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第229回 商品の外観を企業のシンボルとした事例


ニュース 法律 作成日:2017年8月23日_記事番号:T00072453

産業時事の法律講座

第229回 商品の外観を企業のシンボルとした事例

 長期間にわたり大量に、ある外観の商品を使い続けることで、同外観が特定の企業の表徴(シンボルマーク・ロゴ)となり、商標(立体商標)に類似した保護を受けるようになる場合があります。2016年3月の本コラム第199回 ドイツにおける商品の外観模倣(https://www.ys-consulting.com.tw/news/63165.html)でも、商品の外観が事業の表徴になると判断したデュッセルドルフ地方裁判所の判決を紹介しました。

リモワのリブ加工

 ドイツのスーツケースメーカーRIMOWA GmbH(以下「リモワ社」)は1950年からスーツケースの表面にいわゆる「リブ加工(スーツケースの表面を加工することで凹凸の線を浮かび上がらせる加工)」を施し、同社スーツケースのシンボル的な存在としています。同スーツケースが台湾でよく売れていることに目を付けた台湾企業数社が、同社スーツケースと外観が近似しているスーツケースを製造し、台湾の市場で販売していたことに対し、リモワ社は15年、消費者が被告らの商品をリモワ社のものと誤認すると主張し、これら台湾企業に対して民事訴訟を提起し、被告らがスーツケースの表面にリブ加工を施すことの禁止を求めました。

 第一審の知的財産裁判所は16年9月5日に判決で、被告らに対して▽各種スーツケースにリブ加工と相同する、または近似した設計を用いることの禁止▽同スーツケースの販売、運送、輸出入の禁止▽連帯で100万台湾元の損害賠償を原告に対して支払うこと──などを命じました。この判決は、商品の外観が公平取引法の保護を受けることを示しただけでなく、本件のような案件に関する判断基準を示すこととなりました。

「著名な表徴」の判断基準

 裁判所は判決の中で、著名な表徴とは、「表徴が表している識別性と信用が、関連事業者または消費者に知れわたっており、商品またはサービスの出処を十分に区別することができる標識となっていること」としました。商品の外観自体が事業を表徴している場合は、以下の各要素から同商品の外観が「著名であるか」判断しなければならないとしました。

1.商品の外観におけるコンセプトの強さ

2.権利者は同商品の外観を事業の表徴としているか

3.権利者のマーケティングの強さ

4.同外観を使用している商品の販売状況

 市場では既に多くの近似したスーツケースが出回っているとの被告の主張により、裁判所は▽(上記1)本件スーツケースにおけるリブ加工のコンセプトは強くないとした一方、▽(上記2)原告は当初からリブ加工を同社スーツケースの表徴としていたこと、かつ▽(上記3、4)長期にわたって忠実に、全てのスーツケースの外観に対してリブ加工を使用し続けることで、同社のスーツケースにはリブ加工が使用されているというコンセプトを伝え続けており、マーケティングやメディア報道などにおいてもリブ加工が原告のスーツケースの基本的特徴であることは正確に広まっていることなどから、同表徴は市場において高度の強度を有すると判断しました。

 その上で判決は、同表徴は▽関連事業者または消費者に知れわたっており、また▽原告の商品であるスーツケースと結び付けられており▽商品の出処を区別する機能を有している──と判断、同表徴は著名な表徴であると認めました。

 一方、近似性の判断について裁判所は、「全体観察」と「主要部分の比較」で判断されるべきとしました。被告の商品は「スーツケースの長い方の辺と平行に等間隔で複数の溝が走っており、また溝と溝との間に平行に折り目があり、折り目と溝との平面上の明暗が異なる点が注意を引く特徴的な印象」となっており、「リブ加工」と近似しているとしました。

混同誤認があるか

 このほか、判決では以下の要素を根拠に被告の商品が原告のスーツケースと混同誤認されると認定しました。

1.消費者の注意力

 消費者が原告のスーツケースを選択する際、外観に関しては「リブ設計」の印象に注意を引かれる

2.商品の類別と表徴の近似の程度

 双方当事者の商品は共にスーツケースであり、また被告商品の「注意を引かれる特徴的な印象」と、消費者が原告商品の「リブ設計」に感じる主要な印象が相似しているため、誤認を与える恐れがある

3.商品の特性、販売ルート

 双方当事者の商品の種類は相同している。原告のスーツケースは百貨店や専門販売店において販売されており、被告の商品はテレビショピングやインターネットにおいて販売されているので、双方の販売ルートは異なるが、消費者がこれら販売ルートの違いによって双方のスーツケースの出処を判断することは難しい。

 また被告は、原告の商品は高額商品なのに比べ被告の商品は低額であることから、消費者が混同誤認することはないと主張するが、被告が低額で商品を販売することにより、原告スーツケースの信用、および同表徴の識別性と経済価値が損なわれる可能性がある

4.商品の表徴の知名度と企業の関連性

 双方の商品の価格や品質は確かに異なるが、近年、メーカーは著名なブランド商品のほか、サブブランド商品を販売する販売策を取ることがあるため、消費者が被告の商品を原告の生産したものであると誤認する可能性を排除することはできない

商標登録で保護を確実に

 裁判所は、被告の商品は原告商品の外観をかなりの程度で模倣したものであり、「リブ設計」の識別性を減損、侵害しているとした上で、被告には少なくとも「注意すべきで、かつ注意できたにもかかわらず、注意をしなかった」という過失があるとして、損害を賠償しなければならないとしました。

 一審判決後、被告は控訴しましたが、裁判所が決定した控訴費用について不服があるとして何度か抗告を行い、17年4月にやっと確定しました。つまり、被告は訴訟テクニックを駆使して、本件が早期に決着することを阻止したわけです。

 リモワ社は、その商品の外観の保護に関して、その後も積極的に法的対処を取り続けています。例えば16年12月30日、知的財産裁判所は、リモワ社が台湾ソニー社を相手取り提起した特許侵害案件において、ソニー社に対して「SONYクラシックジェラルミン製スーツケース」の製造、販売を禁止する判決を出しています。

 ただ、本件のような事業表徴の侵害行為については、刑事責任は問われません。そのため、皆さんの企業が商品の外観を保護しようと考える場合は、それを商標として登録することで、より一層の保護効果を得ることを考えるべきでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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