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第225回 著作人格権


ニュース 法律 作成日:2017年6月28日_記事番号:T00071370

産業時事の法律講座

第225回 著作人格権

 維納瑞はワインの輸入業者で、2010~12年の間、自社ワイン販売促進のために、ワインを紹介する文章(文案1~6)をまとめ、代理店に提供したり、自社ホームページ上で公開しました。また、全ての文案には社名が表示されていました。

 維納瑞は12年9月、同じくワイン輸入業者である酩豊(維納瑞の代理店ではない)が、▽維納瑞の販売価格を大きく下回る価格で維納瑞が代理販売しているPSI2008、Vilmart&Cie(ヴィルマール&シー)、Vina Tondonia(ヴィーニャ・トン
ドニア)、Bodegas Castano(ボデガス・カスターニョ)などのワインを販売している▽酩豊のフェイスブック、ブログなどにおいて、前述の文案を大量に、悪意をもって複製し、インターネットを通じて広めている▽酩豊はその文章において、ワインの販売価格が維納瑞を下回っていることを強調している──ことを発見しました。

 維納瑞は、酩豊のこのような行為は、維納瑞の代理店および消費者に、維納瑞が酩豊に対して安価でワインを販売していること、ならびに酩豊が維納瑞の代理店である、または双方が協力関係にあることを誤認させる行為であると考えました。また代理店および消費者からの苦情が絶えなかったため、知的財産裁判所に対して訴訟を提起、酩豊およびその責任者に対して連帯で600万台湾元の損害賠償と、新聞への謝罪広告を求めました。

プロモーション文章に著作権

 第一審は以下の理由で、被告に対して連帯で72万元の支払いと、新聞への謝罪広告を命じる判決を下しました。

1.係争文案6部は、原告がその商品の「プロモーション」目的でまとめたもので、著作権者としての個性を十分に表現しているため、著作権法の保護を受ける言語著作に属する

2.比較分析によると、被告の広告文案中、多くの文字表現が原告のそれと相同していることから、被告が係争文案を直接複製したことが証明でき、その質、量を問わず、その構成は実質上相似している。また、被告自身も「原告の文案は、創作時の参考元の一つ」と認めており、被告が過去に原告の係争文案に接触していたことが証明される。これにより、被告は確かに原告の係争文案6部を「複製」したことが分かる

3.「氏名表示権」とは、著作権者がその著作もしくは同著作の複製物上、またはその公開発表時にその本名もしくは別名を表示するか、または表示しないかを決定する権利である。そのため、侵害者が著作権者の著作の内容の一部を複製し、自らが改作した部分を自らの名義で発表したとしても、著作者の氏名表示権を侵害したことにはならない

4.被告は(原告を経ていない)別の方法により、原告が代理輸入するのと同じ酒類を輸入し、市場の相場に合わない低価格でそれを販売、さらに原告の顧客に対して「被告の販売価格は合理的で、原告の価格は暴利である」と事実と異なる情報を流すことで、顧客が原告の商品の販売またはサービスの提供を正常に選択することに影響を及ぼし、顧客が自らと取引を行うことを意図していたため、不公平競争を構成する

目的違えば問題なし?

 双方はこの第一審の判決を不服として控訴しましたが、知的財産裁判所は15年5月、以下の理由から、被告は原告の著作人格権を侵害しておらず、また不公平競争も構成していないと判断しました。

1.被告は原告の著作を複製していたが、同文案による広告を行った目的は、その読者に文案中のワインを紹介するためであり、「読者に対して酩豊または第三者が同文案の著作権者と誤認させていない」し、原告が自らの文案上に自らが著作権者であると表示することに対して影響を及ぼしていない

2.販売価格が市場の相場を下回っているかは、双方がホームページ上に掲げた価格のみで判断するものではない。また、同価格差についても、明らかに合理的でないとはいえない。さらには、酩豊がコスト割れで同ワインを販売していたと証明することはできないため、酩豊が自らの不利を顧みずに市場を独占することで、他者に損害を与える目的だったと証明できない

不公平競争を招いたか

 この判決に対して、双方ともに最高裁判所に対して上告しました。最高裁判所は以下のような理由により、原判決を破棄する判決を下しました。

1.著作権法は、「他者の著作を合理使用する際にはその出処を明らかにしなければならない」と定めているので、他者の著作を利用する際には、著者の氏名または名称を表示することでそれを尊重しなければならない。被告は原告の著作を複製したにもかかわらず、被告の「文案にはその出処が示されていないため、係争6文案の著者が上告人であると公衆に誤認させる恐れがあったかについて、明らかにする余地がある」

2.不当な方法であるかについて、公平な競争が害されたことの性質からそれを解釈すべきである。通常は、行為者の意図、目的、市場における地位、属する市場の構造、商品の特性および履行の状況などに加え、公平競争の秩序の維持という観点から、判断を行わなくてはならない。もしその方法・手段が正当性を欠いたもので、商業倫理上においても非難性があり、その結果として市場における競業他者の自由競争機能を損なわせるため、競争の制限という効果を生む場合、不当な方法に属する

3.被告はラベルを「輸入業者:維納瑞」から「輸入業者:酩豊」へと改ざんし、また販売価格を抑えたことで、原告の代理店は、原告は被告のみを優遇していると誤認し、原告からの仕入れを停止し、原告の代理店システムは崩壊した。被告の行為は、不公平競争を構成する。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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