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第267回 著作権法改正による違法セットトップボックス対策


ニュース 法律 作成日:2019年4月24日_記事番号:T00083170

産業時事の法律講座

第267回 著作権法改正による違法セットトップボックス対策

 立法院は4月16日、著作権法改正案を可決し、第87条第1項第8号を新設。これにより、インターネットに接続するだけで、永久に無料で映画や有線TV、衛星放送を視聴ができる、違法な「セットトップボックス」(以下「STB」)が根絶されるなどとメディアに報道されました。

 読者の皆さんはこの報道を見て、金を払わずに有料コンテンツを視聴するのは、そもそも違法ではないのかと疑問に思いませんでしたか?

違法STBの販売は犯罪

 STBは、突き詰めればただのインターネット端末です。アプリなどによりサーバーから番組表を取得。利用者の選択に応じ、違法な番組データを大量に保存しているサーバーから探し出し、接続されたモニター上に放映します。

 サーバーにはTVのリアルタイム放送、映画、アニメ、TVゲームなどが保存されています。特にTVのリアルタイム放送は、現在放送中のTV番組を録画、保存、配信する世界各地のサーバーに接続し、配信権限の審査を違法に突破。現地での放映から約4分遅れで、同じ内容を視聴することができます。

 本コラムでは、第238回「セットトップボックスによる著作権侵害」において、知的財産裁判所の判決を紹介しました。
https://www.ys-consulting.com.tw/news/74922.html

 同裁判所は2016年6月の判決で、TVのリアルタイム放送を無料で配信するSTBを販売することは、著作権法第87条第1項第7号によって規定された「公衆に対して著作を公開転送することを可能とするコンピュータープログラム(以下『プログラム』)またはその技術を提供する」行為に当たると判断しました。また、その購入者が実際にSTBを使用して番組を視聴したかどうかは、犯罪の成立に影響しないとも判断しました。

 さらに18年8月の判決では、「使用者はSTB内のアプリを操作することで、サーバーに対して指令を出し、同サーバーより圧縮された映像データのパケットをインターネット経由で受信した後、使用者のTV画面上でそれを再生していることから、同STBは、公衆に対して提供される『著作を公開転送することを可能とするプログラムまたはその技術』に当たる」という理由から、台中地方法院が以前下したSTBに関する無罪判決を取り消しました。

 この判決からも、TVのリアルタイム放送を無料で再生できるSTBの販売は、法改正を待たずに取り締まることができる犯罪であると分かります。

TV視聴機能は規制対象外

 今回の著作権法改正で新設された第87条第1項第8項は「著作権を侵害するインターネットアドレス(以下『IP』)を収録するプログラム」を取り締まるためのものです。その対象は、プログラムを提供する者、または提供の主導者や協力者、およびショートカットを提供することで他者に同プログラムを使用させる者です。

 ここでいうプログラムとは、多数のIPを収録したもので、著作権を侵害しているデータを放映したり、接続されたコンピューターなどに対して転送したりすることができます。最も典型的な例は、スマートフォン上で使用されている海賊版ゲームのエミュレーターアプリです。海賊版ゲームのサイトにリンクし、ダウンロードできるようにします。

 STBには通常、TVのリアルタイム放送以外に、海賊版の映画やTVドラマなどを視聴したり、ゲームをダウンロードしたりできるサイトへのリンクが内蔵されています。しかし、これらの機能は、インターネットに接続することが可能な機器で、無料のアプリをダウンロードすれば入手できるため、わざわざお金を払ってSTBを買う人はいないでしょう。

 従って、消費者が違法なSTBを購入する目的が、TVのリアルタイム放送を無料で視聴することなのは明らかです。しかしこの機能は、著作権法改正で新設された第87条第1項第8項によって取り締まることができません。少なくとも、リアルタイムのTV放送を見るためのアプリが「著作権を侵害するIPを収録するプログラム」であると証明することは難しいでしょう。

 TVのリアルタイム放送を視聴できるSTBはそもそも違法なものです。市場に多くの製品が出回っているのは、執行機関が法律に基づいた取り締まりを行っていないからであり、取り締まるための法律が整備されていないからではないことは、前述した裁判所の判決などからも明らかです。

 改正著作権法の施行後は、「著作権を侵害するIPを収録するプログラム」を提供する行為は全て違法となるため、STBの取り締まりに関する法規定が一つ増えたことになるわけですが、果たして適切な取り締まりが行われるかどうかは、最終的には執行機関の態度にかかってくる問題です。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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