱い

 原告の陳秋明氏は国立清華大学を退職した名誉教授で、2010年3月まで被告の台湾森本生物科技開発で顧問を務めていました。04年5月、森本社は原告を共同発明者として表記し、「ガンボージ樹脂より分離された腫瘍(しゅよう)/がん細胞の増殖を抑制する活性化合物ならびにそれらを含む化合物および医薬組成物」という特許(前特許)を申請、台湾第I282280号特許を取得しました。10年6月1日、森本社は、別途「ガンボージ樹脂から分離された化合物および医薬組成物」という特許(後特許)を申請しましたが、ここには原告の名は共同発明者として表記されていませんでした。この特許申請案は分割を経て、結果として双方ともに特許を取得することができました。判決によると、後特許は原告が離職をする際には原告の協力の下、発明特許説明書を完成させていたということです。

「実質的貢献なし」

 このような被告の行為を不満に思った原告は、知的財産裁判所に対して訴えを提起、後特許にも原告の名を表記するよう求めました。しかし、原告の訴えおよび控訴を受けた知的財産裁判所第一審、第二審ともに、原告の訴えを退ける判断を下しました。判決は以下の通りです。

 発明者とは、特許申請の範囲に記載されている技術的特徴に対して実質的な貢献があった者を指す。

 「実質的な貢献があった者」とは、発明を完成させ、かつ精神的創作を行った者のことである。つまり、発明が解決しようとする問題、または達成しようとする効能に対して「構想(conception)」を持ち、その上で具体的かつ同構想を達成する技術的手段を提供した者のことを指す。

 他者の企画・設計を実施するのみ、つまり単に構想を具体化するだけの作業を行った者、または熟練した技術はあるものの、創作を伴わない作業を行っただけの者は発明者とはなり得ない。

 単に発明者に対して通常の知識、または関連技術の解釈を提供したのみで、発明全体からすると何らの具体的な構想を持たない者も、共同発明者とはなり得ない。

 後特許の説明書の記載によると、後特許の申請者は「前特許に記載されているガンボージ樹脂より抽出されたアセトン成分TSB-14には、腫瘍/癌細胞の増殖・活性を抑制する他にも、痛み止め、炎症を抑える活性が認められる」ことを発見したため、一歩進んで「アセトン成分TSB-14より5つの部位(fractions)を取り出し、新しい18種類の純粋な化合物を生成し」、それら化合物に腫瘍/癌細胞の増殖・活性抑制、痛み止め、炎症を抑える活性があることを証明した。

 原告は、後特許は前特許の延長線上のものであるため、原告は当然後特許の発明者として名を表記されるべきであると主張した。しかし、裁判所は審理の後、原告の提出した証拠では、原告は当時、被告に協力し▽後特許の化合物構造解析を行った▽タイの科学者との協力の下で関連化合物を命名した▽発明特許説明書の作成に参与した──ことなどは証明できるが、原告が後特許における「新しい化合物の分離製造に際して解決すべき問題」の解決に参与したこと、および「解決に参与した問題が特許範囲に記載されている18種類の新しい化合物の構造上の問題および製造方法における実質的な貢献があったこと」を証明する証拠はないとしました。

最高裁が上告棄却

 原告はその後、最高裁判所に対して上告しましたが、15年10月29日に最高裁判所は二審の判断を支持し、原告の訴えを退ける判決を下しました。

 判決の中で、最高裁判所は以下の点を強調しました。単に発明者に対して通常の知識、または関連技術の解釈を提供したのみで、発明全体からすると何らの具体的な構想を持たなかった者、または発明者の構想を具体化しただけの通常の技術者、さらには発明の過程において構想を提供した、課題の進行に際して指導をした、または啓発的な意見を述べただけの者、組織としての作業、リーダーシップの発揮、または作業の準備をしただけで発明創造に対して何らの具体的内容も構成していない者など、これらの者は全て発明者または共同発明者とはなり得ない。

徐宏昇弁護士事務所
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