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第223回 特許権利金の確認


ニュース 法律 作成日:2017年5月24日_記事番号:T00070739

産業時事の法律講座

第223回 特許権利金の確認

 実用新案登録第207672号「エレクトリカルコネクター」および他国における同特許の特許権者である鴻海精密工業と米フォックスコン・エレクトロニクスは、嘉澤端子工業の製品が同特許を侵害したことを理由として、2002年から同社と裁判になりました。双方は06年に和解協議書および特許授権契約を締結し、嘉澤は06年10月より同特許の権利金を支払うこととなりました。

 その後、鴻海は嘉澤から支払われた権利金の金額が実際に支払われるべき金額に足りていないことを発見したため、07年から09年の間に支払われるべきだった権利金との差額、計1,900万台湾元、およびその利息と会計士の確認費用の支払いを求めて、10年に知的財産裁判所に対して訴えを起こしました。

支払い不足で提訴

 知的財産裁判所第一審は、11年8月に、権利金398万元およびその利息を支払うことを嘉澤に命じる判決を下しましたが、その他の請求部分については訴えを退けました。その理由は以下のようなものでした。

1.双方の契約によると、権利金の金額に争いがある場合は、双方の合意により、国際公認会計士による確認を受けることとなっている。双方は「勤業衆信会計士事務所の薛如倩会計士」による確認で合意しているが、薛氏は同事務所の企業リスク管理部門の協理であり、公認会計士ではない

2.原告が行った権利金額の確認は、同会計事務所の張銘政会計士の指導の下、その確認の署名も受けているが、同会計士は双方がその確認を同意をした会計士ではない。また、張会計士は双方の競争同業他社の会計を務めているが、利益衝突があるにもかかわらず、双方に対してその旨を説明していなかった

3.原告が提出した米カリフォルニア州弁護士の法律意見では、本案においては、双方は同会計事務所に確認を委任したのであり、特定の会計士に委託したのではないとしているが、このような法律意見は双方が締結した契約の明文規定に違反しており、錯誤に属する

4.そのため、同確認レポートには明らかな瑕疵(かし)があるため、権利金金額の認定を行う根拠とすることはできない

5.ただし、嘉澤は鴻海側からの請求を受けた後、被請求額のうち398万元についてその支払いを同意していることから、被告は同部分についての確認には問題がないことが分かる。従って、被告は当該部分およびその利息を支払わなければならない

 この一審判決を不服とした双方は控訴しました。また嘉澤は多くの型番を提出し、「『特許回避』を行ったため、同特許は、既に使用していない」と主張しました。しかし、第二審は12年8月に双方の主張を退け、第一審の判決を支持したため、双方共に上告しました。

確認レポートの瑕疵

 最高裁判所は13年11月、知的財産裁判所の判断には誤りがあるとし、原判決を破棄、また下記の点についてのさらなる調査と判断を求めました。

1.双方が約定の中で公認会計士による確認を求めている目的は何か?

2.確認レポートの法律的性質と効果はどのようなものか?約定による確認でなければ、鴻海は嘉澤に対して請求を行うことはできないのか?逆に、確認レポートが約定に符合している場合、双方はそれを争うことはできないのか?

 これに対して知的財産裁判所は15年10月に判決で、嘉澤に対して、1,522万元とその利息の支払い、および会計士の確認費用の支払いを命じました。判決理由は以下のようなものでした。

有効性には影響せず

1.本件における会計の確認レポートには(上記のような)瑕疵があり、「契約上の証拠」とすることはできないが、同事務所が「本案件についてのチームを組んで、共同で本件特許権利金の確認を行ったことは、会計士の業務規範と慣例に沿ったものである」ため、形式上、実質上の証明力を持つ

2.薛氏が協理の身分で、勤業衆信が行った確認に参与したことは、米カリフォルニア州法における「実質的履行」に相当する。たとえ薛氏は会計士でなかったとしても、確認そのものの有効性には影響せず、また確認の目的にも反していない

3.確認レポートの対象製品の型番は、全て嘉澤より提供されている。「一般的に、もし嘉澤がこれらの型番が係争特許授権と関係がないものであるとするのであれば、これらの型番を記す必要はない。また同様に、鴻海に対して分析用のサンプルを提供することもない」ため、確認レポートに記された型番については、嘉澤が自ら、それらは「特許授権製品」であることを認めたものである

 これに対して嘉澤は再度、上告を行いましたが、最高裁判所は今年2月17日に訴えを退けたため、全案が確定しました。

 ただ、本件特許については、第三者より13年9月に特許無効審判の請求を受け、知的財産局に特許を取り消されました。その後、鴻海は行政訴訟を提起しましたが、15年11月に最高行政裁判所に訴えを退けられています。鴻海は今後、いかにして前期の権利金の差額を受け取るのか、または既に受け取った権利金を返金しなければならないのか、今後の展開が注目されます。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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