第275回 交付審判制度


ニュース 法律 作成日:2019年8月28日

産業時事の法律講座

第275回 交付審判制度

記事番号:T00085455

 犯罪の訴追は主に検察の権限のため、犯罪被害者はまず検察に対して告訴し、検察による捜査を求める必要があります。検察は受理した案件に対し、必ず起訴や不起訴などの処分を下す必要があります。案件をあやふやなままクローズすることはできません。

 起訴された案件は、裁判所がその起訴が理由のあるものかどうか審査を行います。検察の処分が不起訴である場合には、同検察署を管轄する上級検察署が審査を行います。上級検察署がさらなる捜査が必要とした場合には、「捜査継続」との判断を下し、案件を差し戻します。不起訴処分が妥当であると判断した場合は、案件が確定し、二度と告訴を行うことはできません。

認められにくい交付審判

 このような検察システムでは、「官僚同士のなれ合い」が発生する可能性があります。そのため刑事訴訟法には、犯罪被害者が検察の不起訴処分に不服がある場合、裁判所に対して「交付審判」を申請できるとの規定があります。裁判所が交付審判を認めた場合、同案件は検察が起訴したのと同じ扱いを受けることとなり、裁判所による審理が開始されます。

 ただ、裁判所が交付審判を認める例は非常に少ないのが現実です。その原因の一つは、検察官による起訴の法定要件が「犯罪を犯した嫌疑がある」というのに対し、裁判所が交付審判を認めるためには「重大な犯罪の嫌疑がある」ことが必要になるためです。つまり単に「犯罪を犯した嫌疑がある」だけでは、交付審判は認められません。

 また、裁判所が交付審判を認めるということは、検察側の過ちを認めるということになります。そのため、裁判官としては、検察を非難しないで済む何らかの理由が見つかった場合以外は、わざわざ上級・下級検察署の検察官が下した決定を変更しようとしません。

写真の無断使用を告訴

 台中在住の被告人、孫毓晴と曽智偉(以下「被告人ら」)はそれぞれ、2017年9月に賃貸物件紹介サイト、591租屋網にワンルームマンション(以下「部屋」)貸し出し広告を投稿しました。2人は偶然にも、盛煜開発有限公司(以下「盛煜」)が以前、591租屋網に投稿した部屋貸し出しの広告写真を無断でコピーし、自分の投稿が利用者の注意を引くよう仕向けました。盛煜は同事実を発見し、2人が自社の著作物を無断でコピーしたとして、台中地方検察署に告訴しました。

 盛煜の主張は次のようなものでした。▽同社は信堡公司(以下「信堡」)に対して店舗住宅新築工事およびその内装改修工事を委託した▽工事の終了後、信堡は朱門広告撮影設計工作室(以下「朱門」)に現地の撮影を委託し、盛煜は出来上がった写真を納品確認した▽そのため、盛煜は同写真の著作権を取得した▽被告人らは、同写真をコピーしたこと、その内容は被告人らが貸し出す部屋とは異なったものであることを認めている──。

 台中地方検察署は捜査後、盛煜は同写真の著作権を取得した証明を提出しておらず、著作権は撮影者にあると判断しました。従って、盛煜は被害者ではないことから、本件を不起訴処分としました。

 盛煜はこの処分に対して「再議」(刑事訴訟法上のプロセスで、上告に相当)しました。しかし台湾高等裁判所検察署知的財産分署は18年4月、盛煜の提出した証拠では同写真の著作権を取得したとは証明できないとして、再議を棄却しました。

検察の捜査責任

 盛煜はこれを不服として、台中地方裁判所に交付審判を申請。同裁判所は18年5月、次の理由から交付審判を認める決定を下しました。

1.被告人らは、投稿が591租屋網の利用者の注意を引き、部屋の貸し出しを容易にするため、盛煜の部屋の写真を無断でコピーしたと認めている。これらの写真には「独創性」が認められ、著作権法によって保護されることから、被告人らには重大な犯罪の嫌疑が認められる。

2.盛煜が信堡に、店舗住宅新築工事とその内装改修工事を委託したのは営利目的だ。信堡は契約に基づき、撮影を請け負った朱門との間で、信堡や告訴人が同写真の撮影著作権を得ることを約定していることは想像に難くないため、検察官の認定には過ちがある。

 裁判所は決定書の中で、被告人らに嫌疑がかけられている犯罪事実、証拠、抵触している条文などを表記することで、被告人らが防御権を行使することができるよう配慮していました。

 被告人らはその後、盛煜と和解。盛煜も告訴を取り下げました。台中地方裁判所は18年9月、本件を「公訴不受理」としました。

 本件の重要なポイントは、告訴人である盛煜が、交付審判を申請する際になって初めて朱門の証明書を提出し、写真の著作権が盛煜にあることを証明した点です。これについて裁判所は決定書に、告訴が合法か判断するのは裁判所の職権調査事項であると記載しました。つまり、当事者が挙証をしなかったとしても、検察は自らそれを捜査しなければならず、案件をあやふやなままクローズすることはできないとしたのです。

 本件における検察の過ちは、幸運にも裁判所によって補正されましたが、台湾における交付審判の成功率の低さは、争いのない事実です。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

産業時事の法律講座