ニュース 法律 作成日:2017年7月12日_記事番号:T00071641
産業時事の法律講座台湾の裁判官は通常、判決を下す前に、当事者に対して自らの考えを述べることはまずありません。本来であれば、裁判官が「心証を公開」をすることで、当事者は立証が十分でない部分の立証を強化し、事実および法律関係をより明らかにできるのですが、残念なことに、ほとんどの裁判官は「心証を公開」しません。そのため、多くの場合、当事者は判決が下された際、裁判官から「不意打ち」を受けたように感じ、判決を不服とし、控訴や上告をすることになるのです。
台風被害予防措置の責任
本案の原告となったのは、嘉義県布袋鎮のサバヒー(虱目魚)、エビ、カニなどの養殖業者です。被告となったのは、嘉義県布袋鎮役場です。被告は、近くにある嘉義県布袋鎮三溝仔排水機場南側CBG-005号水門の管理を行っていましたが、同水門は2010年8月に損壊後、修理が行われない状態で放置されていました。
原告は、被告が11年8月の台風11号(アジア名・ナンマドル)の前に水門を修理しておらず、また内水排除を行うためのポンプや、十分な土嚢(どのう)の設置など、何らの予防処置もしなかったため、台風により海水が流れ込んだ結果、水面の高さが養殖池の堤防の高さを超え、原告が養殖していた魚などが外へ逃げ出し損害を受けたとし、国家賠償法の規定により、被告に対し200万台湾元余りの損害賠償を求めました。
第一審の嘉義地方裁判所は、被告に損害の賠償を命じましたが、被告はこれを控訴しました。第二審の台湾高等裁判所台南分院は原告の請求を退ける判決を下し、被告が係争水門の管理人であるにもかかわらず、その修復を怠ったことには過失があるとしながらも、以下のような理由から、被告の責任を認めませんでした。
1.11年8月の台風期間中の1日の降雨量は110.5ミリ、潮の高さ(潮位)は最高で172センチで、その年の最高潮位だった。一方、10年9月の台風11号(アジア名・ファナピ)期間中の1日の降雨量は132.5ミリで、最高潮位は119センチであったにもかかわらず、近隣地区においては何らの災害も発生しなかった
2.11年8月の台風期間中、被告は水門前に土嚢を積み上げていたが、近隣地区は浸水被害を受けた。
これらの事実により、今回の台風においては「降雨と満潮の相互作用があったことに鑑めば、係争水門は外海に連結しているため、水門を全て土嚢で塞いだとしても、用水路の水位は上がり続け、近隣の養殖場は同様に決壊した」と考えられる
3.今回の台風と10年9月の台風11号の、降水量と潮位を比べると、「水位に対する影響は、降雨量よりも潮位の方が大きいため、水門の損壊は、近隣地区の浸水を必然的に引き起こした『不可欠の条件』であるとはいえない」
4.したがって、原告の養殖場が浸水し、決壊したことは、台風に伴う豪雨と、高潮位の相互作用と関連しており、不可抗力の自然災害であるといえ、係争水門が損壊していたことによる控訴人の管理上の過失とは相当因果関係は認められない。
証拠を補強する機会を
この判決を不服とした原告は上告しました。最高裁判所は原判決を破棄し、案件を高等裁判所に差し戻す判決を下しました。その理由は以下のようなものでした。
1.裁判所の判決は経験則に従ったものでなければならないが、「経験」には「通常経験」と「特別知識経験」の2種類があり、そのうち後者は「一般人が日常生活において知り得るもの」ではなく、「特殊な知識と経験によりはじめて認識、体感できるものであるため、その証拠調査プロセスにおいても厳格な証明が必要とされるだけでなく、双方当事者による弁論を経て、はじめて判決の基礎とすることができる」
2.裁判官は証拠を調査する前に、当事者に対してその争点を明らかにしなければならない。第二審裁判所が被控訴人を敗訴とする判決を下すには、その立証が不十分であったこと知らしめ、証拠を補強する機会を与えなければならない。これにより「第一審に勝訴した当事者が、第一審で採用され自らに有利な判断を得た立証内容について、さらなる事実上または法律上の補充を行う陳述、立証を行うことができる」
3.原判決は各台風における1日の降雨量、累計降雨量、最高潮位などの「相乗効果」と、上告人の養殖池に対する浸水の関係を述べているが、第一審で勝訴した当事者に対して、その立証が十分ではなかった可能性について説明しておらず、また原告には鑑定を申請する機会があることについても触れずに、「自ら特殊な知識と経験が必要な領域について判断した」ことは誤りである。
本案件は台湾高等裁判所台南分院に差し戻された後、被告の控訴を退ける判決が下されました。判決の中で裁判所は以下のように判断しました。
水門には防水作用があり、排水機場には内水排除の作用がある。鎮役場は係争水門が早い段階で損壊し、使用できない状態になっていたことを知りながら、台風が来ていたにもかかわらず、係争水門前に土嚢を積んだだけで、内水排除を行うためのポンプの設置や、市民の損失を低く抑えるための予防処置を採らなかった。そのため、原告の受けた損害と、同管理上の過失には相当因果関係が認められる。
徐宏昇弁護士
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