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記事番号:T00066438
2016年9月14日16:19

 台湾の著名な造船会社であった中国造船公司は、当時の行政院長であった蒋経国氏が提唱した「国家十大建設」計画の一環として、関連サプライチェーンの発展を目的に掲げ、1973年に設立されました。そのもくろみの通り、台湾ではその後、各種の大型船が製造されるようになり、経済成長の一端を担うことができました。しかし、07年ごろから、政府は公営企業の「正式名称化」、すなわち、「中国」との関係を誤認されるような部署名、企業名を、「誤認されないような名称」に変更する政策を推し進めたため、「中国造船股份有限公司」から「台湾国際造船股份有限公司」へと名称を変更することになりました。

 中国造船公司は、名称を変更する前に、「中国造船」という名称が他社に乱用されないよう、知的財産局に対して、船舶、船舶部品、造船、海上運送などを指定商品または指定役務として、多数の「中国造船」に関する商標を登録しました。ただ、それらの商標は、ほとんどが登録されただけで使用されていませんでした。

「中国造船」を新設

 長い間中国造船公司において董事を務めていた許志堅氏は、前述の企業名変更に際する臨時株主会議において、名称の変更に反対の発言をしていましたが、企業名が変更された後の09年2月に、経済部に「中国造船股份有限公司」という名称の企業を新たに登録し、許可されました。13年4月、台湾造船公司は、同社が登録している商標と相同しているため、関連消費者を誤認させ、かつグッドウィル(のれん代)を減損させると主張し、(許氏が新設した)「中国造船股份有限公司」が「中国造船」の文字と相同または近似する企業名の中核部分を使用しないこと、およびその現在の企業名の変更を求めて知的財産裁判所に対して訴えを起こしました。

 被告は、原告は既に「中国造船」という名称を放棄していること、およびその商標も使用されていないことなどを主張しましたが、13年12月、知的財産裁判所は、原告全面勝訴の判決を下しました。被告は控訴しましたが、知的財産裁判所第二審は、以下のような理由から、第一審の判決を維持しました。

1.原告は08年に商標「中国造船」を登録したが、同商標は、登録がされる以前から、原告が所有していた著名商標であり、同著名商標は、原告が企業名を変更した後も、原告の所有に属するものである

2.原告は、企業名変更後に発行している月刊誌「台湾国際造船」において、「中国造船」の文字を使用しており、また、「®(Rを丸で囲んだマーク、登録商標マーク)」も使用している。すなわち「被控訴人は、確かに『中国造船』という著名商標を継続して使用している」

3.被告は、原告の所有する顧客は全て海運企業または海軍であり、他の消費者は存在しないため、被告の企業名が関連消費者の誤認を招くことはない、と主張しているが、商標法における「関連消費者」とは、実在するまたは可能性のある消費者だけでなく、関連商品または役務の流通に関連する人物、および関連商品または役務を経営する業者も含まれる

4.被告は、顧客のお祝い時などに「中国造船股份有限公司董事長」の名義で、「対聯(中国式の掛け軸)」を送るなどし、過去に誤認を生じる事態が発生していた。被告も原告に対して、原告が米国において「中国造船股份有限公司」の英文の略称である「CSBC」を使用しないよう、弁護士を通じて警告を行っていた。これらのことからも、「関連消費者」に誤認を与えていた事実が認められる。

 被告は第二審の判決を不服として最高裁判所に上告したが、今年6月に最高裁判所が訴えを退けたため、全案が確定しました。

中国企業との誤認は不問?

 本案から読み取れるのは「政策と経済秩序間の矛盾」という問題点です。政府の政策によって設立された「中国造船」は、確かに過去においては経済発展に寄与していましたが、中国企業の台頭により、「中国造船」という名称も、時代の需要に符合したものではなくなっていました。これに関しては知的財産裁判所の第二審判決も、原告企業は「大株主である経済部の政策に合わせる必要あり、また中国における造船企業の名称との誤認混交を避けるため、企業名を変更する必要があった」と判断していました。

 しかし、原告が企業名を変更した主な原因が、他社(中国)との「誤認混交を防ぐため」であったのであれば、被告が同じ企業名を使用することが、なぜ中国企業の企業名とではなく、原告の企業名との誤認混交を生ずると判断されるに至ったのでしょうか?判決はこの点についての説明をしていません。

「中国造船」を使えない期限は?

 今回の判決理由からは以下のことが分かります。

 原告は企業名変更後、「中国造船」という企業名を使用しているわけではないが、裁判所は「消費者権益の保護」という商標法の立法目的に基づいて、「一定の期間」内、被告が「中国造船」を企業名称の中核部分を使用しないことを命ずる権利がある。

 このことからすれば、裁判所が行うべきだった正しい判断は、説得力のない理由から、被告がその企業名を使用することを禁止することではなく、「一定の期間」とはどの程度の期間なのかを示すことでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw
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