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第262回 著名商標の効力範囲


ニュース 法律 作成日:2019年2月13日_記事番号:T00081932

産業時事の法律講座

第262回 著名商標の効力範囲

 2014年、ドイツ企業Rimowa GmbH(以下「リモワ社」)は、台湾の康鉅国際有限公司(以下「康鉅公司」)が、康鉅公司の商標「ROWANA」に横長の楕円(だえん)形の外枠を加えたリモワ社の登録商標「RIMOWA」と近似した商標を、康鉅公司の各種トランク、バッグ、サブバッグ、および腕時計などの商品に使用していることを発見しました。リモワ社は、康鉅公司の行為は消費者を混交させるものと判断、知的財産裁判所に対して、康鉅公司が同楕円形の枠の付いた「ROWANA」商標を各種トランク、バッグ、サブバッグ、腕時計に使用することの禁止、および侵害を受けた商品の販売価格の1,500倍、計2,500万台湾元(約9,000万円)の賠償支払いを求めて訴訟を提起しました。原告の訴えに対し被告は、商標「ROWANA」は被告の登録商標であること、両商標はそもそも近似を構成していないため消費者を混交させていないなどと抗弁しました。

 知的財産裁判所は15年8月、リモワ社の登録商標である「RIMOWA」は著名商標であり、また両商標は近似を構成していると判断、康鉅公司が「RIMOWA」商標、または枠を加えた「ROWANA」商標を各種トランク、バッグ、サブバッグに使用することを禁止する判決を下しました。裁判所はまた、商標法には、原告は販売価格の1,500倍の金額を賠償額に設定できるとの規定があるが、原告が商標法の規定を利用することで「被告の侵害行為によって原告がより多くの利益を得る」状況が発生することは許されないと判断、賠償金額は販売価格の100倍としました。

 一方で、腕時計については、リモワ社の商標「RIMOWA」がその使用を指定している商品との類似性が低く、消費者が混交・誤認する恐れはないと判断しました。また、原告であるリモワ社が、スーツケースなどとの関連性の薄い腕時計市場に既に参入しているという証拠も示されなかったため、係争商標の識別性または信用を損なう恐れもないと判断しました。

腕時計も対象に

 この判決に対して両社が共に控訴したため、知的財産裁判所第二審は16年5月の判決で、リモワ社の商標「RIMOWA」の効力が腕時計にも及ぶと判断した他、賠償金額を販売価格の150倍に引き上げました。判決理由は次のようなものでした。

1)リモワ社の商標「RIMOWA」は著名商標であり、また被告の商標「ROWANA」に枠を付けたものは、著名商標である「RIMOWA」との間で近似を構成する。

2)腕時計と著名商標「RIMOWA」が使用を指定している商品とは類似してはいない。なぜならば「腕時計という商品は時間の表示を主要な機能としていることと比べ、係争商標が使用されている商品は、モノの収納を主要な機能としていることから、両商品の機能は明らかに異なっており、両商品の生産および販売ルートなどの要素もおのずと異なっている」。しかし、「侵害を疑われている商標(被告の商標)が、係争商標(リモワ社の商標)を襲用または意識したものとなっていることから、係争商標が表現する識別性が減損され、価値が下落し、薄められてしまう危険性があり、その結果、消費者に対して係争商標が腕時計にも使用されているとの誤認を与えてしまうことで、係争商標の識別性を弱めてしまう」ため、商標の侵害を構成する。

3)被告は「艾普羅公司」(台湾の旺旺中時メディアグループ傘下の市場調査機構)の調査レポートを提出することで、▽係争商標が著名商標ではないこと▽関連消費者に混交・誤認を与える恐れはないこと──などを証明しようとしたが、同調査レポートについては、▽艾普羅公司の信用性不足▽調査方法が不正確で、調査の目的と合ったものではなかった▽調査の結論と証明を待つ事実との間で関連性と因果関係が認められない──などにより採択することができない。

4)商標権の侵害に係る損害賠償責任は、「損害賠償論における損害補塡(ほてん)の概念」の制限を受けなければならない。確かに、商標法は商標権者が侵害を受けた商品の販売価格の1,500倍を賠償金として計上できるとしているが、同規定は「実際の損害額にかかる商標権者の挙証責任を免除する」ためのものであるため、賠償金額が不適当な金額とならないよう、商標法は裁判所が同倍数を加減する権限を規定している。本裁判所は、「商標権者の得る賠償金額が、実際の損害の状況に照らして適当なものとなり、商標権者が不当に利益を得る、または加害者に対して超罰を与える結果とならない」などといった本件事案に係る各要素を考慮し、侵害商品の販売価格の150倍を適当な倍数であると判断した。

近似を構成しない商品にも及ぶ

 康鉅公司はこの判断を不服として上告しましたが、最高裁判所は同社の上告には具体的な根拠がないことを理由として19年1月に上告を棄却、これにより判決が確定しました。

 知的財産裁判所は本案において、著名商標の保護は近似を構成していない商品にも及ぶことを明確に示しました。このような判断そのものは社会の期待に沿ったものです。一方、最高裁判所は案件を受理してから2年7カ月の熟考を経てやっと最終的な判断を下したにもかかわらず、決定書の中ではほとんど何らの説明も行っていないのは残念なところです。

裁判所の姿勢に問題

 模造品の製造販売は、捕まりさえしなければ、必ずもうかるハイリターンの商法です。しかし台湾の各裁判所は、こうした案件の判断に対しても「損害補塡」理論を適用し、さらには被害を受けた側の非財産上の損害を無視しています。裁判所のこうした姿勢は、「高級車を破損した際の損害賠償額は、人をひき殺した金額より高い」という現状と同様、「台湾の奇跡」と言ってよいでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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