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記事番号:T00064846
2016年6月22日16:19

 刑法における「肇事逃逸(ひき逃げ)」とは「動力を搭載した交通機関の運転者が事故を起こし、人を死傷させて逃げる」ことを指します。ひき逃げの刑罰は1年以上7年以下の有期刑と、かなり厳しいことからも、ひき逃げに対する立法者の態度がうかがえます。この「ひき逃げ」という罪が成立するためには、事故を起こした人(行為者)が死傷した人(被害者)を実際に「ひく」というような「物理的な接触」は必要とされていません。自らの危険運転により、他者を死傷させれば、それだけで、事故になるとされています。そのため裁判所において「ぶつけてない!」と抗弁をしても、受け入れてはもらえません。

 最高裁判所はこれまで多くの判決において、刑法がひき逃げという罪を設けている理由を次のように説明してきました:「運転者が事故を起こした後、即時に、被害者に対して救護を行えば、被害者の死傷の結果を軽くすることができる」ことに鑑み、行為者には、事故を起こす行為により、その場に残る義務が発生する。行為者は、その場で救護を待つか、救助に協力しなければならず、「被害者が救護された」または「被害者、警察、その他の関係者に対して偽りのない身分を告げた」あるいは「被害者の同意を得た」後でなければ、その場から離れてはならない。行為者が被害者の死傷に対して故意または過失があったかどうかは問われない。過去の判例を基に、裁判所の判断を紹介していきます。

事案1 ぶつかっていない

 呉雲天は2013年2月に大型バイクを運転中、突然車線変更し、大きく右に曲がったため、後方から来た被害者は、急ブレーキをかけ転倒した。しかし、ぶつかってはいないと判断した呉雲天はそのままその場を離れた。その後、双方の間で和解が成立したため被告人は告訴を撤回したが、呉雲天はひき逃げの罪に問われ、7カ月の有罪判決が下された。しかし、被害者と和解をしていたことから、執行猶予2年とされた。

事案2 ひかれた側に責任がある

 王玉蟬が大型バイクを運転中、スピード違反をしながら高速でUターンをしたため、後方から来た黃開偉はそれを避け切れずに接触、両者とも転倒した。王玉蟬は警察への通報を要求したが、双方のけがは軽いと判断した黃開偉は、そのまま現場を離れた。送検後、王玉蟬は告訴を撤回したが、黃開偉はひき逃げの罪に問われ、2年の執行猶予付きの有罪判決6カ月とされた。

事案3 罰金で懲役の回避はできない

 王宏鵬は13年8月に小型車を運転中、大型バイクを運転中の魏怡玲にぶつけられ、結果としてぶつけた側の魏怡玲が転倒しけがを負ったが、王宏鵬は車を降りることなく、そのまま現場を離れた。第二審裁判所は、本件事故の責任は魏怡玲にあることから、最低刑期である1年は重過ぎるとし、6カ月の有罪判決としたが、罰金を納めることで懲役を回避することを許可した。しかし、検察による上告を受けた最高裁判所は、ひき逃げは罰金刑ではないため罰金による懲役の回避はできないとして、第二審判決を取り消した。

事案4 最低刑期は1年

 薬物取締法違反の前科がある邱世凱は、13年10月に小型車を運転中、警察の職務質問から逃れるために違法にUターンをし、後方から来た李佳樺に追突され、李佳樺はけがを負った。しかし、邱世凱は停車せず、そのまま現場を去った。後に双方で和解が成立したが、裁判所は1年の有罪判決を下した。その後、邱世凱は最高裁判所に上告したが、最高裁判所は「被害者のけがの程度が軽く、和解も成立しており、また損害も賠償されているが、裁判所には最低刑期である1年の有罪判決以下の罪を下す義務はない」と判断した。

事案5 車両は停止中

 陸柏安は14年4月に小型車を信号に停止中、同小型車の性能に対する理解が不足していることを理由に、同乗していた張建業に運転を交代してもらうこととした。しかし、車両を路肩に寄せることはせずに、張建業にその場でドアを開けさせたため、林美恵がそれに追突し負傷した。

 その後、監視カメラの映像により警察に検挙された陸柏安に対して、第一審裁判所は、林美恵は軽症であること、双方に和解が成立していることなどから、最低刑期の1年でも重過ぎるとして、7カ月の有罪判決を下した。第二審と最高裁判所も同判決を支持、判決には執行猶予も、罰金による解決方法も付けられなかったため、陸柏安は服役することとなった。

事案6 無罪となった事案

 葉文燁は10年10月に大型バイクで交差点を左折する際に、前方から来た張郡茗が飲酒運転をしていたバイクに衝突された。張郡茗がその場に倒れたため、葉文燁はまず歩行者に対して警察に通報するように頼んだ後、オートバイを路肩まで押して行き停車させた。しかしその間に、道に倒れていた張郡茗は、林江波の運転する小型車にひかれ、病院に運ばれたが死亡した。

 新竹地方裁判所は、葉文燁を過失致死で10カ月、ひき逃げの罪で8カ月との有罪判決を下した。また林江波についても、過失致死で1年2カ月、ひき逃げの罪で10カ月の有罪判決を下した。葉文燁を上告を受けた最高裁判所は、ひき逃げについての有罪判決を不当として高等裁判所に差し戻したところ、高等裁判所は、交差点の監視カメラの映像を根拠として、葉文燁には「逃げる」行為も意図もなかったと判断、ひき逃げについては無罪とした。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw
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