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第274回 著作権侵害サイトのリンク提供APPが有罪となった例


ニュース 法律 作成日:2019年8月14日_記事番号:T00085186

産業時事の法律講座

第274回 著作権侵害サイトのリンク提供APPが有罪となった例

 近年、テレビや映画、アニメ番組などを無料で視聴できるセットアップボックス(STB)やアプリ(APP)が市場に多く出回り、合法なケーブルテレビ(CATV)の市場を侵害しています。

 各種番組などの著作権者は刑事告訴を行っていますが、第一審では無罪判決が言い渡されることが多いです。そこで経済部智慧財産局(知的財産局)は、過去の著作権法がこのような行為を罰しないと判断していたとして、法改正を検討し、今年4月に法改正が行われました。しかし、これは正しい判断だったのでしょうか?

連ドラAPP、TV局が告訴

 欧酷網路股份有限公司(以下「欧酷公司」)は「電視連続劇2(連ドラ2)」というAPPを開発し、2015年から一般公開を始めました。同APPの利用者はスマートフォン上で、同APPが提供する視聴可能な連ドラのリストから、台湾その他の地域の連ドラとその宣伝画面をいつでもどこでも視聴できるというもので、欧酷公司は大量の広告を差し入れることで利益を得ていました。

 台湾の有線テレビ局である三立電視公司(SET)は、欧酷公司が同局の著作権を侵害しているとして、同社責任者である劉于遜氏および技術長である翁瑞廷氏を告訴しました。

 検察官による起訴を受けた台北地方裁判所は19年2月に、以下の理由から2人を無罪とする判決を下しました。

1.同APPは単に、サイトの検索を提供することで、利用者が番組を鑑賞するためのサイトを探し出す手間を省いているだけである。利用者は同APPを経由しなくとも、コンピューターなどからそれらのサイトにアクセスし、番組を鑑賞できる。

 そのため、同APPが著作権法が処罰の対象としている「可公開伝輸或重製著作之電脳程式或其他技術(著作の公開伝送または複製を可能とするコンピュータープログラムその他の技術)」と認定できない。

2.利用者は同APPを利用することで動画共有サービスのYouTube(ユーチューブ)やデイリーモーションにアクセスし、権利を侵害している動画を視聴できる。

 しかし、それらの動画は同APPが提供しているわけでも、動画をダウンロードしてAPP内にアップロードしているわけでもない。

 また、同APPには著作の公開伝送または複製を可能とする機能もない。

3.知的財産裁判所は18年に「尼索美公司」のAPPを有罪とする判決を出している。同案は、▽被告人が貸し出したSTBに設定されているAPPがサーバーにストリーミングを要求する▽サーバーが動画のパケットを同STBに転送する▽STBが動画を画面上に表示する──という技術的過程を経ているため、「公開伝送」を構成する。

 これは、単に利用者に検索を提供し、リンクからサイトにアクセスさせ、動画を視聴させるという本案APPの構造と異なる。

軽微な刑罰

 検察はこの判決を不服として知的財産裁判所に対して控訴を行いました。同裁判所は19年7月に2人を「許可を得ずに他者の著作財産権を公開伝送した」として有罪と判断しましたが、APPを提供しただけであることを理由に、刑罰はとても軽いものでした。判決は次のように述べています。

1.被告人ら2人は、どのような動画著作物が公開、上映されたばかりなのかや、同APP上でどのような(主に)違法サイトの検索が可能かなどについて相当程度の専門性を持っている。

 また、同APPの名称が「連ドラ2」であることから、主要な機能が利用者を連ドラ動画がアップロードされているサイトに導くことであることは明らかである。

2.被告人らは確かに手作業で検索リストの整理などを行い、同じく手作業でそのアップロードなどを行っていた。また、画面上の図案の説明や、新作や注目作品の選択や説明などの資料だけでなく、指令の伝達、制限、選別基準、更新の程度、定義など、全てを決定し、手作業で操作していた。

 そのため、被告人らはその気があれば、それら著作物の発行者らに対して各地区のライセンス状況を確認できたにもかかわらず、それをせずにリストをアップロードし、さらには他者が整理したサイトの資料をAPPの方式で一般公開していた。これは、権利侵害をまとめたAPPを作成したことにほかならない。また、ライセンス状況の確認を行わなかったことに鑑みれば、被告人らには権利侵害の故意が認められる。

3.被告人らが同APPの開発および維持を行うに当たっては、データの書き込みやバグの排除だけでなく、最新の話題作を注意することまで全てを手作業で行っていたので、単に動画のリンクを貼り付けるだけの作業とは比べ物にはならない作業量があった。

 被告人らがシステマチックかつ計画的に多くの違法動画サイトから無料で動画を視聴できる方法を選択し、スマホの使用者(APPの利用者)に手軽にそれらを検索、アクセスさせたことは、「実質的には確実に大衆に対する散布および公開放送」を行っている。

実質的に侵害しているか

 今回の案件からは、権利を侵害しているサイトへのリンクを提供するだけのソフトウエアでも、裁判所は「実質的には確実に大衆に対する散布および公開放送」と認定し得ることが分かります。つまり、権利を侵害しているサイトへの直接的なリンクを提供するSTBは当然有罪となるわけです。

 ちなみに「尼索美公司」の案件では、知的財産裁判所が18年8月に下した判決で、被告人らは有罪となり、813万3,000台湾元(約2,770万円)の犯罪所得の追徴が課せられました。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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