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第224回 均等論


ニュース 法律 作成日:2017年6月14日_記事番号:T00071103

産業時事の法律講座

第224回 均等論

 「均等論」とは特許法に関する法律理論で、被告の製品は特許請求項の描写に一致しているわけではないが、特許が保護する発明が「実質は同一」である場合には、「権利の侵害を構成した」と判断するというものです。また、被告の製品は特許請求項の描写に一致するが、特許が保護する発明が「実質は相違」する場合に、「権利の侵害を構成しない」と判断する「逆均等論」という理論も存在します。

 喬紳は、自転車部品の製造メーカーで、「常閉式ハブとラチェット機構」により台湾発明第I367171号特許を取得していました。同社は、建来貿易が販売していた「K&Y Hub」という自転車ハブが係争特許権を侵害しているとして、知的財産裁判所に対して訴訟を提起、損害賠償を請求すると同時に、被告による係争特許の侵害の排除および防止、ならびに侵害製品の廃棄および器具の除却を求めました。

 知的財産裁判所第一審は2014年6月、被告製品と係争特許は共に「歯車が前転しているときは、歯止めは開いており、後転しているときは歯止めは閉じている。しかし、その使用している部品が異なるため、同様の結果でも、異なる『技術手段』から生まれている。そのため、両者は『実質的な同一』を構成しないため、権利の侵害を構成しない」として原告の訴えを退けました。

 原告は控訴しました。知的財産裁判所第二審は15年8月、被告の製品は「均等論」の下では権利を侵害しているとして、原告の勝訴判決を下しました。その理由は次のようなものでした。

1.技術手段

 両者はともに「カムに類似した原理」を応用し、可動部分の最高点から最低点まで上下移動させるとともに、歯止めがその開閉位置において可動するというものであり、その違いは、凹凸の違いだけである。そのため、置き換えも容易であることから、実質上は差異のない「等効置換」である

2.機能

 どちらも歯止めの開閉を行う機能である

3.結果

 どちらも「ペダルを後転させた際にも、歯止めと、歯車間における雑音は発生しない」、「ペダルを前転させた際には、ハブも同時に前転するため、自転車に正常に乗ることができる」という効果がある

4.置換可能性

 同業界の専門家が係争特許の特許説明書を閲読後、特許の設計を置き換えまたは修正することで、被告の製品設計とすることができる

5.置換容易性

 ともに「カムに類似した原理」を利用しているため、同業界の専門家は、係争特許の「確動カム」を、被告製品の「平面カム」とすることができる

 また第二審は被告の毎月の生産量を1,000件と見積もり、2012年7月から13年11月の間の損害金額を50万台湾元であると認定しました。

実質的に同一か?

 被告は上告しました。最高裁判所は今年4月に第二審判決を破棄しました。最高裁判所の行った判断は以下のようなものでした。

1.いわゆる特許侵害における均等論とは、特許侵害が疑われるものと、係争特許の請求項間において、その技術的手段、機能、および結果の3点が実質的に同一かを判断するものである

2.実質的に同一とは、侵害物が採択した代替手段が、同技術領域において通常の知識を有する者が説明書(特に請求項および発明説明)を閲読した後、一般的な技術知識および職業上の経験により、容易に思い付き、置き換えが可能であることをいう

3.原告は、被告の「ハブとラチェット」実用新案特許(M440895号)に対して特許無効審判を提起し、同実用新案と本案係争発明特許は同一と主張している。また、被告の実用新案特許の設計は被告製品のそれである。これに対して、知的財産局は2014年11月に被告の実用新案を取り消す裁定を下したため、被告は訴願を提起していた。

 経済部は15年6月の決定書において、被告の実用新案の設計は、「歯止め」と「ハブ」が「常閉狀態」に保たれている。そのため、使用者は何らの動作もすることなく、自転車を前後させることができる。しかし、係争特許の設計では、使用者はペダルを逆方向に回し、歯止めを逆方向に回すことではじめて、「歯止め」と「ハブ」が「常閉狀態」とすることができる。係争特許は、「明らかに消費者に対してより多くの不便と面倒をかけている」と判断した

4.もし経済部の認定が正しいものであるならば、「両者の技術的手段、機能および結果は同一といえるのか?特許申請の範囲の技術的特徴と、係争製品の対応部品、成分、プロセスまたはその結合関係を一つ一つ比べた場合、実質的な差異はあるのか?」などについて、明らかにしなければならない。

 本案は、知的財産裁判所に差し戻されたのち、「権利侵害を構成しない」という判断が下されることは間違いないでしょう。もともとの第二審の判断では、科学的に存在しない、「カムに類似した原理」にのっとった判断を行い、全く異なる「カム」を同様のものとして判断を行いました。これは一種の錯誤でしょう。それにしても、原告は自らが決して侵害することのない被告の実用新案特許に対してする必要もない特許無効審判を提起してしまいました。これこそが、原告が本案において最終的に敗訴してしまった最大の原因でしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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