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第200回 営業秘密が侵害された際の緊急処置


ニュース 法律 作成日:2016年4月20日_記事番号:T00063675

産業時事の法律講座

第200回 営業秘密が侵害された際の緊急処置

 昨今、企業活動における営業秘密の重要性は、特許や著作権と比較しても劣らないものとなっています。特に営業秘密の侵害には具体的な緊急性が認められ、直ちに有効な方法により漏洩(ろうえい)を食い止める、または漏洩のそれ以上の拡大を防がなければ、企業にとっての損害は多大なものとなってしまいます。

 台湾では、営業秘密が侵害された際に採ることができる緊急処置として、仮処分と仮差し押さえの2種類の方法がありますが、その法律的性質と効果は異なり、また得られる結果にも差があります。

伝聞証拠で十分な場合も

 2014年10月、台湾微転(以下「微転公司」)は、源源成(以下「源源成公司」)に対して、「自行車電子変速器伺服系統(自転車用電子変速機制御システム)」の開発を委託、源源成公司は「電子変速機3D図」を完成させました。しかし源源成公司が、ある会議中に、当該3D図に示された設計内容を知的財産局に対して特許申請していると微転公司に伝えたため、微転公司は源源成公司が秘密保持契約に違反したことを理由として、将来の損害賠償請求に備え、裁判所に対して源源成公司の財産500万台湾元の仮差し押さえを申請しました。

 知的財産裁判所は同申請を認めたため、源源成公司は抗告しましたが、それに対する裁判所の判断は以下のようなものでした。

1)微転公司は、その主張する事実に関する初歩的な証拠を既に提出している。それらは全て「伝聞証拠」ではあるが、仮差し押さえを申請するには十分な程度のものである。

2)源源成公司の資産は1,400万元を超えるものであるが、負債額が950万元と高く、また、その資産の多くは流動資産であり、現金化が容易で資産隠しも容易である。そのため、仮差し押さえを行う必要性を認めることができる。

3)微転公司はすでに台中地方裁判所に対して民事・刑事訴訟を提起していることからも、請求の具体化が行われていると認められる。

 源源成公司は最高裁判所に再抗告を行いましたが、最高裁判所は16年1月に知的財産裁判所の判断を支持し、源源成公司の訴えを退ける判断を下しました。

競業禁止は有効か

 方奇才(以下「方氏」)は皇田工業(以下「皇田公司」)の元職員で、皇田公司との間で「営業秘密と競業禁止覚書」を締結していました。この覚書には、方氏が皇田公司を離職後3年以内は、皇田公司と競業関係にある企業に就職してはならないという内容が含まれていました。しかし、方氏は15年5月に皇田公司を離職後すぐに、中国・昆山にある皇田公司の競業他社である譽球模塑(以下「譽球公司」)に就職しました。

 そのため、皇田公司は台南地方裁判所に対して、方氏が譽球公司に就職することの禁止を求める仮処分を申請しました。15年9月、裁判所は仮処分の申請を受け入れ、仮処分期間を1年6月、担保金を300万元とする決定を下しました(当時方氏の年収は140万元でした)。方氏はこの決定し抗告しましたが、高等裁判所は以下のように認定し、方氏の訴えを退けました。

1)譽球公司にも自動車用カーテン以外の製品はあるが、方氏が譽球公司の自動車用カーテン部門以外の部門に就職したとしても、皇田公司との秘密保持契約に違反する可能性はある。

2)皇田公司は地方裁判所において、禁止期間の補償金を方氏に対して支払うことに同意している。つまり就職禁止の約定は有効である。

 高等裁判所のこのような決定に対し、方氏は再抗告を提起、最高裁判所は16年3月16日に原決定を破棄する判断を下しました。最高裁判所はその決定書の中で以下のような認定を行っています。

 裁判所が仮処分を認める際には、「1)申請人が当該処分によって受ける利益 2)仮処分を受けられないことによって被る損害が、相手方が処分を受けることで被る不利益または損害を超えるものであるかどうか 3)その他利害関係者の利益または法秩序の安定や平和などの公益の観点から考慮されなければならない。」本件における高等裁判所の決定は、「相手方が当該処分によって受ける利益と、仮処分が認められないことで被る損害とが、再抗告人が当該処分によって被る不利益または損害との比較」を行っていないため、速断である。

仮差し押さえを優先すべき

 上記2つの最新の案件から以下のことが分かります。

1)台湾の裁判所は仮処分の決定に対してかなり保留した態度を採っているため、知的財産権に関する仮処分申請の大部分は、許可されない。そのため、営業秘密に関する侵害事件の際には、仮差し押さえの申請を優先的に考慮すべきである。

2)仮差し押さえ申請時には同時に民事・刑事訴訟を提起するべきである。そうすることで、仮差押の正当性を主張することとなり、将来の抗告プロセスにおいて、裁判官の同意を得やすくなる。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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