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第222回 オンラインゲームにおけるアイテムの窃盗


ニュース 法律 作成日:2017年5月10日_記事番号:T00070469

産業時事の法律講座

第222回 オンラインゲームにおけるアイテムの窃盗

 遊戯新幹線(ゲーム・フライアー)のオンラインゲーム「新仙境伝説」のユーザーだった劉禹辰氏は、2012年2月に同オンラインゲームのサーバーにアクセスし「商人系」のキャラクターを制作後、「オンラインした際に『手押し車』の中にあるアイテムをキャラクターの『荷物袋』の中に移し、代わりにキャラクターの『荷物袋』の中にあるアイテムを地上に置いて」からオフラインし、オンラインする行為を繰り返しました。これにより負担がかかったサーバーはダウンし、劉氏が再度アクセスした際には、「手押し車」の中に「荷物袋」の中に移したアイテムが出現し、「荷物袋」の中に移したアイテムもそのまま残っている、つまり1つしかなかったアイテムが2つに増えているというバグが発生しました。その後、劉氏はこのバグを利用し、アイテムを増殖し続けました。

 警察への届け出を受け、検察は劉氏を刑法第359条「無故変更電磁紀録(電磁気記録の無許可変更)」罪、および第360条「無故以電腦程式干擾他人電脳或相関設備(プログラムによって他者のコンピューターまたは関連設備に干渉した)」罪の疑いで起訴しました。

バグか裏ワザか

 台湾桃園地方裁判所は15年7月、被告人を無罪とする判決を下しました。その理由は以下のようなものでした。

1.実際の観測を行ったところ、本件「新仙境伝説」は確かに、アイテムを「手押し車」から「荷物袋」に移した後、アイテムを1つ地上に置き、システムがダウンしてから再度ログインすることで、「手押し車」と「荷物袋」の両方にアイテムが入っているという「バグ」が存在していることが確認された

2.被告人のアカウントログによると、被告人は確かに、「アイテムを手押し車に置く」および「手押し車のアイテムを荷物袋に入れる」という動作を繰り返していた。また、被告人のアカウント内のアイテム数も、これによって増加していた

3.ただ、サーバーが不安定となりダウンすることは誰でも予測、コントロールできるものではない。告訴人は被告人が「外部プログラム」を使用してサーバーをダウンさせたと疑っているが、本案においては被告人が「外部プログラム」を使用してサーバーをダウンさせたことを証明できる証拠は提出されていない。

 たとえ被告人がそのようなプログラムを使用してゲームを操作をしていたとしても、それだけでは「被告人の使用していた『外部プログラム』がサーバーに負担をかけたことによってサーバーがダウンした」ことの証明とはならない

4.また、ゲームプログラムの中に「バグ」があることはよくある。一部のゲームにおいては、そのような「バグ」はプログラム設計者によってゲーマーのために故意に残されたゲームの一部分であり、ゲーマーはそれを発見して利用することによってゲームをより楽しむことができる。そのため、このような「バグ」はゲーマーからは「裏ワザ」と称される。

 本件における「バグ」は、ゲーマーからすれば、それが「プログラム設計者がわざと残した『裏ワザ』なのか、偶然に残ってしまったプログラム上の『ミス」なのか」の区別することができない

5.つまり、被告人がこのような『バグ』を発見し、利用したことは、ゲーム上で許されていたことと考えられ、「無許可」で電磁気記録を変更したとはいえない。また、被告人が外部プログラムを利用してサーバーをダウンさせたことも証明されていないから、被告人は何らの「干渉行為」も行っていない

アイテム複製はゲーム規則違反

 検察はこの判決を不服とし、台湾高等裁判所に対して控訴しました。裁判所は16年3月に判決で、本件において検察が起訴した対象行為は、磁気的記録である「アイテム」の「複製」であり、また、ゲームソフトはコンピュータープログラムなので、「磁気的記録は著作権保護の範囲にある」ことを理由に、本案が知的財産裁判所の管轄案件であり「管轄錯誤」であると判断、本案を知的財産裁判所に移送しました。

 ところが、知的財産裁判所は16年5月、「管轄錯誤」を理由に、再度台湾高等裁判所に案件を移送しました。その理由は以下のようなものでした。

1.新仙境伝説の管理規則には「ゲームプログラムに存在するバグを利用してゲーム上の利益を得る」ことを禁止する規定が設けられている。被告人がアイテムを複製した行為は「正当な理由がないため、電磁気記録の無許可変更行為に当たり」、「それがアイテムを得るという結果を生むかどうかにかかわらず、偶発的結果とはいえない」

2.ゲームプログラム中に、本来存在しないアイテムの磁気的記録を「複製」した場合、同アイテムはサーバー内に存在するわけであるから、それは「磁気記録の変更」に当たり、「コンピュータープログラムの複製」には当たらない

3.本案は著作権とは無関係であるため、知的財産裁判所に管轄権は認められない

 検察の上告を受けた最高裁判所は、今年3月に上告を却下し、本案を台湾高等裁判所に差し戻しました。

 ただ、知的財産裁判所は本案の実質的な問題に対して、「アイテムを複製する行為は『電磁気記録の無許可変更』に当たり、刑事罰を受ける」との判断を行っているため、今後、台湾高等裁判所は同見解を支持するものと思われます。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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