ニュース 法律 作成日:2017年3月8日_記事番号:T00069359
産業時事の法律講座原告は顕微鏡などの商品に対して登録されている登録商標「Dino Lite Digital Microscope」の商標権者です。原告の統計によると、原告の「Dino Lite」ブランドにおける携帯式のデジタル電子顕微鏡(以下「係争商品」)は、台湾において市場シェア60~80%を誇る著名商標でした。
元・販売代理店が継続使用
被告は元々は原告の販売代理店であり、原告に代わり係争商品の販売促進に務めてきました。双方は2012年に契約を終了しましたが、被告はその後も英語の企業名称「Dino-Lite Inc.」およびドメインネーム「www.dino-lite.biz」を使用し続け、また被告自らのホームページ上に係争商品全シリーズを掲載し続けました。原告は、被告の行為は係争商標を侵害しており、また公平交易法にも違反しているとして、訴訟を提起し、以下を要求しました。
1.同英語企業名およびドメインネームの使用停止およびホームページ内容の削除
2.新聞への謝罪広告の掲載
3.200万台湾元の賠償
これに対して被告は以下のような抗弁を行いました。
・元々は無名だった係争商品の市場シェアを拡大させたのは被告である
・被告の企業名およびドメインネームの登録については、原告は事情を知っており、また同意もしている
・被告は契約終了後も在庫を販売するために係争商標を継続して使用していた
・原告の「渡り終わった橋は壊してしまえ」的な行為こそ「不公平取引」である
正当性の有無
知的財産裁判所は14年10月に原告の訴えを退ける判断を下しました。また原告の控訴で迎えた知的財産裁判所の第二審判決も、15年4月に原告の訴えを退けました。同判決の中で行われた認定は以下のようなものでした。
1.双方の契約には、契約終了後に被告が英語の企業名およびドメインネームを使用できるのか、在庫の販売の際に原告の商標を使用できるのかについての取り決めはない。よって、双方の関係は法律の規定により判断される
2.原告は係争商標が著名商標であると主張するが、原告が提出した統計の数字が事実であると証明することはできない。また、被告も同商標が著名商標足り得たその他の要素などについての具体的な証拠を提出できていない。よって、係争商標が著名商標であるとの認定はできない
3.被告の英語の企業名およびドメインネームは、共に販売契約期間中に、原告の同意に基づいて登録・登記されたものであり、被告は「悪意ある登録・登記」を行ったわけではない。また、被告は契約終了後もホームページを削除せず、英語の名称も使用し続けたが、その目的は契約終了以前に原告より購入した在庫を販売することにあったことからも、「悪意ある使用」と認定することもできない
4.いわゆる「権利消尽原則」、「ファースト・セールス・ドクトリン」とは、商標権者が商標を付した商品を「初めて(1回目)」販売した、または流通させた際に報酬を得ることで、同商品が製造業者から小売業者、消費者へと縦方向に転売されていく過程においての商標権の使用を黙示授権したことになる。商標権は商品が「初めて」販売された際に消尽され、同商品がその後も続けて市場を流通していっても、商標権者はそれ以降は商標権を主張することはできず、また商品の購入者は自由に商品を使用、処分することができる
5.原告は、▽原告の商品には係争商標が表示されている▽被告のホームページにおける原告商品の傍らには係争商標が大きく示されている▽これらは適正な販売方式ではない――などと主張するが、これらの販売方式は適切なものであり、また、被告のこのような商標使用行為は、商標の持つ商品またはサービスの出所表示機能を破壊するものではなく、また関連消費者にご誤認混交をさせる恐れも認められない。よって、被告の行為は商標権の直接侵害とはならない
6.被告が同ホームページにおいて、原告商品および係争商標に関して行っている表示は、全て事実と符合するものであり、真実であり、また関連消費者に受け入れられる範囲のものであることから、適正な商業広告または競争行為であると認められる
提携解消後の条項を
原告はこの判決を不服として最高裁判所に上告しましたが、最高裁判所は16年12月に原告の訴えを退けました。
判決では、権利消尽原則に基づいて、被告が原告から購入した在庫を販売している場合、原告は商標権を主張できないという判断が示されました。
今回の事件からは以下のような教訓を得ることができます。
成功するにせよ、失敗するにせよ、企業間の協力関係は長く続くとは限らない。そのため、協力を開始する際には、契約の中に、将来、協力体制が終了した際のことも念頭に置いた条項を入れておくべき──
本案における当事者は双方ともに、「契約終了後」のことを考えていませんでした。原告は契約終了後も被告に、原告の商標の入った企業名とドメインネームを使用され続けさせることとなり、結果として他の販売代理店を探すことが難しくなってしまいました。
また、裁判所の判断に従えば、被告は原告の商品を販売し終わった時点で、自らの企業名とドメインネームを使用できなくなります。「Win-Win」ならぬ、「Lose-Lose」というわけです。
徐宏昇弁護士
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