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第198回  検証を受けていない発明


ニュース 法律 作成日:2016年3月9日_記事番号:T00062375

産業時事の法律講座

第198回  検証を受けていない発明

 政府調達案の入札で、落札することができなかった当事者が特許権を持ち出してきて、「調達を落札した業者の技術は特許権を侵害している」と主張するというのは、台湾ではよくあることで、またこれまではとても有効な手段でした。なぜならば、政府調達を行う政府機関は、その主張が正しいかどうかを判断することができないため、入札案を中断し、裁判所の判断を待つことになり、結果として入札はなかったことになったも同然となり、損害賠償により損害を回復することも難しくなります。

 2010年12月、財政部関税総局は、無線ICタグ(RFID)を利用した電子封印システムの基礎モデルを完成させ、基隆港、台北港、台中港に「越境移動安全システム」を構築すると発表しました。

企業が特許侵害訴え

 同システムが使用している電子封印は、国防部軍備局中山科学研究院が製造したものでしたが、原告である辛耘企業は、各地の税関に対して11年ごろから数度にわたり、同システムが発明特許I292007号「電子封印」を侵害していることを理由に侵害を停止するよう求めました。しかし税関がその要求に応じなかったため、原告は知的財産裁判所に対して訴訟を提起、中山科学研究院、関税総局および各地税関に対して連帯損害賠償3,276万台湾元の支払いを求めました。

 原告は被告の製品を裁判所に提出することができなかったため、裁判所は原告の要求を受け入れ、被告に対して製品を提出することを命じました。しかし、各被告は▽係争製品の在庫(サンプル・展示品・予備)が既にない▽使用済みの製品も存在しない(封印は使用後すぐに破棄するため)──と主張したため、裁判所は12年6月に、権利の侵害を証明できる証拠が存在しないとして、原告の訴えを退ける判決を下しました。

 原告はこれを不服とし、控訴しましたが、知的財産裁判所は14年4月に、本件特許の記載内容は、技術者にその内容を理解させ、その内容から発明の内容を実現させることができないものであるため、無効の特許であるとし、原告の訴えを退ける判断を下しました。

 本件特許の電子封印は、「RFID装置」と「アンテナ装置」が含まれ、両者が連結している際には、電子封印は識別電磁波を出すことができますが、封印が破られると、「RFID裝置」と「アンテナ裝置」の連結が切断され、識別電磁波を発射することができなくなる、というものでした。

 しかし、発明の説明の中に挙げられた実例としては、まず、実施例1は「電子封印のプラグを切断すると、ピンも同時に切断されるため、『RFID裝置』と『アンテナ裝置』の連結は切断される」。そして実施例2は「導電金属でプラグを作成し、アンテナとしての効能を提供する」「プラグを切断すると、電子封印は識別電磁波を発射できなくなる」というものでした。

核心技術の説明不十分

 裁判官はこのような技術表現に対して▽導体であればRFIDのアンテナとなるのだとすれば、なぜ特許説明書に「アンテナ装置」と記載されている導電金属だけが電磁波の送受信をすることができるのか?▽なぜ実施例1では、残りのピンをアンテナとして利用できないのか?▽実施例2では、残りのプラグをアンテナとして利用できないのはなぜか?──と疑問を持ちました。

 もし、導電材に特定の規格が必要で、それを満たして初めて「アンテナ」となるのであれば、なぜ特許説明書の中にもそのような規格が明らかにされていないのか。また、特許説明書にはどのような方法でプラグを「切断」すれば、もともと電磁波を送受信していたプラグがその機能を失うのかも書かれていませんでした。

 裁判官はこれらのことを理由として、本件特許は「アンテナ」に関して必要な定義を与えておらず、またどのようにプラグを切断すればプラグがアンテナではなくなるのかについても説明がないと判断、本件特許は「アンテナ」と「切断」の2つの核心技術についての説明が不十分であるため、特許法の目的である「発明者は独占権と引き換えに発明を公開する」という要件を満たしていないとし、本件特許を無効と判断しました。

 原告は最高裁判所に対して上告を行いましたが、16年1月21日、最高裁判所は知的財産裁判所の判断を支持し、訴えを退けました。

そもそもの特許審査に疑問

 今回の判決において裁判所は、これまで検証を受けたことがなかった発明に対して、厳格な検証を行い、本件特許には何ら技術的な貢献がなかったことを明らかにしました。これは評価されるべき点でしょう。しかし読者の皆さんは、「台湾の裁判所は厳格に特許の有効性を審査している」などと誤解をしないでください。本件のように「ごく当たり前」の結果が見て取れる特許案でさえ、知的財産局の審査官たちは何らの疑問も持たず特許を与えたのです。そしてその有効性のなさを裁判所、知的財産局で勝ち取るのは、実は至難の業なのです。

徐宏昇弁護士事務所
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