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第260回 中台間の闇振込


ニュース 法律 作成日:2019年1月9日_記事番号:T00081401

産業時事の法律講座

第260回 中台間の闇振込

 原告の張天賞氏(以下「張氏」)は、友人である李文玲氏(以下「李氏」)の母親、陳桂珠氏(以下「陳氏」)を装った詐欺グループに騙されたとして、台北地方法院(地方裁判所)に訴訟を提起しました。

 張氏の供述によれば、陳氏の名を語った詐欺グループは、張氏が先に行っていた化粧品ビジネスに対する投資金を返済するために土地を手放すこととなったが、そのためには手数料として462万台湾元(約1,630万円)を先に支払わなければならないため、張氏に同金額を工面してもらえるよう求めました。そこで張氏は2012年11月29日に友人である林永標氏(以下「林氏」)に委任し、詐欺グループの指定した口座、すなわち被告である「林墾」名義の口座に振込を行いました。その後、いつまで待っても陳氏から投資金の返済がなかったため、騙されたことに気付き、訴訟を提起し、林墾に対して同金額の返還を求めました。

 訴えに対して被告は次のような抗弁を行いました。

 ▽自身は中国において「蘭州正林農墾食品有限公司」を経営している▽闇振込を利用して中国での事業所得を台湾に持ち出すことを画策し、12年11月28日に100万人民元(約1,590万円)を業者の指定する口座に振り込んだ▽翌日に林氏が振り込んだ462万台湾元を受け取った▽受け取った金額は詐欺による所得ではない──。

闇振込の証明できず

 台北地方裁判所は審理の後、15年12月に被告に対して462万台湾元全額を返還するよう命じました。

 裁判所はまず林氏と原告が共に建設会社を経営していることに着目し、資金の流れを次のように解明し、前述の462万台湾元は原告が林氏に借りていたものであると判断しました。

 ▽林氏の経営する敬裕工程公司と、原告の経営する名哲工程公司は発注元と発注先の関係にあり、敬裕公司は工事を名哲公司に発注していた▽林氏が前記の462万台湾元を振り込んだ後、原告から同金額の返済がなかったため、敬裕公司は名哲公司に支払うべき金額の中から、462万台湾元を差し引いた▽しかし原告は林氏に対して多くの借金があったため、同金額を差し引いただけでは全てを相殺できなかった▽そのため原告は13年1月4日に別途731万8,336台湾元を敬裕公司に支払い、借金を返済した──。

 これに対して被告は、自らの行った振込が闇振込であることを証明するために、いくつかの振込記録を提示しましたが、それらはどれも「振込周周貸借金」、「小売振込周周」と記載されていただけで、台湾と中国間における闇振込であることは証明できませんでした。

詐欺被害の典型?

 被告は判決を不服として控訴しましたが、台湾高等法院(高等裁判所)は16年9月に次のような理由から原告の訴えを退けました。

1、原告は複数の特殊詐欺グループの詐欺に遭い、複数の口座に対して複数回の振込を行い、また事後にそれらの口座の所有者に対して刑事告訴を行っている。このような状況は、「被害者の知り合いを装い、各種事情を並べ立てることで被害者に複数の口座に対して振込をさせることで、調査を難しくする」という詐欺グループの手法と、結果としては同じものとなっているため、原告が詐欺グループに騙されていたことが分かる。

2、また被告は、「原告が詐欺グループに騙されたとして提起した刑事告訴のうちの1件は、別の詐欺グループに対して告訴を提起した日にちと同日に別に騙されているが、企業の責任者である原告が果たしてこんなにも簡単に騙されるものなのか?刑事告訴を行った後に、またすぐに詐欺に合うことなどあるのか?」などと抗弁を行ったが、これらの案件のうちのいくつかは、すでに裁判所で有罪判決が下されていることを理由に、原告は本当に騙されていたと判断した。

3、被告の提出した証拠では、被告は「周周」に対して振込をしたことがあることしか証明できず、また被告が12年11月28日に行った100万人民元の振込と、林氏が12年11月29日に行った462万台湾元との関係も証明できない。

複数口座への振込履歴

 被告はこの判決を不服として上告しました。最高裁判所は18年12月に次のような理由により、この判決を破棄、差し戻しました。

1、原告は陳氏が土地を売り払うための手数料として振込を行ったと供述しており、原告と陳氏の間にはある種の契約関係があったことがうかがえるが、それはどのような内容の契約なのか?また原告は本当に詐欺にあったのか?原告は法に基づいて契約を取り消したのではないのか?裁判所はこれらの点についての判断を行うことなく、被告に同金額を返還するよう求めているが、このような認定方法は違法である。

2、被告は、原告は事実上「闇振込業者と協力している精算同業者」であると主張し、それに関する証拠も提出している。また原審は、原告が12年11月から12月にかけて、自らまたは他者の名義で、複数の口座に対して複数回の振込を行っており、その総額は2,341万台湾元に上ることを認定している。このことからも、被告の主張が全く根拠のないものではないことが分かる。

 本件はまだ最終的な結果が出ていませんが、中台間における闇振込には相当程度のリスクがあることはここまでの流れからも分かります。

 一方で、台湾の裁判所は商業上はよく見る「操作方法」に対して多くの場合「門外漢」です。そのため、今回のような事件が発生した場合でも、実際には何が起こっているのかを的確に判断し、それに対して正確な判断を行うことは難しいのが現状です。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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