ニュース 法律 作成日:2016年12月28日_記事番号:T00068250
産業時事の法律講座一般企業または政府機関における「特支費」とは、企業または機関のトップが、その用途と金額を説明することなく使用することができる費用のことです。その目的は、企業または機関のトップがその地位にあることで発生した各種費用を支払うことにあり、その使用が職務に関連しているものかどうか説明する必要もありません。
会社の同意の有無
2006年1月、周国端氏は宏泰人寿保険の董事長に就任しました。これにより周氏は、同社における特支費使用規則および出張費使用規則に従うこととなったほか、「公務に関する立て替え費用」を毎月15万台湾元まで、使用することができるようになりました。
周氏の離職後、同社は周氏より請求を受けた計254項目の支出が関連規定に違反していることを発見したため、周氏を提訴し、500万元の返還を求めました。しかし、第一審の台湾士林地方裁判所は、14年4月に、以下のような理由から、原告である宏泰人寿の請求を退ける判決を下しました。
「もし被告が、その任期内において、実際には公務による出張を行っていないにも関わらず、高額の出張費を請求していたのであれば、原告企業の内部監査、董事会、監査人らがその異常に気づいたはずである。原告企業は、被告が出張費を申請した際に、会計担当者、内部監査、監査人、董事会など、企業内部における審査を通過し、また、外部会計士の審査、認証を受け、さらに株主会議の承認を受けたにもかかわらず、それら全ての段階において、同出張が公務による出張であるかどうかについて疑問を持つ、または異を唱えることはなかった」のであるから、被告による費用の支出は、既に原告企業の同意を得ているものであり、その返還を要求することはできない。
特支費に上限
これに対し、宏泰人寿は控訴。台湾高等裁判所は15年6月、以下のような理由から、周氏に対して、363万元を宏泰人寿に返還するよう命じる判決を下しました。
1. 双方の契約規定によれば、「特支費」は給与ではなく、かつ▽公務による支出であること▽領収書を提出すること▽月15万元までであること──となっている。この種の費用は、企業における「費用使用規則」の制限を受けるものではない
2. 「立て替え費用」は「特支費」に含まれ、同様の規範の制限を受ける
3. 「出張費用」は「出張費使用規則」の制限を受けるが、月15万元までという上限はない
その上で、裁判所は周氏の請求した費用を確認後、以下のように認定しました。
1. 周氏個人の車の洗車費用は公務と無関係である。なぜなら、原告企業は周氏に対して董事長専用車を提供していた
2. ▽周氏が宴席を設け食事代を支払った、または顧客に対してワインなどを送った費用▽周氏個人の携帯電話、コンピューター関連の費用▽周氏がスーツをオーダーし、営業成績優秀な社員に送った費用▽被告が業務との関係を説明することができたその他一切の支出──は全て公務と関連している
3. ▽周氏が中国に出張した際の出張費は、原告企業は周氏に対し返還しなければならない▽中国において宴席を設け、支払った食事代は、出張費使用規則に符合したものではないため控除しなければならないが、毎月15万元までは特支費として処理することができる▽第三者のために立て替えた海外出張費用は請求することができない──
上記のような原則に従い、高等裁判所は以下のような認定を行いました。
1. 宏泰人寿が提示した計254項に上る特支費のうち、業務の処理に関して発生した費用ではない費用、または業務処理に関して発生した費用であるが、毎月15万元の上限を超えている部分について、周氏はそれを返還しなければならない
2. 周氏が第三者のために立て替えた海外出張費用については、周氏はそれを全額返還しなければならない
不法行為あれば例外
この判決を不服とした周氏は最高裁判所に上告しましたが、最高裁判所は以下のような理由から、16年11月23日に上告を棄却する判決を下しました。
台湾の公司法(会社法)の規定によると、「企業における各種会計記録は、株主総会の承認を得た後、既に董事または監査人の責任を解除したと見なす。ただし、董事または監査人に不法行為があった場合はその限りではない」。
ここでいう「既に董事または監査人の責任を解除」とは、董事会より株主総会に提出された各種会計記録に記載されている事項、または、それら会計記録から知り得る事項に限られる。「不法行為により発生した、または発生したことが未確定な各種責任」は含まれない。
本案において、宏泰人寿は、既に周氏の各種支出を支払っていましたが、事後に周氏が「契約における忠実義務および注意義務違反」したことを理由に、周氏に対して企業が受けた損害の賠償を求めることはできると判断されました。
最高裁判所は今回、「忠実義務および注意義務違反」という理論を持ち出し、高等裁判所の認定を支持しました。これは、企業統治文化における「内部監査」または「監査人」がほとんど機能していない現状に対して、新しい解決策を与えるものです。
徐宏昇弁護士
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