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第278回 税金滞納者の拘禁の要件


ニュース 法律 作成日:2019年10月9日_記事番号:T00086268

産業時事の法律講座

第278回 税金滞納者の拘禁の要件

 自ら進んで牢屋(ろうや)に入ろうとする人はいません。借金を滞納している人も、拘禁されれば必ず返済します。滞納者を拘禁することで借金を返済させる制度を、台湾では「管收」といいます。

 しかし、裁判所はこの管收に対して、「拘禁しなくてもよい者は拘禁せず、拘禁しなくてはならない者も拘禁しない」という非常に無責任な対応をとっており、債権者にとって全く保障がない状況になっています。

下級裁判所の消極的判断

 傅越祥氏は2000~06年、営業登記をせずに果物の仲卸業を営み、5億9,000万台湾元(約20億4,000万円)を売り上げました。滞納した営業税や所得税、罰金は、09年1月までに総額1億4,000万元に達しました。

 財政部北区国税局は、同案を法務部行政執行署に移管し、強制執行を行いましたが失敗に終わりました。

 行政執行署は、傅氏の海外送金額は00年から累計230万米ドルに上り、06年だけでも55万米ドルを兄に送金しており、税金などを納付できる資金力を有していると認定。明らかに履行義務を果たすことができるのに履行しないと判断し、台北地方法院(地方裁判所)に同氏の管収を申請しました。

 台北地方法院が19年1月、同署の申請を棄却したため、同署は台湾高等法院(高等裁判所)に抗告しました。しかし台湾高等法院は4月、国税局が傅氏に対して行った処罰は、期限までに「複査(再確認)」を行わなかったことを根拠としているが、▽通知が傅氏の旧住所に送られた▽傅氏が当時、長期出境中だった──ことから、処罰の効力は未確定だとして棄却しました。

 また、▽傅氏が高額な米ドルを送金したのは06年10月以前のこと▽傅氏自身は06年に初めて税金滞納により罰せられた事実を知った▽06年の送金額は63万5,000米ドルのみだった▽裁判所の裁定までに10年以上たっており、傅氏が同金額を当時所有していたか証明できない──として、傅氏が明らかに履行義務を果たすことができるのに履行しなかったのか、判断できないとしました。

財産隠匿は管収の許可理由に

 行政執行署は再抗告を行いました。最高法院(最高裁判所)は19年7月、次の理由から、台湾高等法院の判断を破棄しました。

1.証拠によれば、傅氏の配偶者は1999年5月20日付で国税局の通知を受け取っており、通知に違法性はない

2.傅氏本人が、06年の時点で税金滞納により罰せられた事実を知っていたと認めている。つまり、納付義務を知った後も海外送金をし続けたのであり、これは「強制執行に対して提供すべき財産を隠匿、処分した、または義務の履行が可能であるにもかかわらず故意に履行しなかった」ためで、管収を許可する理由となる

 この判断を受けた台湾高等法院は、9月に2回目の裁定を行い、次の理由から、本案を台北地方法院に差し戻しました。

1.傅氏は、06年時点で自らが税金滞納で摘発されたことを知っていたため、「明らかに履行義務を果たすことができたのに履行しなかった」、「強制執行に対して提供すべき財産を隠匿、処分した」などの判断の基準時点は06年であるべきで、行政執行署の申請時ではない

2.債務者が、強制執行される可能性を知った後、財産の頻繁な移動や高額消費などにより、義務を履行できると他者に信じさせるに至った場合、債務者は同財産の移動など関して、資料やレポートを提出しなければならない。もし、債務者が提出せず、または虚偽のレポートを提出し、それらの財産が既に処分された場合には、行政執行署はその所在を確認できない。その上で、債務者が依然担保の提供も、債務の履行も拒むのであれば、管收以外に強制的に履行させる方法はない

 台湾高等法院の決定は、雄弁で正義に満ちたものでしたが、残念なことに最後の最後で「以上の調査されるべき事項と踏まえるべきプロセスについては、当事者が管収されるべきか否か、(審級制を利用し、裁判所に慎重な判断を求めることのできる)審級の利益が保障されているかにかかるものであり、原裁判所によって判断されることが望ましい」と結んでしまいました。同案は台北地方法院へ差し戻され、結論は先延ばしになってしまいました。

当事者の審級の利益を尊重

 同案件では、下級裁判所が管收に消極的であるのに対し、最高裁判所が賛同していないことがうかがえます。

 別件を例に取りましょう。行政執行署花蓮分署は花蓮地方法院に対し、鄭忠明氏の管收を申請しましたが棄却され、抗告も棄却されました。その後の再抗告を受け、最高法院は18年10月、債務者が財産を隠匿したかどうかの認定時点は「義務者が法定納税義務を負った時点」であり、行政執行官が執行した時点ではないとして、案件を差し戻しました。

 その後、台湾高等法院花蓮分院(花蓮分院)も19年5月に本案を地方法院に差し戻しました。しかし、これに対して鄭氏が抗告したため、最高法院は19年8月、この決定を破棄し、審議を差し戻しました。最高法院は「本件は花蓮分院が判断することで、当事者の審級の利益を損なってはならない」とし、花蓮分院に判断、決定するよう命じました。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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