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記事番号:T00084540
2019年7月10日15:55

 国立故宮博物院に所蔵されている文物は、大明帝国や大清帝国の皇帝が集めた、または作らせたものが大部分です。著作権が存在していたとしても、保護期間は過ぎているわけですが、「著作権に類似した何らかの権利」は存在するのでしょうか。

光学ディスクに無断コピー

 故宮において2006年、「景印康熙間内府泥金写本龍蔵経(甘珠爾)」(清の康熙時代に宮廷で書き写された泥金写本「蔵文龍蔵経」)出版計画が執行され、龍岡数位文化股份有限公司が出版権を取得しました。

 故宮側の原稿審査が遅延したため、納期が遅れることを恐れた龍岡公司の責任者、趙鈞震氏は10年1月、当時故宮の職員で主に文化創意産業発展業務を担当していた陳耀東氏に対し50万台湾元(約170万円)を贈与し、原稿審査を早めに行うよう求めました。10年5月には、陳氏と助手であった葉麗珍氏に対しそれぞれ20万元を贈与し、葉氏が同社の印刷の品質に対して付けた難癖を取り下げるよう要求しました。

 その後、陳氏は趙氏に対して▽趙氏の出資で祥禾国際有限公司を設立すること▽陳氏が同社の全権を掌握すること▽同社は故宮よりライセンスを受けたメーカーの契約の履行をサポートすること──などを要求しました。

 11年6月、香港の出版社である東南出版有限公司は故宮に対し「古籍再造」方式によって「永楽大典」を出版することを提案しました。陳氏は東南公司との間で、「永楽大典」の印刷前の業務および台湾における関連業務を祥禾公司に委託するという契約を締結しました。

 陳氏は職務上の権限を利用して、故宮が所有する「永楽大典」のデジタルアーカイブファイル2,791枚の利用を申請し、光学ディスク1枚に保管した他、もう1枚の光学ディスクを東南公司に送りました。

 これにより、東南公司は故宮に対して保証金を支払うことなく「永楽大典」のデジタルアーカイブファイルを入手しました。

 陳、葉両氏は10年から11年にかけ職権を利用して、故宮所蔵物のデジタルアーカイブファイル41件を入手し、光学ディスクを作成した上で故宮内の事務所に保管しました。

 両氏は、11年10月に故宮が調査を開始した当初、同光学ディスクを祥禾公司に隠すことに成功しましたが、11年11月14日、同件で捜査令状を取得した法務部廉政署による家宅捜索を受け、同光学ディスクなどが発見されました。

デジタルアーカイブの著作権

 検察は11年末に陳、葉両氏を起訴。台北地方法院(地方裁判所)は17年12月末に汚職罪で陳氏に9年、葉氏に2年の実刑判決を言い渡しました。

 判決では、両氏が「永楽大典」および故宮所蔵物のデジタルアーカイブファイル41件を入手したことについて「公務員仮借職務上機会犯背信罪(公務員が職務上の機会を利用して犯した背信罪)」とし、次のような理由から、懲役6月の有罪と判断しました。

1.文化資産保存法第71条第1項には、「公立の文物保管機関は、その研究、普及の需要がある場合には、その保管している公有の『古物』を具体名を記すことで、複製または監製できる。他者は原保管機関の許可または監製を経なければ再複製できない」との規定がある。

2.両氏は前述の規定に違反し、祥禾公司および東南公司は保証金を納めることなく「永楽大典」のデジタルアーカイブファイルの複製物を入手し、それらを使用して利益を得た。両氏が任務の行使に違反し、故宮のデジタルアーカイブファイルの保存、管理権、および「永楽大典」の著作財産権が損害を受けた。

3.両氏が複製した故宮所蔵物のデジタルアーカイブファイルは、故宮が行ったデジタルアーカイブ計画の成果であり、その撮影の過程における映像や背景の選択、光の当たり方、シャッタースピードに至るまで、一定程度の「原創性」が認められるため、「デジタルアーカイブ計画の下で撮影されたデジタルアーカイブファイルは、著作権法における撮影著作に属する」。

4.両者が不法に販売、使用し利益を得る意図で、故宮の同意を経ずに行った複製と光学ディスクの撮影は、その元となる光学ディスクを借りることができる職務上の便宜を利用したもので、規定に基づいて使用するという職務上の義務規定に違反している。また故宮におけるその所蔵物のデジタルアーカイブのライセンス管理および故宮その他の著作権者の著作財産権に対して十分な損害を与えるに至る行為である。

 陳氏は判決を不服として智慧財産法院(知的財産裁判所)に控訴しましたが、同裁判所は18年3月、「本裁判所(知的財産裁判所)を管轄とする刑事案件よりもはるかに重い罪の刑事案件が含まれている」ことを理由として、台湾高等法院(高等裁判所)に移送しました。同案は現在も台湾高等裁判所で審理中です。

古文物の知財保護

 故宮所蔵物の著作権問題について、例えば、文化資産保存法第71条第1項の規定に違反する行為には、刑事処罰にかかる規定が設けられていないため、単に「撮影著作」の形式による保護しか行うことができませんが、それは「デジタルアーカイブにかかる写真撮影の著作権」が存在することを前提としています。また秘密裏に複製を行った公務員を「背信罪」で処罰する場合も、同公務員が管理権を持っていることが前提となっています。しかし、全ての場合に前提となる状況が存在しているわけでありません。

 故宮に所蔵されているような古文物には高度な歴史的、文化的な価値があり、それにかかるデジタルアーカイブも高度な商業上の利用価値があります。このような観点から本案を見た場合、現存の法律では「古文物」の智慧財産権保護は十分ではなく、注意が必要といえます。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw
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