ニュース 法律 作成日:2018年3月28日_記事番号:T00076238
産業時事の法律講座台湾メーカーのLED(発光ダイオード)ライトの意匠権を侵害した疑いがあるとされた中国メーカーの製品がドイツのフランクフルトで開催された見本市「ライト・アンド・ビルディング2018」で税関に差し押さえられ、ブースが検察官によって隔離されたことは、2018年3月22日の台湾のニュースで大きく取り上げられました。
ドイツでは知的財産権に対してハイレベルの保護が行われています。最大の特徴として、見本市会場において高い確率で権利侵害の模倣品を差し押さえることが挙げられます。過去にも、台湾メーカーが見本市に出展した際に裁判所からの仮処分を受け、相手方から弁護士費用まで請求されたことがありました。16年3月23日の本コラム(第199回 ドイツにおける商品の外観模倣 https://www.ys-consulting.com.tw/news/63165.html)では、差し押さえを受けた台湾メーカーが、その後の裁判所の手続きにおいて逆転判断を受けたことを紹介しています。
ドイツのヘッセン州の検察官は、見本市において刑事事件としての捜索と差し押さえを行うなど、知的財産権に一層の保護を与えることに積極的なようです。取り締まり対象は、商標権の侵害の他、特許権の侵害も含まれます。ドイツで特許権の侵害は刑事責任を負うとの規定が設けられていることによります。
取り締まりを税関に申請
商標権者や特許権者が、あるメーカーがその権利を侵害している疑いのある物品をフランクフルトの見本市に出展することを知った場合、商標公報、特許公報の写しを添付して、フランクフルト見本市に駐在している税関に対して取り締まりを申請することができます。ただ、見本市の情報は頻繁に変更や訂正が行われるため、取り締まりの前日の勤務時間内に、取り締まり対象の企業名、ブース番号、侵害物件の表示と、商標公報、特許公報について説明書を提出しなければなりません。税関は受領後に検察に連絡し、翌朝から取り締まりを行います。
税関は権利侵害に関する正確な資料を要求してくるため、知的財産権の権利者は、前日に会場で証拠の収集を行い、的確な証拠を得なければなりません。この証拠の収集は通常、ドイツの弁護士が担当します。その理由は、▽特許などの権利内容を正確に把握している▽模倣品の見分け方を理解している▽分析能力や権利侵害の事実に関しての説明能力があるため、それらを検察官に対して適切に説明できる──からです。
見本市において証拠を収集することは容易ではありません。取り締まりの対象となる可能性がある相手側は、そう簡単に他者にブースの写真を撮らせたり、物を検査させたりしないからです。また、特許を侵害している疑いがある物がブースに公開されているとは限りません。今回、私たちが取り締まりに成功したのは、これらの多くの困難を、全て克服することができたからです。
取り締まりのプロセス
通常、取り締まりは朝一番で開始されます。現場では武器を携帯し、荷台を押した税関職員と数名の弁護士が会場を闊歩(かっぽ)するので、経験のあるメーカーは何が起きているかすぐ分かるはずです。
目的のブースに入った後、税関職員はまず取り締まりの内容を説明し、メーカー側に対象物の提出を求めます。メーカー側は異議がある場合、その場で権利を侵害していないことについての証明を行わなければなりません。それができない場合は、権利の侵害が疑われる物品は押収されます。
押収の方法には、▽展示ブースから権利の侵害が疑われる製品を排除する▽ポスターから同製品に係る画像を削除する──などの方法があります。カタログ上の写真、説明、商品規格などの資料についても全て黒く塗りつぶすか、全てのカタログを押収します。最も確実な方法は、まず税関職員が全てのカタログを探し出し、そのうちの4冊をサンプルとして同様の方法で塗りつぶします。うち1冊と、マジック1本をブースの担当者に手渡した上で、翌日までに残りの全てのカタログを同様に塗りつぶすよう命じます。そして翌日の再検査の際に、塗りつぶされていないカタログがないか確認し、発見された場合には、全てのカタログを押収するというものです。
前述のように、これらのプロセスは刑事的な取り締まりですから、検察官は取り締まりを受けているメーカーに対してその場で保証金の支払いを求めます。罪を認めた場合はその保証金はそのまま罰金となり、取り締まりは終了となります。メーカー側が異議を唱えた場合は、裁判所が権利の侵害の有無を判断し、処罰を決定します。もちろん、裁判所が無罪と判断した場合、保証金は返却され、取り締まりを求めた知的財産権者は訴えられますが、このような緊急性のある取り締まりにおいては、検察官は権利の侵害が明らかな案件にしか取り締まりを行いませんから、取り締まりを受けたメーカーが裁判所から、自らに有利な判断を受けることはあまりありません。
見せしめ効果
ドイツの見本市に出展する目的は、欧州に商品を売り込むことです。もし見本市において取り締まりを受ければ、欧州のバイヤーたちは通常その商品に手を伸ばしません。そのため、このような取り締まり行為は、知的財産権者にとっては見本市のブースから物を押収した以上の意味があります。
税関の人員に限りがある一方、見本市での取り締まりを申請するメーカーはかなりの数に上ります。そのため、取り締まりの申請を受けた検察官が全ての案件を受理するとは限らず、また受理したとしても時間の許す範囲での執行となってしまうことがほとんどです。そのため、知的財産権者が一度に多数のメーカーに対しての取り締まりを望む時には、裁判所に対して民事の仮処分を申し立て、裁判所による取り締まりを行う方が、より適当でしょう。
徐宏昇弁護士
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