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第277回 「有害性」は違法食品添加物の構成要件にあらず


ニュース 法律 作成日:2019年9月25日_記事番号:T00085951

産業時事の法律講座

第277回 「有害性」は違法食品添加物の構成要件にあらず

 台湾の食品安全衛生管理法では、食品または食品添加物に対し、中央主務官庁より許可を得ていない添加物を添加し、これを製造、販売した者は7年以下の懲役に処すと定められています。ただ、取り締まりを受けた者が、「使用した食品添加物は許可を受けていないが、人体に害はない」として、犯罪を構成しないと抗弁することがよく見受けられます。

工業用化学品の食品添加

 著名な塩酥鶏(台湾風鶏の唐揚げ、以下「唐揚げ」)メーカー、台湾第一家有限公司(以下「同社」)は、使用するこしょうとこしょう塩が消費者に愛されており、一般の消費者に対する直接販売も行っていました。同社の陳星佑総経理は、こしょうなどを湿気を帯びにくく、固まりにくくするため、あろうことか工業用の炭酸マグネシウムを添加していました。コスト節約のためでした。

 2013年6月に食品安全衛生管理法が改正され、前述した「中央主務官庁より許可を得ていない添加物」の添加が禁止された後も、同社は英語で「For Industrial Use Only(工業用途に限る)」と外装に記載された炭酸マグネシウムの使用を続けました。使用は、15年3月にメディアにスクープされたことで明るみに出て、司法、衛生当局が合同捜査を行い、検察は起訴に持ち込みました。

有害の「可能性」で足りる

 一審の新北地方法院(地方裁判所)は17年6月20日、同社の陳廷智董事長については無罪としました。裁判所は証人の証言を採用し、陳廷智董事長が01年時点で引退し、子どもが跡を継いだと認定しました。

 一方、息子の陳星佑総経理については、添加物が有害であると知りながら加工に用いた罪で、懲役2年の有罪判決を下しました。また、陳廷智董事長の娘で、同社の財務・会計担当の陳鏡如副総経理については、脱税罪で懲役1年の有罪とし、罰金で代替可能とする判決を下しました。さらに、法人としての同社には、食品安全衛生管理法で罰金600万台湾元(約2,000万円)の支払い、不法所得約1,580万元の追徴、脱税額約319万元の追徴を命じました。

 裁判所は「有害物質」について判決で、次の基準を示しました。

 いわゆる「有害物質」とは、必ずしも人体の健康を損なう「結果」を必要とせず、その「可能性」があればよい。本案の工業用炭酸マグネシウム製品「A-102」に含まれる7.69~7.83ppm(100万分の1)の三価ヒ素を含んだ炭酸マグネシウムの食用によって、人体の健康を具体的に損なうことが科学的に証明できなくても、三価ヒ素が人体に有害な物質であることに争いがない以上、法定基準以上の三価ヒ素が含まれている「A-102」は人体の健康を損なう可能性があり、法が規定する「有害の恐れ」に該当する。

副総経理の関与を認定

 検察側、被告側共に、一審判決を不服として控訴しました。二審の台湾高等法院(高等裁判所)は、19年1月の判決で次のような判断を示しました。

・董事長の陳廷智氏は、一審の無罪判決を維持する。

・総経理の陳星佑氏は、食品添加物に対し中央主務官庁より許可を得ていない添加物を添加した罪で有罪。一審の懲役2年を変更し、懲役2年6月に処する。

・副総経理の陳鏡如氏は、一審の脱税部分についての有罪は維持する。別途、食品安全衛生管理法の食品添加物に対し中央主務官庁より許可を得ていない添加物を添加した罪で有罪とし、懲役2年に処する。

・法人としての同社については、一審の脱税部分への追徴は維持する。食品安全衛生管理法違反に対する罰金は700万元に、不法所得への追徴は1億1,595万元に引き上げる。

抽象的危険犯に該当

 被告側は、二審判決を不服として上告しましたが、最高法院(最高裁判所)は19年8月、これを棄却し、本案は確定しました。最高裁判所は判決で、高等裁判所の判断を支持する理由を詳細に示しました。

1.食品安全衛生管理法における「食品および食品添加物」とは、人間が食用とするものを指している。人間が食用とすることができない、または人間が食用とするものではないものは、食品、原料、添加物として食品に添加することはできないというのが、同法がまず確立すべき原則である。このため、「中央主務官庁より許可を得た」もので、かつ「食用とすることができる」ものに限って、食品または食品添加物に添加することができる。

2.食品安全衛生管理法は、食品または食品添加物について、中央主務官庁より許可を得ていない添加物を添加してならないと規定しているが、同規定は「立法方式」によるものだ。つまり、同条に規定している行為は典型的な危険性があると推定されるため、罰則が設けられた。このため、同条に規定される客観条件を満たせば、それだけで犯罪は成立し、具体的な危険の度合いなどを証明する必要はない。これは学説上、「抽象的危険犯」と呼ばれるものだ。

3.陳星佑氏は英語が下手だったとの抗弁をしているが、食品業者として食品添加物の供給業者が提供する製品に対し、安全性、食用の可否に疑義がある場合、それを調べる義務があったにもかかわらず、それを行わなかったばかりか、積極的に自社の製品に添加した。過失ではなく、主観的な犯意を有している。

4.陳鏡如氏は財務担当で、購買や価格交渉を行っていた。食用と非食用には価格差があり、詳細を知らなかったという言い逃れは通用しない。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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