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第255回 中国企業の著作権訴訟


ニュース 法律 作成日:2018年10月24日_記事番号:T00080000

産業時事の法律講座

第255回 中国企業の著作権訴訟

 「台湾地区与大陸地区人民関係条例(台湾地区と大陸地区の人民関係条例、両岸人民関係条例)」第78条には「大陸地区人民の著作権その他の権利が台湾地区において侵害された場合、その告訴または自訴に関する権利は、台湾地区人民が大陸地区において享受するのと同等の訴訟権利に限られる」との規定が設けられています。この規定により、中国に設置されている企業が台湾の検察署に対して著作権侵害の告訴を行うためには、同様の状況の下で台湾企業が中国で告訴できることを証明しなければなりません。

侵害地が争点に

 劉鈞深氏が責任者を務める台湾の三川工芸製品有限公司(以下「三川」)と、龍笛実業股份有限公司(以下「龍笛」)は、三川が龍笛に生地を供給する契約を締結しました。龍笛は生地を衣料品に加工し、2011年5月、台湾の主要百貨店で試着販売イベント「2011年春 蔡孟夏 試穿留影試衣有礼」を行いました。

 中国の著名画家、陳家泠氏は、この衣料品の生地に、自らの美術著作「重彩荷花」など4件がプリントされているのを発見、士林地方検察署に対して告訴を行いました。検察は調査を行い、劉氏と三川を「販売の意図をもって他者の著作を無許可で複製した」罪で起訴しました。

 士林地方法院(士林地方裁判所)は14年12月、「公訴不受理」の判決を下しました。裁判所は、検察が起訴した「複製」行為は、全て中国で発生しており、告訴人の著作権侵害地は台湾ではないため、刑事告訴を提起することはできないと説明しました。

加工・販売も「散布」行為

 その後、検察による控訴を受けた智慧財産法院(知的財産裁判所)は15年5月、原判決を棄却し、士林地方裁判所に差し戻しました。理由は以下のようなものでした。

1.被告は、中国の印刷工場に生地のプリントを委託し、龍笛の上海支社に引き渡したが、契約締結時において、龍笛が同生地を使用した衣料品を台湾において「散布」することは知っていた。このため、被告が係争美術著作をプリントした生地を販売した「前半の行為」、龍笛が生産・製造し、その後台湾全土の百貨店で試着販売イベントを行った「後半の行為」は、どちらも「散布」行為を構成する。「散布」行為が台湾で発生した以上、告訴人の著作権は、確かに台湾において侵害されている。

2.中国の刑法第217条には、許可を得ずに他者の著作権を「複製」し、その「違法所得の額が比較的多大、その他の重大な事情が認められる」場合には3年以下の有期刑となるとの規定が設けられている。また、「最高人民法院与最高人民検察院関於弁理侵犯知識産権刑事案件具体応用法律若干問題之解釈(最高人民法院と最高人民検察院による知的財産権侵害刑事案の取り扱いに関する具体的な法律の応用にかかる若干の問題の解釈)」の規定によれば、刑法第217条における「違法所得の額が比較的多大」とは3万人民元(約48万6,000円)を指している。

3.被告弁護人は士林地方裁判所において、本件のプリント費用は、付加価値税を除いた額で3万2,433.29人民元であると認めた。3万人民元を超え、中国でも刑事告訴を行うことが可能な案件のため、前述の「両岸人民関係条例」の規定に基づき、陳氏は本件の告訴を行うことができる。

4.検察が起訴した罪名は「複製」権の侵害であるが、当裁判所の審理によって「散布」権の侵害が認められたため、起訴内容の変更が可能である。原裁判所による「公訴不受理」の判決には誤りがある。

利益は3万人民元未満

 被告はこの判決を不服とし、最高法院(最高裁判所)に上告しました。最高裁判所は15年12月、知的財産裁判所の判決を支持し、上告を退けました。

 その後、本件は士林地方裁判所において再度審理が行われましたが、同裁判所は17年1月に不受理の判決を下しました。判決は、以下のように認定しました。

 検察の提出した証拠によると、被告が龍笛に販売した生地の金額は2万4,793.68人民元である。いわゆる「違法所得の額」とは、コスト、税金、その他の費用の控除後の実際に得た利益を指し、収入全てを指すのではない。

 本件が中国で発生した場合、刑事告訴を行うことはできない。「台湾地区人民が同様の状況の下で、大陸地区において告訴を行うことができない」ことから、「告訴人は台湾において本件の告訴を行うことはできない」。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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