ニュース

記事番号:T00080899
2018年12月12日15:36

 特許制度の原理は、発明者が自らその発明を公開する代わりに、国家が発明者に対して一定期間の独占権を与え、特許権の有効期間内において、特許権者のみがその発明品または方法の使用、製造、販売を行うことができるというものです。特許権を付与することで、発明者に発明の内容を公開させ、科学技術の進歩を促進する狙いがあります。

 このような制度設計の下では、ある発明が特許出願を行う以前に既に刊行物に記載されている、または既に販売されており、第三者がその記載内容や発明物から内容を知ることができる場合、同発明には特許を出願する資格はありません。これを特許法理論上は「新規性」要件といいます。公開技術には新規性はないため、特許出願ができないのです。

特許優先権の仕組み

 各国において独立した特許制度が設けられているため、発明者が他国の特許を取得したいと考える場合には、同国において特許を出願しなければなりません。しかし、他国において特許の出願を行うには、まず特許発明の説明書を同国の使用言語に翻訳しなければならず、通常相当程度の時間がかかってしまいます。このため発明創作の奨励を目的に、国家間では条約などの方式で、一方の国家で出願された特許の出願日を他方の国家で主張できるとされている場合があります。これを特許優先権といいます。

 特許優先権の原理は、ある国(先出願国)で特許出願が行われた後1年以内に、他の国(後出願国)での出願が行われた場合、先出願国での出願日をもって、後出願国における出願日とすることができるというものです。これにより、先出願と後出願の間で、同特許が公開されることにより新規性が失われないようにできます。

 台湾特許法第28条第1項では「出願人は同一発明が中華民国との間で優先権について相互に承認を行っている国家または世界貿易機関(WTO)加盟国において、初めての出願がなされたものについては、同出願がなされた日より12カ月以内に中華民国において特許を出願したときには、優先権を主張することができる」との規定が、また同第3項には「外国の出願者がWTO加盟国の国民ではなく、またその属する国家が中華民国との間で優先権について相互に承認を行っていない場合でも、同出願者がWTO加盟国または互恵国の領域に住所または営業所を有しているときには、第1項の規定により優先権を主張することができる」との規定が設けられています。

租税回避地籍の会社の事例

 聯亜益生生物科技股份有限公司(以下「聯亜」)は、2015年2月13日に台湾の経済部智慧財産局(知的財産局)に対して、発明特許「免疫調整と抗アレルゲン効能をもった乳酸菌および同乳酸菌を含んだ医薬組成物」を出願し、同時に14年2月21日に米国で出願された14/186069号特許案による優先権を主張しました。

 知的財産局は審査の後、聯亜は、当時まだWTO加盟国ではなかったセーシェル共和国(15年4月26日に加盟)に属し、同国は台湾との間で優先権の相互承認も行っていないことを理由に、聯亜に対して、同社がWTO加盟国、WTO関連会員、もしくは互恵国の領域内に営業所を有している証明文書の提出を求めました。しかし、聯亜は関連書類を提出しなかったため、知的財産局は15年10月1日に「本案における優先権の主張は受理されない」との処分を下しました。

 聯亜はこれを不服として訴願を提起しましたが、それも退けられたため、知的財産局が本案の優先権を認めることを求め、「特許法第28条第1項は、優先権を主張する出願者が、WTO加盟国または台湾との間で優先権の相互承認を行っている国に属する者でなければならないとは規定していない」ことを理由として、智慧財産法院(知的財産裁判所)に対して訴訟を提起しました。

 しかし、知的財産裁判所は16年11月に以下の理由により、判決によりこれを棄却しました。

1.特許法第28条第3項は、改正以前は、「出願者が外国人の場合、その属する国家が中華民国国民の優先権を承認している者に限る」とのみ規定されていた。その後、台湾が01年にWTOに加入した後、「WTO加盟国の国民は優先権を主張できる」との規定が加えられ、現規定となった。確かに改正後の規定では「相互承認を行っていない国家の国民で、かつWTO加盟国の国民でない場合は優先権を主張することはできない」との明文規定は設けられていないが、元の規定が変更されたわけではなく、また知的財産局が公開している特許審査基準にも同様の規定があることからも、正確な法律解釈であると認められる。

2.同特許審査基準はまた、優先権を主張することができる出願者の国籍または営業所は、その出願日、すなわち台湾における出願日を基準時として判断されると規定している。セーシェル共和国は後にWTO加盟国となったが、その事実をもってしても、聯亜が優先権を主張することができるわけではない。

 この判決を不服とした聯亜は、最高行政法院(最高行政裁判所)に対して上告を行いましたが、同裁判所は18年7月、次の理由から上告を棄却しました。

1.特許法の改正過程を見る限り、「わが国において優先権を主張することができる出願者の資格規定は、前記規定においては属人属地原則が採択されており、優先権を主張することができる出願者の国籍の制限は緩和されてはいない」。

2.聯亜は、台湾の法律は「工業所有権の保護に関するパリ条約」の精神に従うべきだと主張するが、同条約規定における「いかなるもの」とは同条約の加盟国を指しており、台湾の規定が「属人属地原則」を採用していることは、同条約に違反するものではない。

 多くの投資家が企業をタックスヘイブン(租税回避地)に設置することで租税上の多くの優待を受けていますが、自らに不利になる結果を招くこともあります。今回の特許優先権がその一例です。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw
ニュース記事検索