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第239回 中国における海賊版の取り締まり手法


ニュース 法律 作成日:2018年1月24日_記事番号:T00075185

産業時事の法律講座

第239回 中国における海賊版の取り締まり手法

 台湾に出回っている海賊版は、DVD、コンピュータープログラムから、玩具、ブランドファッション、バッグ、装飾品に至るまで、そのほとんどが中国から運ばれてきます。

 ほとんどの人は中国は模倣品天国だと認識しているかもしれませんが、これらの模倣品は、商標権者や著作権者の権利を侵害しているだけでなく、中国国内の消費者の権利も侵害しています。

 また、たとえ消費者が模倣品購入時にそれが本物ではないことを認識していたとしても、模倣品は品質が劣り、健康に害を与える原材料が使われている可能性もあり、その場合、使用者、特に児童に対して長期かつ慢性的な侵害を与えてしまいます。

地方政府の取り締まり

 中国各地の地方政府は、海賊版の取り締まりにおいて、行政上の対策を設けており、模倣品の有効な取り締まりを可能としています。

 台湾では警察が海賊版を取り締まっているのに対して、中国では、各地方政府の工商局は商標権侵害商品、知識産権局は特許権侵害商品、著作権局は著作権侵害商品を、それぞれ「行政査処(行政検査)」することで、それを取り締まっています。特に工商局の商標権侵害商品に対する行政査処は非常に効率が高いと評判です。

 その要因としては、商標権を侵害している商標は、商品または包装上に表示されている場合がほとんどであり、行政査処時には、同商標と商標権利者の商標が相同または近似を構成しているかどうか、侵害者の商品と商標権利者が登録を行っている商品とが相同または近似を構成しているかどうかなどを判断すればよいことから、商標権侵害の判断が比較的直接的に行われていることが挙げられます。

 それに対して、特許権、著作権の目的物は、通常は商品の表面に目に見える形で存在しませんし、また実質的な相同を構成しているか(特許権侵害)や、実質的に近似しているか(著作権侵害)などは、通常は専門家による判断が必要です。

 また、工商局は権利を侵害している商標と権利者の商標とが完全に相同しているか、高度に近似している案件しか受理せず、近似または混交を構成しているだけの場合は受理しません。そのため、後者の場合は裁判所に対して訴訟を提起するしかありません。

 また、工商局は調査を行わないため、行政査処を申し立てる際には、権利人は十分な証拠を提出しなければならないだけでなく、権利侵害が行われている商店や倉庫の住所など、権利侵害を行っている者に関する関連資料のほか、侵害商品と正規商品の差異についての鑑定書なども提供しなければなりません。

 工商局は案件受理後、定期的に権利侵害社の商店や工場を行政査処し、もし模倣品を発見した場合はその場でそれを押収し、通常は1カ月ほどの期間をおいて、権利侵害行為の停止や、侵害商品の没収、過料の支払いなどを命じる「行政処罰決定書」を発行します。

刑事責任は問われず

 中国の法律の規定では、商標権侵害の全ての場合において、刑事責任を負うことにはなっておらず、「不法経営の金額」が5万人民元(約19万円)以上であるか、または「違法所得の金額」が3万人民元以上である場合に「深刻な状況にある」と判断され、同案件は検察院に送検されます。

 前述の行政処罰に対しては、「異議の申請」と裁判所に対する訴訟提起により、不服を申し立てることができます。しかし前述の通り、工商局は商標が完全に相同しているか高度に近似している案件しか受理しないため、異議の申請には事実上それほどの意味はなく、それを提起する当事者はまれです。

 もし、商標権者が損害賠償を希望する場合は、民事裁判所に対して提訴する必要があります。しかし、行政査処を経た案件の被告は、民事訴訟での勝訴が難しいだけでなく、勝訴を勝ち取った権利者が実際に賠償を受けることもまた難しいのが現状です。なぜなら、被告は通常、賠償を行うだけの財産を持っていないからです。

画面上のみ表示も侵害認める

 コンピュータープログラム、テレビゲームなどの特定商品については、商標はそのプログラムの執行時にモニター上に表示されるだけで、商品またはその包装上に商標が表示されているわけではありません。このような形式で表示される商標についても権利侵害を構成するのかどうかについては、執行上の重要な問題となっています。

 この問題について、深圳市宝安区人民法院は2015年に判決で以下のような判断をしています。

・押収された128台のタブレット端末のうち、70台には機体に韓国のサムスン電子の登録商標が貼り付けられていた

・残りの58台については同タブレット端末を起動した際に画面上に同社商標が表示されるだけだった

 上記の案件について128台のタブレット端末全部について、同社登録商標への侵害を認める。

 また、同判決において、裁判所は以下のような判断も示しています。

 いわゆる「不法経営の金額」とは、行為者が知的財産権を侵害する行為を行う過程において製造、保管、運送、販売した権利侵害製品の総額である。

 権利侵害製品に価格が表示されていない、または販売価格が不明である場合、「権利侵害を受けた製品の市場における中間価格をもってそれを計算」しなければならない。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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