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第217回 親子間の扶養義務 


ニュース 法律 作成日:2017年1月25日_記事番号:T00068726

産業時事の法律講座

第217回 親子間の扶養義務 

 台湾民法1084条には、父母は、未成年の子に対して保護および教育・養育を行う権利・義務があるとの規定が、同法1114条には直系血族間ではお互いに扶養の義務を負うとの規定がそれぞれ設けられています。

 これらの規定により、子が成人した後に生活を営んでいくことが難しい場合には、父母は引き続き扶養の義務があり、反対に、父母側が生活を営んでいくことが難しい場合には、子はその扶養の義務を負うことになります。

扶養料の返還請求

 歯科医師である朱筑勝氏(以下「父方」)の妻であった羅明珠氏(以下「母方」)は、自らの出資により、「朱歯科医院」を経営していましたが、2人は1990年に離婚、父方は別途「全家歯科医院」を開設しました。

 97年5月、母方は、息子である朱育正氏と朱育德氏との間で、「母方は2人を養うためにすでに5,000万台湾元出費した。そのため、2人の子は自らの力で生活ができるようになった後、返金総額が5,000万元になるまで、収入の純利益の60%を母方に対して返金し続けなければならない。ただし、もし2人の結婚相手が母方の目にかなったものである、または2人の結婚相手が親孝行であるなどの事情がある場合、それらの事情を斟酌(しんしゃく)し、返金金額が減額される」との内容の契約を締結しました。

 この契約を締結した際、朱育正氏(以下「朱氏」)は20歳で、歯科医師学部2年生でした。朱氏は02年に大学を卒業後、母方の朱歯科医院に就職、03年に歯科医師免許を取得しました。しかし08年に父方の全家歯科医院に転職、11年には自ら歯科医院を開設しました。これを不満とした母方は、09年7月、朱氏に対して、前記契約に規定されている2,500万元の扶養費用の返金を求める訴訟を提起しました。

 第一審の新竹地方裁判所は、「法律行為の解釈は、当事者の欲する目的、任意法規、および信義誠実の原則を基準とし、合理的に解釈するべきである」とした上で、母方が朱氏に対して返金を求めているのは「立替費用」で、母方は朱氏の就学期間に支払った膨大な費用の返金を求めているが、その内の学費・雑費および一般水準の生活費のみ返金を求めることができると判断しました。精査の結果、裁判所は朱氏に対して、178万元を母方に返金することを命じる判決を下しました。

協議書は無効?

 母方はこれを控訴しましたが、台湾高等裁判所は以下のように判断し、母方の訴えを退けました。

 「双方の締結した協議書は、朱氏らが成人した後に、5,000万元もの債務を負担させるという内容であることから、親子間における通常の関係ばかりか、民法親族篇における扶養制度の規定からも逸脱したものであり、国家社会の一般利益および道徳観念に反するものである。したがって、同協議書は公序良俗に反し、無効である。」

 朱氏は控訴をしなかったため、第一審で判断された178万元に関しては判決が確定しました。

 母方は高等裁判所の判断を不服として、最高裁判所に上告、最高裁判所は以下のような理由から、14年10月に原判決を破棄しました。

1.法律行為が公序良俗に違反しているとは、法律行為の目的(物)、すなわち法律行為の内容が、社会秩序、道理、法則または社会道徳と相容れない関係にあり、社会的妥当性を欠いている、または、反社会性のある動機が表現されることで法律行為の目的(物)の一部となっている、あるいはそれと結合した法律行為が反社会行為を実現させる具体的危険性を含んでおり、かつ、相手側がそれを予見することが可能である状況を指している

2.審判を行う裁判所は、法律行為の無効を判断するにあたり、法律行為の内容、それに付随する状況、当事者の動機、目的などが、法律行為当時の空間・環境における秩序、道理、法則、道徳観念、および社会妥当性に即したものであるかどうかを斟酌するだけでなく、法律行為の内容が、生存権などの基本的権利に関係する場合は、当事者の一方が、経済、学識、経験などにおいて圧倒的に劣勢になってはいないか、または同法律行為の成立が同基本的権利に重大な損害を与えることで社会性に反することとなる、などの関連要素を考慮に入れ、総合的に判断しなければならない

 本案は台湾高等裁判所に差し戻された後、16年12月、台湾高等裁判所は以下のような理由から、朱氏に対して、母親に2,500万元を支払うことを命じる判決を下しました。

 「双方が本契約を締結した当時、朱氏はすでに成人であったことから、独立して有効な法律行為を行うことができる完全行為能力を有していた。母方は、契約当時、詐欺、暴力、または脅迫などの行為によって契約をさせたものではない。被控訴人(朱氏)は、自らの知識・能力に基いて、同協議書の内容を理解し、その自由意志により、契約を締結するかどうかを決定したわけである。したがって同協議書は公序良俗に反するものではない。」

論点のすり替え

 本案は、「司法が怠け者である」という、台湾における特殊な現状を色濃く反映した案件となっています。本案における協議書は、明らかに母方が、「父方に裏切られたこと対する憎しみ」を子供に転嫁したことで具現化した「不合理」な契約でしたが、双方の行った協議そのものは、「公序良俗」に違反するようなものではありませんでした。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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