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第195回 自動音声案内による株式取引システム特許に関する争い 


ニュース 法律 作成日:2016年1月13日_記事番号:T00061438

産業時事の法律講座

第195回 自動音声案内による株式取引システム特許に関する争い 

 三竹資訊(以下「三竹」)が1999年1月に特許出願し、01年7月に公告された「自動音声案内による株式取引およびオンラインサーチの方法」特許案は、それまでの自動音声案内に株式取引の機能を追加したもので、コンピューターによる自動音声案内を利用して遠隔地にいる使用者が株式の取引や、オンラインでリアルタイムで株価の問い合わせなどができるというものでした。

 12年、三竹は奇唯科技(以下「奇唯」)の株式取引データ転送システムが前述の特許を侵害しているとして、被告のシステムの使用停止と1億台湾元の損害賠償を求め、知的財産裁判所に対して訴訟を提起しました。

 知的財産裁判所の第一審判決は、被告のシステムは電話によるダイヤル操作を提供していないことを理由とし、特許の侵害はないと判断しました。三竹の控訴後、知的財産裁判所における第二審で、双方は同特許の有効性に関して激しい論争を展開しましたが、知的財産裁判所は15年5月の判決で、同特許の無効を認め、原告である三竹の訴えを棄却しました。

進歩性を否定

 本案件で被告にとって最も重要な証拠は、米国のチャールズ・シュワブグループにより93年に出版された「シュワブ・テレブローカー・サービスハンドブック」と、94年に出版された「ガイド・ツー・ユージング・テレブローカーハンドブック」でした。これら出版物には、電話での自動音声案内による株式取引システムの機能が詳細に記されていましたが、出版から月日がたち過ぎていたため、被告はそれらのコピーしか提供できませんでした。しかし被告側は、それらコピーの出どころが米国特許US 5751802号の審查書類(File Wrappers)であることを説明していました。裁判所は、出願時既に存在した「電話での自動音声案内による株式取引システム」に「インターネット型のオンライン・リアルタイム価格問い合わせシステム」を組み合わせることは特に難しいことではないと認定し、同発明の進歩性を否定しました。

コピーでも判断資料に

 原告は、被告の提出した証拠は全てコピーであるため、それらが本当に94年当時に出版されたものであるとの確証を得ることができないと主張しました。しかし、知的財産裁判所は以下のように判断しました。同証拠はコピーであるが、それは97年5月12日に公告された米国特許案US 5751802号における引用文献で、「独立した公開文献であり、かつ公開日時も同特許の公告日である98年5月12日以前である上、米国特許商標局の審査委員もそれらを検索した後に参考文献とした」のであるから、これらの文献は、係争特許請求項が有効であるかどうかを判断する先行技術資料となり得る。

 三竹はこの判断を不服として最高裁判所に上告しましたが、最高裁判所が15年12月に上告を棄却したことで、これら文献が特許法に規定のある「出願前の刊行物」または「公に知られていた」技術であることを認めることとなりました。これは、言い換えれば、前述のハンドブックが特許審査書類として扱われていたことを理由に「公に知られていた」としたのではなく、米国特許の審査記録によって、同ハンドブックが「特許公開の時よりも前に」存在していたことを認めたということです。

 過去、多くの特許侵害案件における被告は、「原告はその分野において既に公開使用されている商業化技術を、簡単に『包装し直した』だけで特許を出願した」と主張することが多くありました。しかし多くの場合、「その分野において既に公開使用されている」ことを証明できませんでした。本コラム「第176回 特許共有者は特許を無償利用可能」でも、同類の技術特許の審査文献中に50年代の技術文献を見つけ、特許無効の証拠としたことを挙げましたが、今回の案件は、類似案件における被告に対してまた一つ、新しい文献引用の方法を提供することとなりました。

 この「電話での自動音声案内による株式取引システム」特許は、01年に特許登録が認められた後、第三者により異議を提起され、訴願中に経済部により進歩性がないと判断されました。その後、筆者が訴訟代理人となり行政訴訟を提起した結果、台北高等行政裁判所は経済部の判断を取り消しました。この異議に関する手続きは07年に三竹が特許証書を取得するまで続きました。

15年1月に特許取り消し

 今回の特許侵害訴訟も4年の歳月をかけて争われました。被告は別途特許無効の訴えを提起していたため、同特許は15年1月には知的財産局によって取り消されています。しかし、もう既に「インターネット型のオンライン・リアルタイム価格問い合わせシステム」が存在するのに、「自動音声案内による株式取引システム」技術は本当に必要なものだったのでしょうか?また、12年当時、「自動音声案内による株式取引システム」を使用していた証券会社など、本当にあったのでしょうか?

徐宏昇弁護士事務所
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