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第279回 ドイツLED特許訴訟、液光社が即日判決で勝訴


ニュース 法律 作成日:2019年10月23日_記事番号:T00086486

産業時事の法律講座

第279回 ドイツLED特許訴訟、液光社が即日判決で勝訴

 発光ダイオード(LED)ライト開発を手掛ける台湾企業、液光固態照明公司(Liquidleds、以下「液光社」)は、開発した新製品を展覧会に出展すると、次の展覧会には模倣品が出展されることに痺(しび)れを切らし、模倣品の撲滅を決断しました。2018年3月28日に本コラム(https://www.ys-consulting.com.tw/news/76238.html)で速報でお伝えしたように、18年3月にドイツ・フランクフルトで開催されたライト・建築展覧会において、同社は税関職員の協力の下、現地の検察官と共に、出展していた中国メーカー2社のブースを捜索し、これらの会社の新製品「軟灯条」と「管形灯」のサンプル、ポスター、カタログなどを差し押さえました。

 このような取り締まりの直接的な効果は、欧州の顧客による今後の模倣品購入を阻止するために、この中国メーカーの権利侵害を知らしめることにあります。

仏メーカーを提訴

 液光社は18年12月、フランスの大手LEDメーカーを相手取り、発明特許を取得したばかりの「軟灯条」に係る特許侵害訴訟を、ドイツ・マンハイム地方裁判所に提起しました。液光社は、このフランスメーカーが同社特許を侵害して、低価格で粗悪なLEDライトを販売しており、同社に対し経済的損失を与えていると主張。販売停止と損害賠償を求めました。

 液光社の特許説明書によれば、「軟灯条」のフィラメントは非常に柔らかく、自由に折り曲げても折れないため、白熱電球の外観を模した電球を作ることができ、従来の硬く醜いLEDフィラメントの外観を完全に変えてしまうものでした。

 液光社は、被告のフランスメーカーの購買要員から見積もり依頼があった際、特許取得済みと伝えていたにもかかわらず、相手方が特許侵害製品の購入を決めたため、特許侵害訴訟の提起を決めたというわけです。

 大部分の特許侵害訴訟がそうであるように、被告のフランスメーカーが提出した答弁には「特許は無効」「権利侵害はない」という主張が含まれていました。

特許無効は主務官庁が判断

 このうち「特許は無効」という主張について、被告のフランスメーカーは、欧州特許庁(EPO)に異議を提出し、さらに異議証拠を裁判所に提出した上で、EPOが判断を下すまでの訴訟停止を求めました。被告はまた、原告の液光社の特許無効を証明する大量の証拠を提出しました。

 ドイツでは、特許侵害訴訟を審理する裁判所が特許の有効性を判断することはありません。被告が特許無効を主張する場合は、EPOまたはドイツ特許商標庁に対し異議を提起するか、特許無効審判を提起しなければなりません。裁判所が審理後に特許無効の主張に正当性があると判断した場合、審理は停止され、特許主務官庁の判断を待つことになります。

 今回、液光社は全ての異議証拠に対し、迅速に有力な反駁(はんばく)を行いました。このため、EPOはマンハイム地裁での開廷よりも前に、「全ての異議証拠は同特許の無効を証明するものではない」という初歩判断を示すこととなりました。もちろん、被告のフランスメーカーは、この初歩判断に対して補足意見を提出できますが、裁判所が審理を停止しないことは予期できる範囲のことでした。

特許侵害認めず勝訴

 一方、「権利侵害はない」という主張について、被告のフランスメーカーは、自社製品の構造そのものが特許と異なると主張しました。液光社の特許では、「軟灯条」は導電金属片を連結することで1本のフィラメントとなりますが、被告の製品はプラスチック基板の連結によるものでした。

 しかし、この主張には説得力がありませんでした。なぜなら、被告の製品が使用する導電金属片の厚さはプラスチック基板とほぼ同じ厚さで、比較した場合、金属片の支持能力がプラスチックをはるかに上回ることは明らかだからです。

 マンハイム地裁は19年10月8日に開廷し、双方の弁護士が出廷しました。地裁は2時間にわたる説明と討論、弁論を行った上で、即日判決で液光社の勝訴を言い渡しました。

十分な訴訟資料で即日判決

 通常、ドイツの特許侵害訴訟では、まず裁判所が権利侵害を認めた後、権利侵害の停止を命じた上で、各種財務関連書類の提出を求め、それを基に双方で賠償金額に関する話し合いが持たれるため、原告が初めから賠償金額を提起することはできません。話し合いで合意に至らない場合、原告は別途訴訟を提起し、賠償を請求することになります。このため、双方の当事者がより早い段階で裁判所が権利侵害を認定すると知ることができれば、紛争はより早く解決される可能性があるのです。

 今回、一審のマンハイム地裁が即日判決を行ったのは、ドイツの実務上でも非常に珍しいことです。これは、先に提出されていた訴訟資料が、当日の法廷での討論を経ても、裁判官が既に形成していた認定を覆すことができないばかりか、さらに確信させるほど明確だったことを示しています。このような訴訟資料があったからこそ、裁判官は即日判決を下せたのでしょう。

 特許侵害訴訟で10カ月以内に勝訴判決を得ることができるのは、ドイツの司法システムがいかに効率良く、成熟しているかを象徴しています。また、特許権者の訴訟資料の準備や説明が十分だったことも、裁判所の迅速な判断の重要な要因です。

 今回の案件は、台湾企業の欧州での知的財産権保護に係る初めての勝訴案件ではないかと思われます。アジアのメーカーが模倣品被害を受けた場合は、欧州の裁判所で権利主張を行うことが最良の選択であると、筆者は考えます。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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