第212回 特許の冒認出願


ニュース 法律 2016年11月9日

産業時事の法律講座

第212回 特許の冒認出願

記事番号:T00067322

 陳栢輝氏は2008年に自らの発明特許を改良した「圧縮空気のろ過清浄装置の改良構造」により実用新案特許を取得しました。その後09年初めには、金六角印有限公司と共同で金豊節能科技股份有限公司を設立、同空気清浄機を生産し始めました。同社の董事長には陳氏、董事には金六角印の施俊嘉氏が就任しました。

 金豊では、製造コストの削減のため、清浄機の材質をプラスチックに変更することを決め、プラスチック加工の知識のある施氏に、金型の開発と代理加工を行う業者を探すことを委託しました。施氏は介昇豊企業社に対して陳氏の設計に基づいて図面を引き、金型を作成することを依頼、最終的には同金型を使って金六角印が代理加工を行うこととなりました。

 しかし、施氏は13年3月に金型の図面を知的財産局に対して実用新案として申請、同年7月にM456412号「空気圧縮ろ過清浄結構」という実用新案を取得してしまいました。また、施氏は事態発覚後、同年12月には、彰化地方裁判所検察署に対して「陳氏らが金豊の登記資本額を6,000万台湾元と偽ったため、騙されてその10分の1に当たる600万元を支払った。しかし、実際には500万元のみが実際に受領された資本額として登記された」として刑事告訴を行いました。しかし、検察は、500万元のみが登記されたことについては、全ての株主の同意が得られている事項であることを理由に、不起訴処分としました。

 この結果を受け、陳氏および金豊は同じく彰化地方裁判所検察署に対して刑事告訴を提起、施氏の行った特許の冒認出願および虚偽告訴についての刑事責任を追及しました。検察は施氏を以下の罪名で起訴しました。

1.特許の冒認出願について

 営業秘密妨害、背信、他者著作の無断複製、および公務員に不実の内容を記載させた罪など

2.虚偽告訴について

 虚偽告訴および偽証罪など

冒認出願と虚偽告訴に有罪判決

 彰化地方裁判所は15年7月の判決で、検察官の起訴した罪名は全て成立すると判断、冒認出願については、営業秘密妨害罪で6カ月の有罪判決、虚偽告訴罪については4カ月の有罪判決とし、後者は罰金刑への換算も許されませんでした。

 被告はこれを不服として控訴、第二審である知的財産裁判所は16年3月の判決で、以下のような認定を行いました。

1.特許の冒認出願について

 背信罪および公務員に不実の内容を記載させた罪により、5カ月の有罪

2.営業秘密妨害および他者著作の無断複製について

 合法な告訴がなされていないため、公訴不受理

3.虚偽告訴について

 原判決維持

 また、知的財産裁判所は判決の中で以下のように述べています。

1.台湾の公司法(日本の会社法に相当)には、企業と董事の間で行われる訴訟については、株主総会により選出された代表者の他、監査人が同企業を代表してそれを行うとの規定がある。そしてここでいう「訴訟」には刑事訴訟も含まれる。本案件において、金豊が告訴を提起した当時、施氏は同社の董事であり、董事長であった陳氏により刑事告訴がなされたわけだから、金豊の告訴は公司法の規定に違反しており、不合法な告訴と言わざるを得ない

2.検察官は控訴の際、「陳氏は第一審において、本案における金型図面は陳氏自身の営業秘密であるとした」「陳氏は本人名義でも告訴を行った」「そのため、秘密妨害罪についての告訴は不合法ではない」との主張をしているが、陳氏は、告訴を提起した時点では、施氏が個人の営業秘密を侵害したことを挙げておらず、また、検察官についても起訴の際に施氏が金豊の営業秘密を侵害したと主張した。このことから、陳氏は施氏が個人の営業秘密を侵害したことについての訴えは行っていないものと判断する

3.著作権法に関する部分については、本件空気清浄装置は、陳氏の設計によるものであるが、その図面は介昇豊によって完成されたのであるから、介昇豊が著作者である。一方で、介昇豊と金豊には、著作権契約が締結されていないことに鑑みると、著作権法の規定により、同著作の著作権は介昇豊に帰属するものであり、金豊はその利用権を取得したにすぎず、著作財産権は取得していない。従って、施氏が同図面を複製し、実用新案の申請を行ったという行為は、金豊の著作権を侵害するものではない

 検察側と施氏は、共にこの判決を不服とし、最高裁判所に上告したが、最高裁判所は知的財産裁判所の判断を支持、今年9月29日に判決により双方の上告を棄却、これにより全案件が確定した。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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