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第253回 電子計算機使用妨害罪の証明


ニュース 法律 作成日:2018年9月12日_記事番号:T00079231

産業時事の法律講座

第253回 電子計算機使用妨害罪の証明

 「電子計算機使用妨害」という犯罪がその他の犯罪との最も大きく違うのは、全ての行為がコンピューターシステムの中で発生している点にあります。コンピューターが使用できない、データが書き換えられた・削除されたなど、犯罪の結果は外部からも見て取ることができますが、犯罪行為の証拠は電磁気的な記録しかありません。そのため、それらの証拠をどのように取得し、またどのような方法で裁判所に提示すればよいのかという点がこの犯罪を証明する上での最大のポイントとなります。

ログイン不能コード埋め込み

 曽煥鈞氏は澄瑩実業有限公司の委託を受け、2015年から翌年にかけて入出荷検品在庫管理システム(以下「管理システム」)の開発を行いました。管理システムのメーンプログラムとデータは澄瑩実業のサーバーにインストールされ、管理システムが必要とするその他の連結ファイルは、同サーバーからアクセスできるNAS(ネットワークアタッチトストレージ)に保存されていました。

 澄瑩実業は7月初めに曽氏との契約関係を解除しましたが、曽氏は16年7月末から8月初めにかけて、同管理システムのソースコード内に「月の値が9以上、または年の値が2017以上となった場合には管理システムのホームページ版はログインおよび新しいオーダーの作成ができなくなる。月の値が10以上となった場合には管理システムはログイン不能となる」というコード(以下「コードA」)を埋め込みました。コードAによって9月以降は同管理システムを使用できなくなりました。

 曽氏は16年9月、NASへのハッキングを4度試みましたが失敗。その後7月末に作成しておいた「OK」というアカウントで澄瑩実業のサーバーに侵入し、サーバー内に保存されていた▽監査ログファイル▽システムログファイル▽入出荷検品在庫管理システムプログラム▽入出荷検品在庫管理システムホームページ版および関連データベース▽データベースバックアップファイル▽動画の定期(毎週月曜日)バックアップファイル▽アドミニストレーター(管理者)以外のアカウント──のデータ(以下まとめて「電磁記録B」)を削除した上で、サーバーをシャットダウンさせました。

 澄瑩実業は異常を発見したため、逆解析ソフトウエアで、同管理システムを逆解析して得たソースコードをもって、新竹県竹北の警察局に対して刑事告訴しました。

悪意の有無

 新竹地方法院は18年8月に曽被告人に対して懲役7月の判決を言い渡しました。判決の中で裁判所は以下のように認定しました。

1.被告人は、澄瑩実業が提供した管理システムを逆解析したソースコードは証拠とできないと主張するが、これらの証拠は私人が提供したものであり、国家権力の乱用によって取得されたなどといった問題は存在せず、また告訴人が同証拠を取得した目的は犯罪を証明するためで、乱用または偽装の問題もない。よって証拠とできる。

2.被告人は、コードAの目的は自らの著作権を保護するためだったと主張するが、権利行使の方法は合法でなければならない。

1)双方は同管理システムの著作権の帰属に関して約定を設けていない。しかし、「出資人」がその出資により完成されたコンピュータープログラムを利用する権利を有するとの法の規定がある。また被告人は、契約が継続されない場合には、澄瑩実業が16年10月以降は同管理システムを使用できない旨の約定が双方の間に存在したと証明できていない。

2)もし被告人の主張が真実とすれば、澄瑩実業は少なくとも69万台湾元(約250万円)の資金を費やし、被告人に対してカスタマイズ化された管理システムの開発を依頼したにもかかわらず、開発・テストの完了後に被告人との契約を解除し、3カ月もたたずに完全に使用できなくなったことになる。このような状況は、通常から掛け離れている。

3)もし被告人に澄瑩実業による同管理システムの使用をやめさせる権利があるならば、なぜその旨を故意に隠蔽(いんぺい)し、事前の告知をしなかったのか。事前の告知があれば、澄瑩実業は応急措置によって、営業上の損害を回避できたはずが、実際には同管理システムが使用不能となり、逆解析で原因を究明せざるを得なくなったという事実からも、被告人が悪意をもって澄瑩実業による同管理システムの使用を妨害したことは明らかである。

3.澄瑩実業は、被告人がNASへのハッキングを試みたが失敗に終わったため、電磁記録Bを削除したという行為について▽16年9月22日のシステム管理者ページ画面1枚▽イベントビューアのスクリーンショット4枚▽管理ページ画面1枚▽澄瑩実業が16年12月16日に行った作業環境のリストア検査のサイドビデオ1枚▽その内容説明大綱1部──を証拠として提出している。

 また、▽契約が解除された後、双方の関係はよいものではなかったこと▽被告人は澄瑩実業に通知することなく、自らのIPアドレスからNASへの侵入を試み失敗していること▽同「OK」アカウントは被告人専用のアカウントであること▽サーバーにログインが可能な管理者のうち、被告人だけが「善良ではない動機により告訴人による電子計算機の使用を妨げた者」であること──などの点から、被告人が正当な理由なく「OK」アカウントを使用し、コンピューター内の記録を削除したことは明らかである。

 本案は控訴が可能な案件ですが、この地方裁判所の判決における証拠の認定方法や、犯罪行為を認定する際の論述は、参考とする価値あるものでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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