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第202回 ライセンス期間を超えて著作を使用することの代償


ニュース 法律 作成日:2016年5月25日_記事番号:T00064343

産業時事の法律講座

第202回 ライセンス期間を超えて著作を使用することの代償

 原告、林鴻宗氏と被告、合信文具工業有限公司(以下「合信文具」)は1998年に、原告が95年に創作した美術著作「搞怪『貢丸』NI-KU DAN GO」に係る4種計12図案についてライセンス契約を締結し、合信文具がその使用権を得ました。ライセンス期間は98年7月~01年7月までで、権利金は8万台湾元でした。

 合信文具は、ライセンスを受けた原告の著作(図案)を、利百代公司の鉛筆削りHT-360の外観上に使用し、利百代公司はそれらを台湾内外で販売しました。ライセンス期間満了後、双方はライセンス期間を延期しませんでしたが、原告は11年5月17日と6月4日に、それぞれネット上でその著作を使用しているHT-360を購入できたため、被告らがライセンス期間満了後も著作を使用していると認定し、被告らに対して、連帯損害賠償500万元と、判決文全文の新聞掲載を求める訴えを提起しました。

 知的財産裁判所は、12年10月に第一審判決を下し、被告らに対して、原告に対して連帯で100万元を賠償すること、および判決の主文部分を自由時報・蘋果日報に掲載することを命じました。

 被告合信文具は、利百代公司が販売していた鉛筆削りは全てライセンス期間内に製造されたものであると抗弁しましたが、知的財産裁判所は、著名な文具会社である利百代が10年も前に製造された鉛筆削りを販売することは考えにくいとし、また、ライセンス契約内に製造されたものだとしても、合信文具はライセンス期間満了後3カ月以内に製品を回収すると定められていたことから、被告らがライセンス期間満了後も当該鉛筆削りの生産、販売を続けていたと認定しました。

賠償金額を緻密に計算

 第一審判決は、損害賠償の計算について以下のような判断をしました。

 ライセンス契約は、3年で8万元という内容だったが、それは「契約締結時においては原告の著作は完成したばかりで、双方はそれが消費者にどれほど受け入れられるのか、どれほどの商業価値があるのかを知らなかったためである。通常、契約当初の権利金はどうしても一般の市場価格より低くならざるを得ないが、契約延期の際の権利金は、実際の販売状況いかんによって、決められるものである。係争商品は10年以上の長きにわたって販売されていることからも、一定の市場があったことが認められるため、8万元を基準としてその後の権利金を計算したのでは低過ぎることは明らかである」。

 しかし、双方は「合理的な権利金」を計算するために十分な証拠を提出していない。「例えばライセンサーとライセンシーの市場地位、係争製品が利益を得ることに対して、またはその技術に対する係争著作の貢献度、係争製品の市場独占率などの(証拠)」である。そのため、裁判所は本案の合理的な権利金を計算することができない。

 著作権法第8条第2項および第3項は、「被害者がその実際の被害額を証明することが困難な場合、裁判所に対して被害の状況に応じて、1万~100万元の範囲で損害賠償額の決定を求めることができる。損害行為が故意または重大な過失が存在する場合は賠償額は500万元まで増加させることができる」と定めている。

 本件原告は、被告が故意にその権利を侵害したことを主張し、500万元の賠償を求めたが、原告は利百代公司が故意にその権利を侵害したことを証明できなかったため、賠償金額は100万元となる。

 双方ともに判決を不服とし控訴しましたが、知的財産裁判所第二審は、15年2月に、損害賠償額を30万元まで減額する判決を下しました。裁判所は判決の中で「双方の契約は定額ライセンス方式であるため、当該製品の03~11年までの販売数からすれば、著作権侵害に対する賠償としては、年間3万台湾元が相当である」と判断しました。

 原告である林氏は賠償金額が低過ぎるとして最高裁判所に上告を行いましたが、最高裁判所は16年4月21日に訴えを退け、判決が確定しました。

「賠償金額は受けた損害に限る」

 読者の皆さんは、この第一審、第二審判決をどう思いましたか?第一審の判決は、賠償金の計算を非常に緻密に行っています。そのため、説得力もあり、また社会的に予期されたものでもあり、著作権保護の目的にも沿ったものとなっています。それに対して第二審の判決は、説得力に欠けるだけでなく、判決の結果は「ライセンスがあろうとなかろうと、払う金額に差はない」という、まるで権利の侵害を促すようなものとなっています。しかし、これは第二審裁判所の問題ではなく、最高裁判所が各種侵害案件に対して採択している「賠償金額は被害者が受けた損害に限られ、かつ身体・精神・文化およびその他『非物理性の損害』は一切考慮しない」という一貫した態度の現れなのです。

 第二審裁判所は、その判決が破棄されないよう、最高裁判所の方針に従っただけなのです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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