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第280回 ブランド品を福引の景品とする場合


ニュース 法律 作成日:2019年11月13日_記事番号:T00086842

産業時事の法律講座

第280回 ブランド品を福引の景品とする場合

 ブランド品を福引の景品とする際に何らかの規範があるのでしょうか?

 国際ブランド、シャネル(CHANEL)によれば、百貨店業者はまずブランド業者と話し合い、またはライセンスを受けた上でなければ、ブランド品の商標をその広告またはプロモーションに使用できず、これはブランド界の常規です。しかし、知的財産裁判所によれば、そんな「常規」は存在しません。

シャネル商標と写真を利用

 宝雅国際(以下「POYA」)は創業30周年記念の周年慶(創業祭)セールで、2015年9月から1カ月間、「時尚週年慶抽経典香奈児(シャネルブランドが当たる創業祭セール)」と称して、シャネルの商品を景品とした福引を開催しました。

 シャネルは、POYAが事前の同意もライセンスも経ずに、POYAの全店の看板、のぼり旗、商品カタログおよび同社ホームページ、フェイスブック(FB)ページ上などにおいて、大量にシャネルの「CHANEL」商標や商品の写真を掲載したことは、シャネルの商標権を侵害し、また公平交易法(公平取引法)に違反していると主張し、知的財産裁判所にPOYAを起訴し、POYAに対して同商標の使用の禁止と商品の破棄、ドメイン名登録の抹消、および連帯での300万台湾元(約1,100万円)の支払いと判決文の新聞掲載を求めました。

 知的財産裁判所は16年5月、判決でシャネルの請求を退けました。シャネルはそれを不服として控訴しましたが、同裁判所第二審は17年2月、次のような理由から同社の控訴を退けました。

1.POYAの福引の主な目的は、消費者にシャネルの商品を福引の景品として使用していることを認知させることで、使用されたCHANEL商標は福引の景品を示しており、福引の特徴を示すものであった。POYAはCHANEL商標を同社の商品または役務(サービス)であると思わせるために使用したのではない。

2.POYAは自社の製品または関連製品上においてCHANEL商標を使用しておらず、また平面図形、デジタル映像もしくは画像、電子メディアまたはその他の媒体により、「消費者がCHANEL商標をPOYAの商標であると認識するような方式で、CHANEL商標を使用して」いない。つまり商標法における「他者の商標の使用」には当たらない。

3.同福引におけるCHANEL商標の表示は、福引の景品そのものの来源を表しているだけで、単に景品そのものの説明である。POYAにはCHANEL商標に対し投射または取り入る意図はない。消費者がPOYAの商品を購入するに当たって認知している商品の来源は「宝雅」「POYA」商標であり、CHANEL商標ではない。そのため、消費者がPOYA商品の来源に対して混交、誤認する恐れはない。

4.シャネルは「百貨店業者はまずブランド業者と話し合い、またはライセンスを受けた上でなければ、ブランド品の商標をその広告またはプロモーション活動に使用することはできない」というのがブランド業界の常規と主張しているが、▽シャネルは同「業界の常規」の関連規範および具体的な準則は何かを証明していない▽POYAはブランド界に属する業者ではないため、同常規を知り得なかった▽POYAの配布した書面などによれば、同社は景品がシャネルの提供である、またはシャネルと共同して開催、もしくは共同で「30周年」を祝っているともしていない──。このように、両者の間に協力関係がないので、POYAにはシャネルが主張する業界の常規を順守しなければならない理由はない。

5.POYAは今回の福引に当たり、シャネルの販売ブースに社員を派遣し、当商品を買い求め、その実物を撮影することで福引の景品の説明を作成した。また、POYAは▽CHANEL商標を適度に表示している▽同商品には市場に流通した後に変質、損傷、またはその他の不正な事由が発生していない──。これらのことからPOYAが合法にCHANEL商標の標された商品を購入した後は、「商標権の消尽原則」により、シャネルは同商品に対して商標権を主張できない。

6.CHANEL商標は確かに著名な商標だが、POYA側の同商標表示方法は、同商標の識別性を減損させておらず、また同商標のグッドウィル(のれん)を減損させてもいない。つまり同商標は合理的な使用方法に属する。

景品に使用可能

 知的財産裁判所第二審のこのような判断を不服としたシャネルは最高裁判所に対して上告をしますが、同裁判所は19年10月にその訴えを退け、本案は確定しました。

 最高裁判所は判決の中で、POYAが福引においてCHANEL商標を表示したことは、あくまでも福引の景品の来源を示すためで、「取引における通常の使用形態であり、商業取引習慣上の信義誠実にのっとった方法であるため、係争商標権の効力による拘束を受けるものではない」としました。

 今回の判決において裁判所は多角的な視点から、その明確な認定を行った理由を説明し、同業界に対して順守すべき原則を示しました。参考に値する判決です。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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