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第268回 日本企業による台湾の著作権侵害の国際裁判管轄


ニュース 法律 作成日:2019年5月15日_記事番号:T00083532

産業時事の法律講座

第268回 日本企業による台湾の著作権侵害の国際裁判管轄

 徐薇蕙氏(以下、原告)は2017年5月、自身が「游撃女孩Guerrilla Girl」の作者であるとの主張に基づき、知的財産裁判所に対して訴訟を提起しました。同作品は、ピンク色の女性兵士が長い髪をなびかせ、一方の手に武器を持ち、もう一方はバッグを持つか、スカートの裾をつまんでいる人形です。優しさと強さを兼ね備えた現代の女性が、愛情と理想の生活を追い求め、奮闘する姿をユーモラスに表現しています。原告は05年に同作品を発表し、世界の主要都市で展覧会を行っています。

 原告は、日本の書籍、雑貨の販売店「ヴィレッジヴァンガード」(以下、被告)が原告の同意なしに同作品を複製、改変し、「Pink Army Women」として日本の店舗とインターネットで販売したと主張。被告に対し、▽商品の在庫全ての廃棄処分▽50万台湾元(約180万円)の損害賠償▽判決文の読売新聞など各紙への掲載──を求めました。

国際裁判管轄権がない

 被告はこれに対し、台湾の裁判所には本件への管轄権がないと主張しました。その根拠は、▽被告は同商品を日本でしか販売していない▽台湾で販売されているのは、個人輸入されたもので、原告が輸入したわけではない▽原告はインターネットへの出品の事実を証拠としているが、同サイトは代理販売を行っているだけである──です。

 知的財産裁判所第一審は17年12月、次の理由から原告の訴えを退けました。

1.原告の主張によれば、台湾は著作権侵害の行為発生地でも結果発生地でもなく、台湾の裁判所は「国際裁判管轄権」を有していない

2.個別の案件として利益を考慮した場合にも、訴訟当事者の利便性、実質的な公平性のために「原告は被告の所在地の裁判所で訴訟を提起しなければならない」という民事訴訟法の原則があり、台湾の裁判所は本案に対する管轄権を有していない

3.台湾の裁判所が本案の審理を拒否したとしても、本案が管轄裁判所を持たないいわゆる「国際訴訟孤児」とならない

法廷助言人から意見募集

 原告による抗告を受けた知的財産裁判所第二審は、珍しいことに、台湾裁判所の国際裁判管轄に関し、専門家、学者、各種機関および関連団体などの法廷助言人(アミカス・キュリエ)への意見募集を行いました。さらに18年10月4日には3人の専門家への公聴会を実施。同年11月、次の理由から原判決を取り消しました。

1.台湾の法律には国際裁判管轄に関する規定は設けられておらず、民事訴訟法の規定の類推解釈もできない。なぜならば、民事訴訟法は台湾での裁判所の管轄を分配するための法であるためだ。したがって今後、国際裁判管轄が法律上規定されるまでは、立法政策による決定を認めなければならない

2.国際裁判管轄は、国際民事訴訟プロセスの基本原則より判断する必要がある。「フォーラム・ノン・コンビニエンス(不適切な法廷地、利便性・公正さ・経済性などの観点から管轄を争う手段)」は英米法の概念ではあるが、大いに採用すべき原則だ

3.原告は抗告の際、日本の通販商品などの代理購入サイト「Buyee(バイイー)」上の被告のオフィシャルページからPink Army Womenを購入できたこと、包装に被告の企業名がプリントされていたことを証拠に挙げた。これに対して被告は、同ページは子会社の「ヴィレッジヴァンガード・オンラインストア」が経営するものだと抗弁しているが、ページの左上には被告の企業名がはっきりと表示されていた。また、本裁判所が提出を命じた被告とBuyeeとの契約書も提出がなかった。原告は、被告とその子会社と共同不法行為が成立すると主張するが、それにより国際裁判管轄を判断するわけではない

4.これらのことから分かる通り、台湾は原告が主張する侵害行為の結果発生地であり、台湾は本案の管轄権を有していると判断できる

 被告はこの判断を不服として最高裁判所に抗告しましたが、同裁判所は19年4月に被告の主張は新しいものではないという理由から訴えを退けました。

 実のところ、ほぼ全ての裁判所が、自国・地域における国際裁判管轄を認める判断を出します。台湾の知的財産裁判所はある特許権の案件で、ライセンス契約の規定では管轄裁判所はオランダのハーグとされており、ハーグの裁判所の判決が確定していたとしても、台湾の知的財産裁判所には管轄権があると判断しました。

 本案の第二審裁判所は、広く意見を公募し、また多くの文字数を割いて国際裁判管轄の判断原理を示したにもかかわらず、最後は結局「台湾は結果発生地」という理由で管轄権を判断してしまいました。インターネットが普及した現代社会で、裁判所が自国・地域に管轄権がないと判断する可能性は非常に低く、被告はこのような状況を見誤ったのです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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