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第241回 税関による商標権に対する保護処置


ニュース 法律 作成日:2018年3月14日_記事番号:T00075955

産業時事の法律講座

第241回 税関による商標権に対する保護処置

 台湾の税関では商標権を侵害している輸出入荷物について「商標権者が特定の輸出入荷物を差し押さえる」、「税関が自主的に税関に登記されている商標を侵害する輸出入荷物を差し押さえる」という2種類の保護処置を採択しています。前者の場合、商標権者は自ら輸出入を発見し、告発しなければなりませんし、税関は民事裁判所の差し押さえプロセスに協力するという立場でしかありません。後者の場合、多くの商標権者は税関に自らの商標を登記しておくことで、税関よる荷物の輸出入の際の検査に協力しています。

 自らの商標権についての検査を恒例的に行ってもらいたい商標権者は、本物と模倣品に関する文字による説明と特徴を比較説明した写真を税関に提出し、「提示保護(保護要請)」を行うことができます。

商標使用が条件

 台湾の商標法の規定では、商標権者が登録した商標を使用せずに3年がたつと他者に登録の取り消しを申請される可能性はありますが、商標登録者が商標を使用することは義務付けられてはいません。しかし、税関の規定によれば、商標が使用されていないのであれば、商標権者は「本物」の写真と説明を提出することはできないし、もし、本当は使用していない商標に関する写真や説明を提出した場合は「公務員に嘘を記載させた」という刑法上の罪に問われるとされています。

 このような規定が設けられている理由としては、税関が自主的な取り締まりを行うのは重大な権利侵害に対してのみであり、またその目的は国内外の消費者を模倣品から守ることにあるからだと思われます。使用されていない商標については、商標権は存在しますが、「模倣」はあり得ません。そのため、使用されていない商標について、税関が「提示保護」のような高度の法律的保証を与える必要はないとの考えです。

保護要請のプロセス

 商標権者が税関に提出する資料は、税関の検査プロセスに沿ったものがベストです。筆者の経験によれば、税関を通過する輸出入荷物は全てX線検査を受けるわけですから、商標権者は模倣品の外観の写真のほかにも、模倣品のX線写真なども提出することで、税関職員の印象をより確実にすることができます。

 「提示保護」の申請をしていた場合、税関が模倣品と見られる荷物を発見した際には、商標権者に対して税関へ来て内容を確認をするよう通知をします(弁護士を通して「提示保護」の申請をしている場合は弁護士に対して通知されます)。商標権者(または弁護士)は通知を受けてから24時間以内に指定された場所へ赴き、確認しなければなりません。また、海外の商標権者の場合は台湾の代理人に委任をしなければなりません。

 商標権者は現場で荷物の確認を行った後に、3日以内に鑑定レポートを提出しなければなりません。税関は荷主に対しても商標権を侵害していない旨の証明を要求します。もし商標権者が鑑定レポートを提出できない場合、税関は荷物のサンプルを採集した後に荷物を荷主に返却します。もし荷主が商標権を侵害していない旨の証明を提出できない場合、税関は案件を警察に移送します。つまり、荷主が商標権を侵害していない旨の証明を提出した場合は、荷物は差し押さえられないことになるわけです。その場合、商標権者は他の方法で自らの権利を守らなければなりません。

 税関は警察ではないため、案件が警察(通常は空港警察署、水上警察署)に移送された後にはかなりの時間がかかってしまいますし、一部の証拠に至っては忘れられる可能性もあります。そこで、商標権者としては、将来の刑事訴訟プロセスを有利に進めるために、荷物がまだ税関に取り置かれている短い期間のうちに、荷物の詳細な情報を取得し、税関が警察に提出する資料の中に記載してもらう必要があります。また、商標権者はその後かなりの期間、輸出入されようとした荷物を見ることができません。荷物の性質によっては差し押さえられた後に変形してしまうかもしれないので、先の鑑定報告にはかなり詳しく模倣品の内容を説明し、記録しておく必要があります。

 荷物が差し押さえられ、案件が警察に移送された後は、一般の刑事調査プロセスとなります。つまり、もし、商標権者が荷物が模倣品であることに対して十分な確証を得ていないというような場合、差し押さえの段階できちんと説明しておかなければ虚偽告訴の罪に問われる可能性があるということです。

過料の可能性

 荷主が輸入しようとした模倣品が税関で差し押さえられた場合、荷主は荷物を没収されるだけでなく、税関から過料を課される可能性があります。過料の金額は、通常は荷物の市場価格ですが、再犯者の場合は額は1.5倍となり、最高で3倍まで膨れ上がります。

 規定の上では、税関が商標権者の提出した鑑定報告書により模倣品を差し押さえることができますが、それだけで過料、没収をすることはできません。2014年の案件では、ある大手弁護士事務所が商標権者の代理として鑑定レポートを提出、荷主は商標権を侵害していない旨の説明をできなかったため、荷物は差し押さえられました。しかし、税関が過料を科す際になって荷主が証明を提出したところ、同弁護士事務所は税関に対して「法に則った処理をお願いします」とだけ通知したことから、財政部は同弁護士事務所も自らが提出した鑑定レポートに問題があることを認めたと判断し、過料の判断を取り消し、税関に詳細な再調査を命じました。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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