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記事番号:T00082697
2019年3月27日15:47

 本コラム第199回でも紹介したように、商品の外観における近似が混交を引き起こすかどうかについて、ドイツの裁判所は、関連消費者の認知を判定基準としていますが、近年では、台湾の裁判所でも同様の見解が見られるようになってきました。

 スイスに本社を置く製薬会社ノバルティスの台湾子会社、台湾諾華股份有限公司(以下「ノバルティス台湾」)は、台湾の製薬会社、生達化学製薬股份有限公司(スタンダード・ケム&ファーム、以下「生達」)が製造販売する降圧薬「Asartan(得平圧)」の包装の外観が、ノバルティス台湾の降圧剤「Exforge(易安穏)」を模倣したものであり、同社の著作権を侵害し、また製品包装の外観の模倣を禁じた公平交易法(公正取引法)に違反するとして、損害賠償と「得平圧」外箱の使用禁止、現存する包装の破棄、新聞での謝罪広告などを求め、2015年に智慧財産法院(知的財産裁判所)に対し訴訟を提起しました。

混交可能性なし

 知的財産裁判所は審理の後、16年初めに次のような理由から、同社の訴えを退ける判決を下しました。

1.ノバルティス台湾の製品の外箱は、「単調な青、白、オレンジを並べた色構成であり、なんらの色彩、明暗、形状、線の変化があるわけではなく」、芸術上の技巧や美的感覚を含まず、作者個人の思想や感情も感じられないため、著作権法の保護対象となり得ない。

2.台湾薬事法の規定では、原告と被告の両製品は共に医師の処方箋がなければ提供することができない。医師は処方に当たり、患者の個別の状況と医学上の専門知識に基づいて「易安穏」と「得平圧」のどちらを使用するか決定するが、専門職である医師や薬剤師が両製品を誤認する可能性はなく、一般市民は薬剤師から製品を受け取り使用するため、選択を行う余地がなく、混交することはあり得ない。このため、医師、薬剤師、一般市民のどの段階においても混交がされることはない。

二審は誤認可能性を重視

 ノバルティス台湾はこの判決を不服とし、同裁判所第二審に対して控訴しました。第二審は16年10月に次のような理由から、100万台湾元(約360万円)の損害賠償と、「得平圧」外箱の使用停止を被告に対し命じました。

1.「易安穏」の外装設計は、「青、白、オレンジ、黄土色の配色と線、図形などの要素を含み、製品名称、その他説明文と合わせて全体として設計がされたものだ。芸術上の技巧によって販売効果を達成しようとする個性や独自性が認められる」。外観に一定程度の創意があり、創作全体としてもユニークなことから、独創性が認められる。

2.両社の製品の外箱は、青、白、オレンジ、黄土色が使用されているという類似性がある以外は、その他の要素と全体の構成は異なっており、量的な近似も質的な近似も認められない。

3.ノバルティス台湾の製品包装は、いわゆる著名な包装であるが、生達の包装はそれと相同・類似した設計を用いているわけではなく、外観の模倣を構成しない。

4.一方、市場の類似製品の包装を見る限り、生達の「得平圧」のみが原告の包装に高度に相似した青、白、黄色の組み合わせによる設計を行っており、生達が意図してそのような視覚的な効果を狙っていることは明らかである。つまり、生達は関連消費者が通常の注意力をもってしても、両製品の外箱が相似していることで取り間違え、または誤用することがあると知りながら、高度に近似した色と設計を採用しているのであるから、生達はノバルティス台湾のグッドウィル(のれんの信用)に便乗しており、その行為は欺罔(ぎもう)で、明らかに公平さを欠いたものである。

誤認証明は不十分=最高裁

 この判決を不服とした被告、生達は最高法院(最高裁判所)に対して上告しました。最高裁は次のような理由から、19年1月に第二審判決を破棄しました。

1.ある事業者が他者の著名商品の外観や表現を高度に模倣することで、その著名広告やグッドウィルに積極的に便乗し、その努力の成果を横取りする行為について、これが欺罔でなく、明らかに公平さを欠いたものでなく、また市場における競争を妨害するものでなく、取引上の秩序に影響を与えるものでもない場合、公平交易法における禁止行為とはならない。

2.本件における両製品は、共に高血圧を抑制するための慢性病処方薬であるため、患者は医師による処方箋を持ち、薬局で受け取り、服用することとなる。このため、医療機関、医師、薬剤師、一般市民・消費者のどの段階においても混交がされることはあり得ないという生達の抗弁には道理がある。

3.原判決は、生達の行為が「取引秩序に十分な影響を与え得る欺罔であり、明らかに公平さを欠いたもの」であることの理由を明らかにしていない。また、一般市民を含んだ両製品の消費者が、係争包装を模倣した「得平圧」の包装により、取引の相手方に商品主体を誤認させ、公平な市場競争に十分な影響を与えるとした判断は、速断であり、受け入れられるものではない。

4.第二審の判決は、一般市民が両製品の包装の配色が一致しておらず、他の部分についても近似していないと認識するとしているが、生達が取引の相手方に対してどのような欺瞞(ぎまん)、誤誘導、隠匿をし、取引の決定に係る情報に十分な影響を与えたことで錯誤を起こさせたのかを明らかにしないまま、生達の行為が取引秩序に十分な影響を及ぼす欺罔行為であるとしたのは軽率な判断である。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw
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