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第245回 商標を横取り登録されたらどうする?


ニュース 法律 作成日:2018年5月9日_記事番号:T00076932

産業時事の法律講座

第245回 商標を横取り登録されたらどうする?

 報道によると、台湾のEコマースやUFOキャッチャーで人気となっている中国発の商品「金冠ブルートゥーススピーカー」が、台湾で商標がある台湾企業に横取り登録され、税関での水際措置として輸入差し押さえの保護手続きを取られてしまったため、同商品が税関で大量に「留置」される事態が起きています。これにより、荷主は同商品を受け取ることができないだけでなく、刑事責任をも負わなければならなくなってしまいました。

 台湾の輸入業者からみれば、同商標は中国の正規生産販売メーカーが使用しており、中国において長年にわたって商標登録されているものなのに、なぜ同メーカーの商品を輸入すれば登録商標の侵害となってしまうのか?と思いますが、税関側からすれば、「属地主義」、「登録保護」などの理論によって保護されている登録商標を使用した商品を、輸入することはできないということになります。

横取り登録は取り消し可能

 確かに、この「属地主義」および「登録保護」などの理論は商標法における重要な原理・原則で、▽外国で登録した商標の効力は台湾には及ばない▽登録された商標は法律の保護を受け、他者は相同または類似する商品/サービスに対して同商標を使用することはできない──などの効力を生みます。しかし、このような重要な原理・原則であっても、さらに重要な原則に直面した場合には、縮小して解釈されなければなりません。

 商標法の第1条には「商標権および消費者の利益を守り、市場における公正な競争を維持し、もって工商企業の正常な発展を促す」という商標法の目的が規定されています。他者の商標を横取り登録する、さらには海外の正規製造販売メーカーの商品の輸入を禁止するような行為は、どれもこの「目的」に沿ったものではありません。つまり同法が保護すべき行為ではないことは明らかです。

 商標法には、横取り登録に対する対応が規定されています。同法第30条第1項第12号には「商標が、他者が同一または類似する商品またはサービスに対して先に使用している商標と相同または近似しており、また申請者と同他者とが契約、地理的関係、業務往来、その他の関係にあり、かつ申請者が同他者の商標の存在を知悉しているにもかかわらず意図的にそれを模倣または横取りして商標登録の申請を行った場合」、同商標は登録を許されない。との規定が設けられています。この「意図的にそれを模倣または横取りして商標登録の申請を行った」とは、実際の使用者が登録をする前に横取りして商標を登録してしまうことを指しています。つまりこのような商標は、「評定」(無効審判)を求めることで、その登録の取り消しをすることができるのです。

 しかし、皆さんもご存じのように、本当の商標権者が知的財産局に対して評定を求めた場合、同局は間違いなく登録者に対して答弁を求めるため、評定のプロセスにはとても時間がかかってしまいます。また、同局は習慣的に自らまたは同僚が行った決定を守ろうと保身をする傾向にあります。そのため、すでに登録がされている商標の取り消しについては、一貫してとても厳格な審査基準を設けています。結果として商標の評定案件については知的裁判所による判断をもって最終的な判断とされる場合がほとんどです。そのため、本当の商標権者が評定の申し出をしたとしても、問題を即時に解決することは難しいのが現実です。

2種類の水際措置

 今年3月14日の本コラムでも詳しく紹介したとおり、台湾の税関における水際措置には2種類あります。そのうちの1つである「保護要請」は、商標権者が財政部関務署に対して保護を求める商標の登録をしておくことで、税関が商標の侵害が疑われる貨物を発見した際にそれを自主的に差し押さえるというシステムで、このような措置を受けた場合、もし差し押さえられた貨物が本当の商標権者のものであるときは、本当の商標権者は同署に対して証拠を提出し、同措置の「中止」を求めることができます。

 もう1つの方法は、民事裁判所による差し押さえ命令ですが、この措置を受けた場合、荷主は、裁判所に対して「申訴」を提起することで、同処置の「解除」を求めることができます。

 もし、商標を横取り登録した者が、この2つの保護措置のどちらも取っていない場合、税関には輸入貨物を差し押さえる理由はないはずですから、荷主が税関に「商標を横取り登録されている事実」を証明して、措置の即時解除を求めることができます。しかし、このように、税関側に法律上の確固とした理由が見受けられないにもかかわらず、保護措置をとったような場合には、例えば脱税や虚偽申告をしているなど、荷主が違法行為をしている疑いがあるといった情報を税関側が把握している可能性もあるので、解除申請を行う際には注意が必要でしょう。

横取り登録者に権利なし

 さて、読者の皆さんの関心は、本件のような場合において、外国の正規製造販売メーカーが横取り登録されている商標権を侵害してしまうのかどうかという点にあると思います。

 この点については、知的財産裁判所が2015年に、日本のNUTECオイルの商標が台湾で横取り登録された事件の判決において、日本から輸入された正規製造販売メーカーの同商品は台湾において横取り登録されている商標を侵害しない、との判断を下しています。同案件では、日本の正規製造販売メーカーが日本において商標NUTECを登録したのが台湾よりも先だったにもかかわらず、知的財産局は、同社がNUTEC商標が著名商標であることを証明できていないことを理由に、同社の評定を棄却しました。しかし、その後の地方裁判所、および知的財産裁判所はともに、評定の結果が同社に取って不利であったとしても、台湾において横取り登録された商標が無効であることには変わりがないとの旨の判決を下しました。

 また、台南地方裁判所は17年の別の案件において、中国の正規製造販売メーカーから輸入したRFYオートバイ向けショックアブソーバーは、台湾において横取り登録されている商標を侵害しない、という判決を下しています。同判決はその理由において、商標を横取り登録した者は、「本当の商標権者」ではないため、同商標を登録する権利を有していない、とも判断しています。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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