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第271回 議決権拘束契約


ニュース 法律 作成日:2019年6月26日_記事番号:T00084278

産業時事の法律講座

第271回 議決権拘束契約

 彰化商業銀行(以下、彰化銀)はもともと公営銀行でしたが、政府は2005年6月に競争入札方式で増資を行い、特定の購入者に対する特別株を発行しました。彰化銀の筆頭株主で、政府を代表して株式を保有していた財政部は当時、▽新しく株式を取得した金融機関(以下、投資人)が彰化銀の経営権を取得、保有していくことに同意する▽彰化銀の取締役、監査役(以下、まとめて「役員」)の改選の際には、投資人が役員の過半数を得ることを支持する──という内容のニュースレターを二度も発表しました。

 入札の結果、台新金融控股(以下「台新金」)が株式プレミアムを上乗せした114億台湾元(約395億円)で落札しました。その後の05年、08年、11年の彰化銀の株主総会における役員改選では、財政部は台新金による役員過半数の取得を支持しました。しかし、14年の彰化銀株主総会の役員改選の前、財政部は台新金との間で役員の議席を分配することを拒否すると発表。彰化銀の株式を買い増した他、委任状を集めて株主総会で自らの取締役候補を当選させたため、台新金は取締役9人のうち3人しか獲得できず、彰化銀の経営権を失いました。

 台新金は財政部の行為は契約違反であり、165億5,800万元の損害を被ったとして、財政部に対し彰化銀の経営権の譲渡(かなわない場合は損害賠償)を求める訴訟を提起しました。

契約違反の事実の有無

 台北地方法院(地方裁判所)は16年4月の判決で、次のような理由により「双方の間には『財政部は台新金が彰化銀の筆頭株主である期間内に、台新金が指名する代表者が彰化銀全体の取締役の半数を超えることを妨害できない』という内容の契約関係が存在する」ことは認めましたが、その他の部分については訴えを退けました。

1.双方間には台新金が増資分の株式を引き受ける際に次のような内容の私法上の契約が成立している

1)財政部は台新金が彰化銀の経営権を取得することを支持、同意する

2)財政部は彰化銀が05年の増資完了後にその経営権を台新金に譲渡することに同意する

3)財政部は台新金が彰化銀の第21回株主総会で役員の過半数を占めることに同意する

4)台新金が落札後、かつ財政部が彰化銀の筆頭株主である期間は、財政部は台新金が彰化銀の経営権を主導していく地位を妨害しない

2.台新金が彰化銀の経営権を取得した段階では、1)、2)、3)の義務は履行されているため、財政部が履行しなければならない義務は4)のみ

3.08年および11年の株主総会で、財政部は3)を履行したが、それは株主総会の前に双方間において議決権の行使に関する特定の契約を締結していたためで、14年の株主総会の際に同様の契約は締結されていなかった

4.双方間の「議決権拘束契約」は公序良俗に反するものではなく、有効な契約

5.財政部は14年の株主総会当時、(自ら過半数の役員らを当選させるだけの)筆頭株主ではなく、4)を履行しなければならない前提は存在しない。よって、財政部側には契約違反の事実はない。

公序良俗違反か

 双方は共に控訴しました。台湾高等法院(高等裁判所)は17年5月の判決で、次のような理由により「双方間には『財政部が彰化銀の株式を売却する前で、かつ台新金が彰化銀の筆頭株主である期間内に、台新金が指名する代表者が彰化銀の普通取締役の半数を超えて当選することを支持しなければならない』という内容の契約関係が存在する」ことは認めましたが、その他の部分は控訴を退けました。

 高等裁判所の判決によると、「決議権拘束契約」は公司法(会社法)の「累積選挙法」に違反するもので、取締役選挙前の段階に威嚇、脅迫、利益誘導などの不法な状況がはびこる原因となるばかりか、野心を持った株主が不当な手段により、このような契約を締結することで企業をその手中に収める目的を達成できてしまうため、最高法院(最高裁判所)は過去の判例でこの種の契約を公序良俗に違反することを理由として無効と判断している。しかし、本案において双方が締結したのは議決権拘束契約ではなく(注:この部分について判決では何らの具体的な理由も示されていません)、たとえそうであったとしても公序良俗違反ではない。

合理的な期間

 財政部はこの判決を不服として上告しましたが、最高裁判所は19年5月の判決で、次のような理由により原判決を破棄、高等裁判所に差し戻しました。

1.いわゆる「株主議決権拘束契約」とは、ある株主と他の株主との間で行われる約定で、一般的または特定の場合に自らが所有する株式議決権を一定の方向性をもって行使することを約定する契約

2.「株主議決権拘束契約」の内容が公司法または企業併購法(企業買収法)の規定に符合する場合は、もちろん有効である。その他の場合の「株主議決権拘束契約」でも、その締結目的が法律の精神にのっとったもので、企業を不当に操るための不当な手段でなく、企業統治(コーポレートガバナンス)の原則や公序良俗に反しない場合は、有効である

3.「株主議決権拘束契約」が継続性をもった契約である場合、その拘束期間は合理的な範囲でなければならない

4.本案において、財政部は台新金が彰化銀の経営権を持つことを9年間にわたって支持した。高等裁判所の所見によれば、財政部は、これからも台新金を支持しなければならなければ、台新金が経営権を維持する期間は合理的な範囲を超え、株式とその議決権の長期的な分離を生み出し、企業統治に不利となる。そのため、その後も拘束を受けるべきか、公序良俗違反ではないのかといった点について判断すべき余地が残されている。

 今回の判決からは「株主議決権拘束契約」について次のことが分かります。

1.通常は公序良俗に違反しない有効な契約である

2.永久に有効な契約ではない。契約が締結された目的が達成された場合、または達成できなくなった場合は失効する

3.有効な株主議決権拘束契約は裁判所に対して強制履行を申し立てることができる。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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