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第249回 「賭博用設備」の特許申請


ニュース 法律 作成日:2018年7月11日_記事番号:T00078072

産業時事の法律講座

第249回 「賭博用設備」の特許申請

 台湾で賭博場を経営することは犯罪です。刑法第268条の規定により、営利を目的として賭博場を開張すること、または人を集めて賭博をした場合は3年以下の懲役に処せられます。政府以外の者が賭博場を経営する他、宝くじを発行することもできません。

 賭博場の開張は、刑法に抵触するだけではなく、「公共の秩序または善良な風俗を害する」行為と見なされるため、「公共の秩序または善良な風俗を害する発明には発明特許を付与しない」という台湾特許法24条第3号の規定との関わりが問題になります。

 2013年6月、米国のCFPH, LLC社は、「遊戯設備およびその使用方法」という発明に関する特許を台湾の経済部智慧財産局(知的財産局)に出願しました。この発明は、オンライン賭博の技術的手法に関するもので、賭博用のサーバーに賭け(ベット)の受け付けと払い戻しの機能だけでなく、顧客の携帯電話の位置情報を判別する機能を設けることで、顧客の携帯電話が賭博場内または金銭による賭博が許可されている地域にある場合には金銭による賭けを、賭博場外または金銭による賭けが許可されていない地域にある場合にはポイントによる賭けを行うよう、自動判定できるという内容でした。

 特許明細書では、次のように解説されていました。大部分の国では金銭による賭博が禁止されているものの、特定の区域において認められていることもあります。インターネットの普及によって、このような合法的な賭博場はスマートフォンを利用したオンライン賭博サービスを提供するようになってきました。この場合、賭博が禁止されている地域から接続している顧客からの賭けを受けてしまうと、顧客の所在地である地域に賭博場を開張したことになり、法律に違反してしまいます。

「賭博は違法」を理由に棄却

 智慧財産局は、第1次審査意見において、同発明は金銭を用いた賭博を行うことで「公共の秩序または善良な風俗を害する」ため、発明特許を付与できないと判断を示しました。これに対して出願人は、答弁の中で次の主張を行いました。
・台湾では賭博は法律上禁止されているが、同発明を実施するにあたって必ず法律違反となるわけではない。
・同発明の設備が台湾で製造されたものだとしても、台湾で使用されないのであれば、台湾の公序良俗に反することはない。
・台湾の合法な賭博に応用したものである場合も、違法とはならない。

 しかし、智慧財産局は出願者の主張を受け入れず、15年11月、次の理由により特許出願を棄却しました。
・本案発明が発明特許を受けた後にどのような実施がされようとも、特許の審査に対して影響を及ぼすことはない。刑法第266条、第268条には賭博を禁止する旨の規定が設けられており、金銭を用いた賭博は違法で公序良俗を害するものである。

「公序良俗を害する」のか

 これに対し出願人は、再審査請求時に次の主張を行いました。

1.特許審査基準によると、発明が正当な商業利用をされた場合において、公序良俗を害さないのであれば、乱用された場合に公序良俗を害する恐れがあるものであっても、法の規定により特許を付与することができないとされるものに属すものではない。本件発明は、まさにこのような発明である。

2.本件発明のポイントは、顧客の携帯電話が合法的に賭博を行うことができる地域に存在するかどうかを自動判定する点にあるが、その目的は公序良俗を害することを防止するためであり、本件発明は公序良俗を害さない。

3.世界貿易機関(WTO)を設立するマラケシュ協定の付属議定書、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)には、次の規定が設けられている。「加盟国は、公の秩序または善良の風俗を守ることを目的として、商業的な実施を自国の領域内において防止する必要がある発明を特許の対象から除外することができる。ただし、その除外が、単に当該加盟国の国内法令によって当該実施が禁止されていることを理由として行われたものでないことを条件とする。」このため、智慧財産局は賭博が法律に禁止されている行為であることのみを理由として、賭博用設備が公序良俗を害する発明であると推論できない。

 智慧財産局はこれ以降の審査意見において、「公序良俗」を持ち出すことはありませんでした。同出願はその後、若干の修正を経て、18年3月1日に第I616228号として特許が付与されました。

 本案件の特許審査過程から判断すると、最終的に特許を認めた智慧財産局の判断が、同局の賭博用設備に対する立場を反映していると考えられます。将来、智慧財産法院(知的財産裁判所)が異なる判断を示さない限り、賭博用設備に関する特許出願については、これが確定された法律上の見解ということになります。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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