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第270回 「金冠」商標の横取り登録騒動の結末


ニュース 法律 作成日:2019年6月12日_記事番号:T00084024

産業時事の法律講座

第270回 「金冠」商標の横取り登録騒動の結末

不起訴処分で終了

 昨年5月9日付の本欄(https://www.ys-consulting.com.tw/news/76932.html)では、中国広東省で生産された人気商品「金冠ブルートゥーススピーカー」の商標が他社に横取り登録され、台湾の税関で留置された事件を紹介しました。台湾の税関は、中国から輸入された同製品が全て正規製造メーカーによって生産されたものであることを認識しながらも、「法に基づいて」それらを留置し、輸入者らを各地の検察に「商標模倣製品を輸入した」疑いで送検しました。

 しかし、その後1年近い捜査を経て、各地の検察は今年5月末までに全ての案件を「不起訴処分」としました。

 広東省東莞の中小企業である金冠公司は、主にブルートゥーススピーカーを生産しています。今回問題とされた同社製品は、外観が巻き貝に似ており、また低価格の割に音質が良く、その大きさと重量が台湾で流行している「UFOキャッチャー」の景品として扱いやすかったことから、同業界および消費者の間では「小海螺(小巻き貝)」の名称で親しまれ、台湾に輸入され、常に品薄の状態が続いていました。

税関のお役所仕事

 今回の騒動は、ある台湾企業が「金冠Kingone皇冠」という名称の商標を登録したことに端を発します。同企業が2017年12月、税関に対して中国の金冠公司が製造したスピーカーの輸入の留置を求めたところ、その後わずか4カ月たらずで、数千台の同スピーカーが税関に留置されることとなりました。スピーカーの輸入業者らは税関に抗議しましたが、税関側は、商標の実際の使用者が誰であれ、商標の登録者にはそれを留置させる権利があるとして譲りませんでした。

 この措置はその後、18年3月まで続きました。金冠公司の調査により、台湾で同商標を登録した登録者には、▽過去に他社の商標を模倣したことにより、裁判所から有罪判決を2度受けている▽台湾で登録した商標には、金冠公司以外の中国の著名なスピーカーメーカーの名称も含まれていた▽市場において「金冠Kingone皇冠」の商標を使用したことはない──ことなどが明らかになりました。

 金冠公司はその後、台湾の知的財産局に対して、緊急に同登録商標の「評定(無効審判)」を提出した他、同じく緊急に商標「美好」を登録し、同商標を使用し始めました。その後、金冠公司の「美好」ブランド製品は、わずか2カ月の間に大量の模倣品が出るほどの大人気商品となりました。

地方警察利用して検挙

 18年6月、同商標登録者は台湾各地おいて取り締まり活動を開始しました。タチが悪いのは、同登録者は確かに商標法の前科者ですが、同時に知的財産権保護警察の「友の会」会員であり、またあろうことか高雄支局の副会長でもありました。しかし、彼が知的財産警察に対して行った商標法にかかる多くの告訴について、警察は何かとの理由をつけては受理を拒んでいました。

 そのため登録者は、事情を知らない地方の警察を利用して取り締まり活動を展開し、台南地区や雲林地区までその範囲を広めていきました。中でも最大の取り締まり活動だったのは、18年11月に12件のUFOキャッチャー業者が検挙され、台中地方検察署に送検されたものです。

 19年1月以降、台南、台中の検察を皮切りに、各地の検察は同案件を「不起訴処分」とする判断を下していきました。金冠公司は答弁の中で同社の商標が台湾で不当に「横取り登録」されていることを訴えていましたが、各地の検察は同商標の効力に関しては一切触れることも、意見を表明することも避けました。その結果、全ての「不起訴処分書」には、▽被告人が中国から輸入したものは、金冠公司弁護士による鑑定により、金冠公司の製造したブルートゥーススピーカーであることは間違いない▽被告人が中国から金冠公司の製造した製品を輸入したのは、同製品が同社の「メーカー製」であるという確信に基づくものである▽被告人には台湾で横取り登録された商標の模倣を図ろうという意図はなかった──などを不起訴の理由としていました。

 19年5月、金冠公司製品の最大の輸入業者である2社が、台中地検署と雲林地検署により不起訴処分とされたことで、台湾企業が中国の著名商標を横取りしたとされた今回の騒動は終結しました。

問題の人物は飄々(ひょうひょう)と

 それにもかかわらず、知的財産局は19年5月の段階で、金冠公司が18年3月に提起した前述の商標評定案について、同商標の登録者に対して公文書を送り、金冠公司の言い分に対して弁明を行うよう求めました。全ての証拠が明らかになったにもかかわらず、知的財産局はまだ何らの決定も出せないでいました。

 さらに驚かされるのは、19年1月に行われた知的財産権警察の尾牙(台湾式忘年会)の代金は警察友の会が支払ったこと、そして金冠公司の商標を横取り登録した業者が商標法の前科者であるにもかかわらず、副会長として壇上に上がり、定番のくじ引き(壇上の代表者が番号を引くことでその番号を所有している人に景品が当たる)を行い、警察に同賞の商品を手渡す行為までしていたことです。

 税関の規定によると、不起訴処分が確定した後、留置されていた製品は全て返却されることになっていますが、1年間の留置期間を経た同製品は、1年前ほどの人気はなく、もはやゴミ同然となってしまっています。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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