ニュース 法律 作成日:2019年7月24日_記事番号:T00084791
産業時事の法律講座2011年12月8日、宇辰光電股份有限公司(以下「宇辰」)の調達部長は、宇辰の代表取締役である王貴璟氏とその妻、江慧敏氏(以下それぞれ「王氏」と「江氏」)が、虚偽取引を取引先のメーカーに持ち掛け、数千万台湾元(1元=約3.48円)に上るリベートを受け取っていたとして、法務部調査局台北調査処に一連の証拠をもって「自首」しました。いわゆる「掏空(企業資金横領)事件」です。
検察の起訴を受けて台北地方裁判所は15年2月、王氏、江氏らを共に「会社に不利益な取引を行った」罪とし、それぞれ6年6カ月と5年6カ月の有罪判決を下しました。一方、リベートを支払ったメーカーと担当者には、1年から1年10カ月の執行猶予付きの有罪判決が下されました。
判決の中で地裁は、宇辰は王氏と江氏らの背任行為により5,600万元の損害を受けた他、虚偽の購入金額により宇辰の年度資産負債表における固定資産項目が8,400万元(11年度の増加金額の40.92%に相当)増加したことから、王氏は「財務報告虚偽申告罪」に当たると認定しました。
江氏に無罪判断
検察および被告人の控訴を受けた台湾高等裁判所は16年6月の判決において、王氏の行為のうち、▽2つの「証券発行者背信罪」を構成する部分に関してはそれぞれ3年4カ月の有罪に、2つの「不利益取引罪」を構成する部分に関してはそれぞれを3年2カ月の有罪とし、計4年8カ月を執行すると判断▽3つの「虚偽認証罪」と1つの「業務上不実文書記載罪」については、計1年6カ月を執行するとし、罰金での代替を許可▽不法所得に関しては没収は宣告せず、マネーロンダリング(資金洗浄)にかかる部分については無罪──としました。
また、その他の被告人に関する罪は全て軽減された上、執行猶予が維持されました。そして、江氏に関しては全ての罪が無罪とされ注目を浴びました。
高裁の判決は大筋で以下のようなものでした。
1)王氏は調達部員に特定のメーカーとの契約締結を直接指示し、宇辰に重大な損害を与えたため「不利益取引罪」を構成する。また、宇辰に虚偽の支払いをさせ、リベートを受け取り、500万元を超える損害を発生させているため、「証券発行者背信罪」を構成する。損害が500万元を超えない部分については刑法上の「背信罪」を構成する。
2)宇辰担当の公認会計士である龔俊吉氏の証言によると、11年に虚偽のために増加した資産8,000万元余りは、当年の固定資産総額の10%ほどにすぎないため、投資家の正当な判断に影響するものではなく、「重要性」基準を満たすものとはなっていないため、「不実財務報告書申告罪」は構成しない。
3)王氏は確かに利益を得ているが、それを差し押さえられておらず、また、宇辰に対して損害賠償責任を負うため、不法所得の没収を宣告する必要はない。
4)江氏に関する不利な証言を行った証人が一審、二審とも供述を覆しているため、検察側の証拠だけでは江氏が王氏の犯罪に関与したことを証明できないため、江氏にかかる部分については無罪とする。
王氏は判決を不服として最高裁判所に上告しました。検察側も王氏による「不実財務報告書申告罪」とマネーロンダリングにかかる部分について、および江氏の無罪の部分について上告しました。しかし、高裁はなぜか5件の3年余りの有罪判決、計4年8カ月とされた部分は上告しませんでした。
高裁に差し戻し
最高裁は17年12月に次の理由から、判決により王氏の上告を棄却した他、王氏と江氏による「不実財務報告書申告罪」とマネーロンダリングにかかる部分を高裁に差し戻しました。
1)高裁は宇辰の公認会計士の証言を基にして、8,000万元余りの虚偽の資産の増加に「重要性」がないと判断したが、同会計士は「重要性」にかかる専門意見を述べるべき「鑑定人」の資格を有していないため、裁判所による証拠採用プロセスには誤りがある。
2)王氏と江氏が粉飾または隠匿した金額は1,424万2,066元に上るが、原判決は王氏が「不利益取引罪」および「証券発行者背信罪」を構成すると判断したため、王氏らの得たこれらの利益こそがマネーロンダリング防止法における「重大な犯罪所得」である。
原判決はさらに、王氏が同犯罪所得を江氏に渡し、江氏が過去に宇辰に貸し付けていた資金を返済したとしているが、その詳細な計算に関してはいかなる認定も行っておらず、またなぜマネーロンダリングの罪を免除されることになるのかについての説明もしていない。
裁判所に再調査要求
判決の差し戻しを受けた台湾高裁は19年2月に判決で、王氏に別途「不実財務報告書申告罪」を言い渡し、その他の部分については無罪としました。検察は判決を不服として上告しましたが、最高裁は以下のような理由から、今年7月の判決で原判決を取り消しました。
1)原判決は宇辰の11年の財務報告書において固定資産が虚偽に増加した金額の他、王氏が得たリベートを同社に貸し付けた記載があるが、これについて同年度の財務報告書が「その他虚偽または隠匿にかかる事情がある」ことにならないかについて、裁判所はより踏み込んだ調査をしなければならない。
2)「王氏に犯罪所得を粉飾または隠匿する意思がないのであれば、なぜ、まず江氏が他者より借り受けた口座に振り込み、それを引き出した後に再度江氏または江氏が他者より借り受けた口座に振り込むといったような手間をかけたのか?」という点について、原審では調査を行うことなく、両者が「マネーロンダリングをする意図はなかった」という証言を採択している点には誤りがある。
今回の案件は、台湾の全ての重大な経済犯罪を代表するものではありませんが、2度の最高裁の判決部分を見る限り、最高裁は高裁の判決に対して「かなりの反感」を持っていることは明らかで、この点に関しては十分な参考的価値があるものとなっています。
徐宏昇弁護士
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