ニュース 法律 作成日:2015年12月23日_記事番号:T00061108
産業時事の法律講座「Hugo Boss」はドイツ企業ヒューゴ・ボスの著名商標です。しかし、だからといって、ヒューゴ・ボスに「他者が『Boss』を含む商標を登録することを禁止できる権利」があるとは限りません。
2007年5月、「中保宝貝城BabyBoss」を経営する中保宝貝城(以下「中保」)は、知的財産局(以下「IPO」)に対して、児童遊園地および遊園地などを指定役務とした商標「BabyBossおよび図」の商標登録を申請し、登録が認められました。
一方、ドイツ企業であるHUGO BOSS Trade Mark Management GmbH & Co.KG(以下「ヒューゴ・ボス管理」)は、中保の同商標とヒューゴ・ボス管理の登録商標「Hugo Boss」、「Boss」が近似を構成しており、消費者を混交させる恐れがあることを理由に、同商標に対する無効審判を提起、IPOは12年10月に同商標を取り消す旨の査定を下しました。
これに対して中保は処分の取消を求め、知的財産裁判所に対して訴訟を提起しました。知的財産裁判所はIPOの査定を取り消す旨の判断を下しました。同案件はその後、最高行政裁判所が14年3月にヒューゴ・ボス管理側の訴えを棄却したことを受けて、IPOへ差し戻された後、14年6月にIPOが無効審判不成立の判断を下しました。これを受けてヒューゴ・ボス管理側は、行政訴訟を提起しました。
実際の使用者の権利
本件における双方の争点は以下の通りです。
1)「Hugo Boss」は著名商標だが、「Boss」も同様に著名商標か?
2)多くの「Hugo Boss」、「Boss」商標の登録者は原告(ヒューゴ・ボス管理)だが、実際の使用者はヒューゴ・ボスである。このような状況で、ヒューゴ・ボス管理は著名商標としての権利を主張することができるのか?
3)「Hugo Boss」および「Boss」が共に著名商標であるとすると、ヒューゴ・ボスの業務と無関係な産業までその保護範囲に含まれるのか?
双方による激烈な弁論を経た後、知的財産裁判所は12月3日に以下のような内容の判決を下しました。
1)「Hugo Boss」および「Boss」は共に著名商標である。
2)「原告(ヒューゴ・ボス管理)とヒューゴ・ボスグループ」は共に著名商標の権利を主張することができる。
3)しかし、「Boss」は一般名詞であり、また双方の商標の設計およびその使用範囲が異なることから、原告は中保が「Boss」を含む同商標を、児童遊園地および遊園地などを指定役務とした商標として使用することを禁止することはできない。
また、今回の知的財産裁判所の判決は、▽「Boss」の直訳は社長、リーダーなどであるのに対して、「BabyBoss」の直訳は若旦那、サブリーダーといった意味であること▽係争商標にはカラーで描かれたアニメキャラクターなどがあしらわれた設計となっていること、また、その割合も「BabyBoss」の文字よりも明らかに大きなものとなっていること──などを理由に、係争商標と「Hugo Boss」、「Boss」商標は、全体的にその近似の程度は低いと判断しました。
さらには、原告側も、「Hugo Boss」と「Boss」を服飾以外の領域で商標として使用したことがあることを証明できませんでした。裁判所は、「原告は、主催または協賛した芸文、体育活動、ファッションショーの目録、印刷物などを提出したが、それらは全て服飾関連の商品に関するものである」とし、原告が多角経営を行い、係争商標をサービスの分野においても使用していたことを認めませんでした。
実は、本件より先、13年9月の段階で知的財産裁判所は、「BabyBoss」と「Hugo Boss」、「Boss」商標間での別件の案件における判断において、中保側が「BabyBoss」を飲料・アイスクリームなどの商品に対して使用することを認めていました。同判決は、過去の行政裁判所および知的財産裁判所の見解、すなわち、「Bossの文字が入っていれば登録は不可」というものとは異なるものでしたが、15年10月には最高行政裁判所の判決による支持を得ました。
今回の判決は、知的財産裁判所の同判決に対して一歩進んだ見解を与えるものとなっています。このことからも、知的財産裁判所が今後、同様の案件に対してどのような判断をしていくのかを予想することができます。
本案の審理期間中、筆者は裁判所に対して、ドイツにおいては「Boss」を含んだ商標が数多く登録されていることを示し、「Boss」という商標が、ヒューゴ・ボスの著名商標ではないことを証明しましたが、裁判所は審判中、一貫して過去の行政裁判所の見解に固執し、「Hugo Boss」、「Boss」は共に著名商標だと認定し続けました。しかし、裁判所は最終的には、「近似を構成しない」ことを理由として、中保が「Boss」を含んた商標を服飾と関係のない役務に対して使用することを認めたわけです。このような認定方法は、言い換えれば、「Boss」の著名商標としての効果に水を差したものといえるでしょう。
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