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第228回 商標の譲渡には董事会の決議が必須


ニュース 法律 作成日:2017年8月9日_記事番号:T00072195

産業時事の法律講座

第228回 商標の譲渡には董事会の決議が必須

 喜美旅行社、喜泰旅行社および華泰旅行社は、それぞれ独立した3社の株式会社ですが、長期にわたる協力関係にあったため、自らを「集団(グループ会社)」と呼称していました。2012年5月、同グループは喜泰旅行社の売却を決め、喜泰旅行社の董事長である黃文桂氏は、もともと3社で共用していた喜泰旅行社の登録商標第53644号「折り鶴商標」を喜美旅行社に譲渡、登録を完了しました。喜美旅行社はその後、12年7月に同「折り鶴商標」を「華泰旅遊」商標と合併させ、登録商標第1567191号として登録しました。

 13年初め、喜美旅行社は、喜泰旅行社と華泰旅行社が登録商標第1567191号を侵害していると主張。両社に対して、▽新聞への謝罪説明広告の掲載▽同商標をプリントしている小切手の回収▽損害賠償──などを求めて、民事訴訟を提起しました。この訴えに対し喜泰旅行社は即時に民事訴訟を提起し、同社の折り鶴商標を喜美旅行社に譲渡する件については董事会の決議を経ていないため無効であると主張し、同折り鶴商標の返還と、使用の差し止めを求めました。

 喜美旅行社からの訴えに対して、知的財産裁判所は13年3月25日に以下の理由から、その訴えを退ける判決を下しました。

1.喜美旅行社の提出した証拠では、喜泰旅行社が11年12月19日に臨時董事会議を開催し、かつ「折り鶴商標」を喜美旅行社に対して譲渡することに全会一致で同意したことは証明できない。従って、同商標は現在も喜泰旅行社の所有となる

2.登録商標第1567191号は、折り鶴商標を含んでおり、消費者に同商標は喜泰旅行社を代表すると誤認させる恐れがあるため、喜美旅行社によって登録されるべきではない。このため喜美旅行社は、喜泰旅行社によって商標を侵害されたと主張することはできない

互いに商標使用を認めていたと判断

 この判決とほぼ同時期の13年4月11日、知的財産裁判所の別の法廷において、喜美旅行社に対して、折り紙商標を喜泰旅行社に譲渡すること、および同商標の使用を禁止することを命じる判決が下されました。同判決の理由も、前記の判決同様、喜泰旅行社が11年12月19日に開催したとした臨時董事会議が存在しなかったことにありました。

 喜美旅行社は13年3月25日の判決を控訴しましたが、知的財産裁判所第二審は、15年7月に控訴を棄却する判決を下しました。理由は以下のようなものでした。

1.折り鶴商標の譲渡が不合法なものであるとしても、同商標は登録上は喜美旅行社の商標であるため、公衆がそれらを混交するという問題は存在しない

2.喜泰旅行社は折り鶴商標を小切手上に印刷しているが、小切手の使用は商標の使用ではない

3.過去、3社は折り鶴商標を3社のサービスに対して使用していた。また、喜美旅行社が商標権を取得した後も、喜美旅行社が印刷したカレンダーには3社の名称が印刷されていたこと、さらには、喜泰旅行社がその後設立させた支社の名称も記載されていたことから、3社はお互いに商標のライセンス使用を認めていた事実が見て取れ、それは商標権の移譲によっても何ら変わるところがないものである

 喜美旅行社はこれを最高裁判所に上告しましたが、最高裁判所は16年12月に訴えを退けたため、判決は確定しました。

 一方、喜泰旅行社からの、商標の返還を求める訴えについては、知的財産裁判所第二審は、15年6月に以下のような理由から、喜泰旅行社の訴えを退ける判決を下しました。

1.会議記録から、喜泰旅行社における11年12月19日の臨時董事会議が虚構なものではないことが証明できる

2.喜泰旅行社の当時の董事および監査役を尋問したところ、折り鶴商標の喜美旅行社への譲渡は、董事および監査役の一致した意見だったことが分かった

3.同商標の譲渡には対価がなかったが、当時両社の株主が完全に一致していたという事実、およびグループが喜美旅行社を売却する目的からすれば、対価がなかったことも不合理なことではない

形式要件も必要と判断

 しかし、喜美旅行社の上告を受けた最高裁判所は、17年7月に原判決を破棄し、案件を原審に差し戻しました。最高裁判所は判決の中で、▽知的財産裁判所による喜泰旅行社の当時の董事、監査役の訊問においては、多くの董事、監査役が会議をしたかどうか、会議の議題が何であったかを忘れたとしている▽そのうちの一人に至っては敗血症による高熱で頭がぼんやりとしており、会議には行ったが何の会議だったのか覚えていないと証言している──とした上で、最高裁判所は「董事長の対外的な法律行為は、董事会の決議を経ていない、または決議に瑕疵(かし)があり、かつ取引の相手方がその状況を知っていた場合には、同法律行為は会社に対して効力を発しない」とし、本案は知的財産裁判所によるさらなる調査の後に判決が下されるべきであると判断しました。

 本案における知的財産裁判所第二審の判決は、台湾における中小企業の実態に合ったものでしょう。しかし、最高裁判所は法律の規定による形式要件も満たしていなければならないと判断したわけです。多くの企業は業務上の便宜を図ることをよしとしていますが、法律上は、規定に基づいた形式を順守する必要があるということが本案からも分かります。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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