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第233回 中国からの輸入製品に対し権利侵害の有無を確認する責任


ニュース 法律 作成日:2017年10月25日_記事番号:T00073561

産業時事の法律講座

第233回 中国からの輸入製品に対し権利侵害の有無を確認する責任

 企業が他社から原材料またはソフトウエアなどの提供を受け、商業目的に使用または販売する場合、それらのものが第三者の知的財産権を侵害していないことを査証(以下、確認)しなければなりません。近年、台湾で摘発された知的財産侵害は、その大部分が中国大陸から輸入されたもので、裁判所は被告に対し、具体的な確認を求める傾向があります。

高度の相似性

 警察は2013年3月、泰利興貿易の家宅捜索を行い、3D(3次元)自動車定位置測定器BT-9および、同測定器のプログラムPro32およびデータベースが記録されているUSBメモリー1点を差し押さえました。比較の結果、同Pro32プログラムと、米スナップオン社のビジュアライナーPro32のプログラム、およびPro32グローバル自動車規格データベースの構造が、以下のように近似していることが分かりました。

1.両プログラムは、4つの関数(サブルーチン)については相互に相対性がないが、368の関数については完全に相同しており、40の関数については実質的に相違しておらず、2060の関数については名称、指令、変数、リンク先など、全てにおいて相似がみられる。また、規則性における差異以外においては、プログラムの基本構造、流れなど全てが近似している。さらに両プログラムは、GUI画面の内容、リンクの位置、効能表の指令構造、フローチャートおよび全体的な外観に至るまで高度の相似性があり、間違い、誤訳、バグなども同じである

2.同定位置測定器を提供した上海邦田の代表者は、かって告訴人(スナップオン)の上海子会社の設備セールスマネージャーで、同職を離職後、上海邦田を立ち上げている。このことから、同プログラムは同社が自ら開発したものではない可能性が高い

ライセンス証明書で確認

 被告(泰利興貿易)の抗弁は以下のようなものでした。

1.同3D自動車定位置測定器は、被告が中国北京で展覧会に参加した際に見つけ、商談後に購入した

2.被告は過去に同測定器の形状が告訴人の製品に近似していることに気付き、販売メーカーである上海邦田に確認したが、海邦田はライセンス証明書を提供した上で、権利を侵害していることはないと説明したため、購入を決めた

確認の義務を果たしたか

 第一審の新北地方裁判所は16年4月に被告を無罪とする判決を下しましたが、検察側がこれを控訴しました。しかし、第二審である知的財産裁判所もまた、以下のような理由から、17年2月に被告を無罪としました。

1.告訴人は確かに、13年1月24日の新聞広告によって海賊版・模倣品の告発を行う旨の警告を行っているが、被告が上海邦田のライセンス証明書を受け取ったのは、それよりも早い12年5月29日である。また、双方間における当時のメールを見る限り、上海邦田側は再三にわたって著作権上の問題がないこと、および完全に責任を取ることを保証することを確約している

2.上海邦田が泰利興に対して提供していたソフトウエアにはコピーガード機能が付けられていたため、泰利興はインストールを行うたびに、上海邦田よりシリアルナンバーの提供を受けなければならなかった。このような状況において、被告は「同ソフトウエアの著作財産権は、泰利興が享受していることを善意を持って信頼できる」状況にあったといえる

3.告訴人は、▽その代理商が02年7月、顧客のタイヤ店において被告の製品を発見し、権利の侵害を疑ったこと▽その翌日に被告の担当者からの電話を受けたこと──などから、被告はそれらの製品が権利を侵害していることを知っていたと主張した。

 しかし裁判所は、代理商の証言では、代理商が被告にその旨を伝えたかどうか証明できないことから、当時、被告がすでに権利侵害を知っていたとは証明できないと認定した。

4.被告企業の従業員は、「中国には模倣品が多いため、会社に対して本製品を輸入しない方がいいとアドバイスした」と証言した。告訴人は、「被告は故意でなかったとしても、権利を侵害していることは知っていた上で、権利を侵害している製品を販売した」と主張した。

 しかし裁判所は、同従業員のアドバイスは、本製品が告訴人の著作権を侵害していることが前提ではなく、慎重に対応した方がいいという一般的なアドバイスで、裁判所は「中国では模倣品が大量に出回っており、中国との間で取引を行う上で一般的に注意すべき点である」と認定した。

 被告はこのアドバイスを聞いた後、上海邦田に対して、ライセンス証明書と担保声明を要求し、それを受け取った後に購入しているので、裁判所は「被告が注意義務を果たしたことは証明されている」と認定した。

故意の権利侵害は証明困難

 本案はその後、検察側により最高裁判所に対して上告がなされましたが、最高裁判所は17年9月に、検察側の判例引用ミスを理由として訴えを退けたため、全案が確定しました。

 本案からも分かる通り、台湾の裁判所は、中国から輸入される製品について、高い確認の義務を求めていますが、一方で、被告の故意を証明するための証拠についても厳格な審査を行っています。そのため、権利者が被告の故意を証明するためには、背景となる証拠をより多く提出することで、裁判所がより業界の現状を理解しやすいようにし、被告の行為当時の心理状況を再現するというような工夫が必要です。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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