ニュース 法律 作成日:2019年2月27日_記事番号:T00082225
産業時事の法律講座多くの企業は他社または自社の社員との間で秘密保持契約を締結する際、何もかもを保持しなければならない秘密と定義する傾向があります。しかし、実際に秘密が漏えいされ、裁判所の判断を仰ぐこととなった場合、裁判所の考え方は企業のそれとは異なっています。
「秘密保持の範囲広過ぎ」
泰菱系統工程股份有限公司(以下「原告」)は、朱委書氏(以下「朱氏」、「被告」)との間で締結した「保証書」に朱氏が違反したことを理由として、朱氏に対して1,000万台湾元(約3,600万円)の損害賠償を求め、2014年6月、台北地方裁判所に対して民事訴訟を提起しました。同社が主張した事実は次のようなものでした。
1.被告は01年より原告の下で工務部長として雇用されていた。03年12月30日には、在職期間内に▽保管文書の持ち出しや他社への貸し出し▽企業経営▽他社の業務の兼任──を行わないことを内容とした保証書を原告との間で締結した。
2.07年、被告は原告の関連企業である上海泰菱金属製品有限公司へ出向し、12年11月に保証書を締結。また13年4月には、違約した場合には1回当たり10万~100万元の賠償金を支払う旨の損害賠償条項を追加した。
3.原告は、被告が12~13年に原告の秘密を蘇州政詮新型建材有限公司にメールで送っていたこと、および被告が10~13年に被告配偶者の名義の無錫翊凱装飾工程有限公司(以下「無錫翊凱公司」)で、原告の顧客の工場内装工事を請け負っていたことなどを発見した。
これに対し台北地方裁判所は15年10月、保証書の秘密保持および競争禁止の範囲が広過ぎ、民法の規定に違反すること、原告が無錫翊凱公司に対し、工事などを依頼していた経緯から、被告の企業経営に同意していたと認められるといった理由から、原告の訴えを退けました。
営業秘密法の規定が優先
この判決を不服とした原告は、台湾高等裁判所に控訴。同裁判所は16年8月、次のような理由から被告に対して80万元の支払いを求める判決を下しました。
1.保証書の内容は公平で、有効である。
2.秘密保持契約の締結にかかわらず、被告が守るべき営業秘密は、営業秘密法に規定された次の4つの条件を満たしたものに限られる。
1)一般的に知り得ないもの
2)実際または潜在的な経済価値が認められる
3)生産、販売、経営に用いることができる
4)既に合理的な秘密保持処置が取られている
3.無錫翊凱公司が請け負った工事のうち、原告から請け負った、または材料が提供されたものは、原告の同意があったと認められる。しかし、その他の8件の工事は、被告は原告の同意があったことを証明できていないため、保証書の約定に違反しており、賠償を行わなければならない。
4.雇用期間内の被告の年収は81万元であったことから、被告の毎回の違約金は10万元が適当で、8回分で合計80万元となる。
原告はさらに最高裁判所に対して上告を行いました。同裁判所は19年1月に第二審判決を破棄し、高等裁判所に差し戻しました。原告が請求した民法第544条の委任義務違反の規定には触れず、保証書のみに基づいた賠償の判断が行われたためです。この判決から、最高裁判所は高等裁判所の示した賠償金額に相当不満を感じていることが分かります。
本件判決から分かる通り、台湾の裁判所は、秘密保持を「営業秘密法の定義に則した情報を保持すること」と考えています。また、本件原告は被告が約定に違反して請け負った工事を列挙し、賠償を請求しました。費用は1件当たり50万~100万元ほどでしたが、台湾高等裁判所はなぜか「被告の年収」を賠償金額計算の根拠とし、1件当たりわずか10万元の賠償金を認めただけでした。裁判所のこのような判断は、正当な権利保護のために、何の助けにもならないものです。
徐宏昇弁護士
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