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第235回 他人の商標を知らずに使用した事例


ニュース 法律 作成日:2017年11月22日_記事番号:T00074078

産業時事の法律講座

第235回 他人の商標を知らずに使用した事例

 シンガポール企業である首諾新加坡(SOLUTIA SINGAPORE PTE. LTD. 以下「ソルチカ」)は2011年、同じくシンガポール企業である威固(V-Kool International Pte. Ltd. 以下「Vクール」)から、登録商標「V-KOOL」計3件を譲り受け、自動車用断熱フィルムへの使用を指定しました。知的財産局の認定により、登録商標「V-KOOL」は著名商標に当たります。

善意の使用

 ソルチカは13年、全統隔熱紙と全統国際が「V-KOOL」ブランドの自動車用断熱フィルムを販売するに当たり、「V-Kool International Co., Ltd.」を企業名の英語表示、「usv-kool.com.tw」をドメインネームとして使用していることは、ソルチカの商標権を侵害していると主張し、知的財産裁判所に対してその侵害の停止と損害賠償を求める訴訟を提起しました。

 このような原告の主張に対して、被告は以下のような答弁を行いました。

1.原告の商標は99年に登録されたものであるのに対して、被告は97年に商標「USL V-KOOL」を登録している。被告の商標はその後の無効審判により登録が取り消されたが、被告が93年の段階で自動車用断熱フィルムに対して商標「V-KOOL」を使用していた事実には変わりがない

2.被告は99年に商標「V-KOOL」を使用しているとして警察の家宅捜索を受け、その後起訴されたが、高雄地方裁判所は02年に判決で、被告の責任者を無罪と判断している

3.台湾高等裁判所高雄分院は判決で、被告による同商標の使用は「特許主務官庁が付与した商標権に基づいた使用」であるため、犯罪の故意はなく、また被告には消費者をだます意図もないと判断し、検察側の控訴を退けた

 被告はこれらを基に、被告による同商標の使用は善意(知らなかった)によるもので、原告の商標権を侵害してはいないと主張した。

先使用かどうか

 知的財産裁判所第一審は14年1月に判決で、被告による商標権侵害を認め、被告に対して商標「V-KOOL」の使用の停止(企業名、ドメインネームへの使用も禁止)を命じたほか、216万台湾元の損害賠償の支払いも命じました。

 裁判所は判決で、いわゆる「善意の使用」に該当するためには、被告は、原告による商標登録の出願以前において、善意により原告の商標を(確実に)使用していなければならないとした上で、被告は刑事判決を根拠とした主張をしているが、この「先使用」の証拠の日時はVクール社が同商標登録を出願した後であるため、被告による同商標の(確実な)使用が、原告による商標登録の出願以前に行われていることの証明にはならないとしました。

社員の証言

 被告の控訴を受けた知的財産裁判所第二審は15年に判決で、被告は商標「V-KOOL」を引き続いて使用してよく、また損害賠償も必要ないと判断しました。

 判決の中で裁判所は以下のような認定を行いました。

1.被告の従業員が法廷で、93年から被告企業で勤務していたが、被告は当時既に「V-KOOL」および「USL」商標の自動車用断熱フィルムを扱っていたと証言した。また、被告は91年には米国から自動車用断熱フィルムを輸入し、「V-KOOL」および「USL」商標を表示し、台湾および海外に向けて販売しており、これらの日時は原告による商標出願日時以前のものであると証言した

2.被告に対する刑事事件判決において、被告による同商標の善意使用は既に認定されている。その使用証拠(見積書)に係る記載は簡略的なものではあるが、当裁判所が被告による同商標の使用を認定することの障害となるほどのものではない

3.被告は現在、同商標を自動車用断熱フィルムに対して使用しているが、その使用は本来の使用の範囲を超えたものではないため、被告は今後も自動車用断熱フィルムに対して同商標を使用することができる

4.ただし、被告が同商標を企業名またはドメインネームに対して使用することは原告の商標権を侵害する行為であるため禁止される。

証拠は十分か

 商標権者はこの判決を不服とし、最高裁判所に対して上告しましたが、最高裁判者は17年7月に判決で以下のような問題点を提起しました。

1.原審は、被告が先に同商標を使用していた事実を認定しているが、その証拠は見積書と一人の証言でしかないため、それが一般に言われる「商標の使用」というものの理解(証明)に違反していることは明らかである

2.善意の使用者は、商標を「もともと使用していた商品」に対して同商標を使用することができるが、知的財産裁判所が採用した証拠(前述の「簡略的な記載」が行われている「見積書」)からは、被告が当時どのような商品に対して同商標を使用していたのかを判断することはできない

3.全統隔熱および全統国際の両被告中、全統国際は11年に設立したものであるにも関わらず、原審は「先使用」の事実を認めている

 この事例からは、「善意の使用」は正当な「先使用」者を保護するものですが、同商標がのちに、他方当事者の努力によって著名商標となった場合には「先使用」者は、その使用を停止しなければ大きな問題となることが分かります。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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