第213回 保護的仮処分


ニュース 法律 2016年11月23日

産業時事の法律講座

第213回 保護的仮処分

記事番号:T00067590

 特許権、商標権、著作権などの権利者が、自らの権利が他者に侵害されていることを発見した場合、通常は裁判所に対して訴訟を提起し、その保護を求めます。しかし一般に、裁判所による訴訟では執行力を有する判決を得るまでに長い時間が必要となるため、もし裁判所の判決が確定する前または判決が出る前に相手方の侵害を強制的にやめさせたい時は、裁判所に対して「暫定的な状態を定める仮処分」(日本では「仮の地位を定める仮処分」)を求めることができます。

 暫定的な状態を定める仮処分とは一種の暫定的な処置で、裁判所から当事者に対して即時の作為または不作為を求めることで、申請者の請求を満足させるというものです。知的財産権の侵害事件においては、被告の侵害行為の即時停止を求めるというのが一般的です。このような処分の申請に際しては、▽自らが権利者である▽相手方の侵害行為が既に存在する──のほか、

1.自らが勝訴する可能性

2.仮処分が認められない場合、重大な損害、または切迫した危険が発生する

についても証明する必要があります。

 台湾の各裁判所における知的財産権をめぐる係争案件において、暫定的な状態を定める仮処分が認められることは少ないのが現状です。では、もし侵害したとされる側(「侵害側」、一般には「被告側」)が権利者による裁判所に対する仮処分や税関に対する差し押さえの申請、またはそれに似た各種「妨害行為」を防ごうとする場合、どのような方法があるでしょうか。

ドイツの保護状と相違

 権利者による裁判所に対する仮処分の申請による「侵害の排除」を防止する方法として、ドイツではいわゆる「保護状(Protective letter)」方式が採択されています。外国の業者がドイツでの展覧会などに参加する際、ドイツにおける競業他社が発明特許、実用新案、意匠登録などの権利によって裁判所に対して仮処分を申請することが予想される場合、同業者は弁護士を通じて、自らの製品がドイツにおける競業他者の権利を侵害していないことを説明する旨の保護状を作成し、裁判所に提出しておくことができます。もし権利者が同権利に対する仮処分を裁判所に申請した場合、裁判所は被告(本例では外国の業者)の弁護士を呼び、説明意見を求めなければなりません。しかし通常、法廷が開かれた段階で、同外国業者の目的である展覧会は終了しています。

 台湾では、1988年から保護的仮処分という手段が設けられましたが、ドイツとは異なり、「特許権者が裁判所に対して、判決確定までの間、被告による侵害を即時に禁止するよう求めることができるのであれば、被告側も同様に裁判所に対して、判決確定までの間、特許権者が被告の侵害を受け入れることを求めることができる」という荒唐無稽なものでした。しかし台湾の裁判所は、このような考えの下、30年間にわたって数多くの保護的仮処分を下してきました。

斟酌して判断?

 2015年9月、東峯紡織股份有限公司(Waytex Group)は、知的財産裁判所に対して、▽華慶国際科技有限公司(HCT)の弁護士から内容証明の手紙を受けた▽同内容証明の手紙の中で東峯の使用しているポリ塩化ビニル(PVC)繊維の製糸方法が、華慶の第I332041号発明特許「原紗披覆押出包紗法(糸の表面を押し出し法で包み込む方法)」を侵害しているとされた▽特許権者である蔡街氏が裁判所に訴えを提起し、1億5,000万台湾元の損害賠償を請求した▽原告が裁判所に対して仮処分を申請する恐れがあることなどを理由とし、かつ自らが侵害をしていない旨の鑑定書も提出し、特許侵害訴訟の判決が「確定するまでの間、原告は東峯によるPVC繊維の輸出、運送、販売、散布、陳列、加工、選別、ライセンス、生産、製造を容認し妨害もしくは干渉することはできない」──と主張しました。

 知的財産裁判所第一審は、「勝訴の可能性が高くない」ことを理由として、訴えを退けました。その後、東峯は抗告を行いましたが、同裁判所は16年2月に以下のような理由から訴えを退けました。

1.特許権者である蔡街氏は本案訴訟以外に、何らの妨害や干渉行為も行っていないため、仮処分が認められない場合、東峯に重大な損害、または切迫した危険が発生する可能性があることは証明されていない

2.蔡街氏が本案訴訟判決確定以前に、仮処分申請をするかどうかについては不確定な事実であることから、東峯はその不確定な事実に基づいて重大な損害、または切迫した危険が発生すると主張することはできない

3.もし蔡街氏が後に仮処分を申請した場合、裁判所は東峯が本案において主張した理由を斟酌(しんしゃく)して判断を行う

 この判断を不服とした東峯は再抗告を提起しましたが、最高裁判所は今年11月3日に訴えを退ける判断を下しました。一方、蔡街氏が提起していた1億5,000万元の特許侵害に関する民事訴訟については、今年4月26日に、東峯の製紗方法は蔡街氏の特許権を侵害するものではないとの理由により、知的財産裁判所により訴えが退けられました。

仮処分の申請を禁止できず

 本案件において、知的財産裁判所第二審が訴えを退けた理由にある「裁判所は…斟酌して判断を行う」という点からも、台湾における保護的仮処分の荒唐無稽さを見て取ることができます。保護的仮処分の荒唐無稽な点は、この種の裁定では、特許権者による仮処分の申請を全く禁止することができない点にあります。なぜなら、仮処分の申請は知的財産権者の基本権利であるため、何人もその権利を奪うことはできないからです。ですから、この種の裁定の主要な意義は、同裁判所または他の裁判所が権利人の仮処分請求を禁止することにあります。しかし、同裁判所または他の裁判所がその判断の拘束を受けるかどうかについては、法には何らの規定も設けられていません。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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