ニュース 法律 作成日:2017年5月10日_記事番号:T00070469
産業時事の法律講座遊戯新幹線(ゲーム・フライアー)のオンラインゲーム「新仙境伝説」のユーザーだった劉禹辰氏は、2012年2月に同オンラインゲームのサーバーにアクセスし「商人系」のキャラクターを制作後、「オンラインした際に『手押し車』の中にあるアイテムをキャラクターの『荷物袋』の中に移し、代わりにキャラクターの『荷物袋』の中にあるアイテムを地上に置いて」からオフラインし、オンラインする行為を繰り返しました。これにより負担がかかったサーバーはダウンし、劉氏が再度アクセスした際には、「手押し車」の中に「荷物袋」の中に移したアイテムが出現し、「荷物袋」の中に移したアイテムもそのまま残っている、つまり1つしかなかったアイテムが2つに増えているというバグが発生しました。その後、劉氏はこのバグを利用し、アイテムを増殖し続けました。
警察への届け出を受け、検察は劉氏を刑法第359条「無故変更電磁紀録(電磁気記録の無許可変更)」罪、および第360条「無故以電腦程式干擾他人電脳或相関設備(プログラムによって他者のコンピューターまたは関連設備に干渉した)」罪の疑いで起訴しました。
バグか裏ワザか
台湾桃園地方裁判所は15年7月、被告人を無罪とする判決を下しました。その理由は以下のようなものでした。
1.実際の観測を行ったところ、本件「新仙境伝説」は確かに、アイテムを「手押し車」から「荷物袋」に移した後、アイテムを1つ地上に置き、システムがダウンしてから再度ログインすることで、「手押し車」と「荷物袋」の両方にアイテムが入っているという「バグ」が存在していることが確認された
2.被告人のアカウントログによると、被告人は確かに、「アイテムを手押し車に置く」および「手押し車のアイテムを荷物袋に入れる」という動作を繰り返していた。また、被告人のアカウント内のアイテム数も、これによって増加していた
3.ただ、サーバーが不安定となりダウンすることは誰でも予測、コントロールできるものではない。告訴人は被告人が「外部プログラム」を使用してサーバーをダウンさせたと疑っているが、本案においては被告人が「外部プログラム」を使用してサーバーをダウンさせたことを証明できる証拠は提出されていない。
たとえ被告人がそのようなプログラムを使用してゲームを操作をしていたとしても、それだけでは「被告人の使用していた『外部プログラム』がサーバーに負担をかけたことによってサーバーがダウンした」ことの証明とはならない
4.また、ゲームプログラムの中に「バグ」があることはよくある。一部のゲームにおいては、そのような「バグ」はプログラム設計者によってゲーマーのために故意に残されたゲームの一部分であり、ゲーマーはそれを発見して利用することによってゲームをより楽しむことができる。そのため、このような「バグ」はゲーマーからは「裏ワザ」と称される。
本件における「バグ」は、ゲーマーからすれば、それが「プログラム設計者がわざと残した『裏ワザ』なのか、偶然に残ってしまったプログラム上の『ミス」なのか」の区別することができない
5.つまり、被告人がこのような『バグ』を発見し、利用したことは、ゲーム上で許されていたことと考えられ、「無許可」で電磁気記録を変更したとはいえない。また、被告人が外部プログラムを利用してサーバーをダウンさせたことも証明されていないから、被告人は何らの「干渉行為」も行っていない
アイテム複製はゲーム規則違反
検察はこの判決を不服とし、台湾高等裁判所に対して控訴しました。裁判所は16年3月に判決で、本件において検察が起訴した対象行為は、磁気的記録である「アイテム」の「複製」であり、また、ゲームソフトはコンピュータープログラムなので、「磁気的記録は著作権保護の範囲にある」ことを理由に、本案が知的財産裁判所の管轄案件であり「管轄錯誤」であると判断、本案を知的財産裁判所に移送しました。
ところが、知的財産裁判所は16年5月、「管轄錯誤」を理由に、再度台湾高等裁判所に案件を移送しました。その理由は以下のようなものでした。
1.新仙境伝説の管理規則には「ゲームプログラムに存在するバグを利用してゲーム上の利益を得る」ことを禁止する規定が設けられている。被告人がアイテムを複製した行為は「正当な理由がないため、電磁気記録の無許可変更行為に当たり」、「それがアイテムを得るという結果を生むかどうかにかかわらず、偶発的結果とはいえない」
2.ゲームプログラム中に、本来存在しないアイテムの磁気的記録を「複製」した場合、同アイテムはサーバー内に存在するわけであるから、それは「磁気記録の変更」に当たり、「コンピュータープログラムの複製」には当たらない
3.本案は著作権とは無関係であるため、知的財産裁判所に管轄権は認められない
検察の上告を受けた最高裁判所は、今年3月に上告を却下し、本案を台湾高等裁判所に差し戻しました。
ただ、知的財産裁判所は本案の実質的な問題に対して、「アイテムを複製する行為は『電磁気記録の無許可変更』に当たり、刑事罰を受ける」との判断を行っているため、今後、台湾高等裁判所は同見解を支持するものと思われます。
徐宏昇弁護士
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