ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第269回 不倫の証拠に配偶者の電磁的記録を盗むと…


ニュース 法律 作成日:2019年5月29日_記事番号:T00083796

産業時事の法律講座

第269回 不倫の証拠に配偶者の電磁的記録を盗むと…

 巫志祥氏と妻の陳榛堉氏は、性格の不一致を理由として、2015年3月13日に協議離婚し、離婚の登記を行いました。しかしその後、巫氏は苗栗地方法院(地方裁判所)に対して離婚の無効を訴え、同裁判所は16年5月3日に離婚を無効とする判決を下しました。ただ、判決前の16年4月26日付で和解離婚し、5月19日に離婚の登記を行いました。

 和解離婚の前に、巫氏は16年3月13日、新竹県政府警察局に対し、陳氏が所有する乗用車のドライブレコーダー内のメモリーカードに記録されていた、同ドライブレコーダーにより撮影・記録された映像の電磁的記録を証拠として、陳氏の友人の男性に対し妨害家庭(家庭妨害)の刑事告訴を行いました。この家庭妨害案はその後、裁判所で不受理とされましたが、陳氏は逆に電磁的記録の破壊(理由なく取得)を理由として巫氏を刑事告訴しました。

 元妻、陳氏の告訴に対して、巫氏は次のような抗弁を行いました。

 ▽本案発生当時、まだ夫婦関係にあったため、財産は共有されていた▽当時、陳氏が外で何をしているのか理解するために証拠を収集する必要があった▽陳氏の車から物を持ってくる機会があり、その際にドライブレコーダー内のメモリーカードを取り換えたので、理由なく取得したわけではない▽取得した電磁的記録は離婚訴訟の提起にのみ利用しており、目的は正当である──。

配偶者のプライバシー

 17年1月、苗栗地方裁判所は巫氏が他者の電磁的記録を理由なく取得したことについて、次のような理由から禁錮50日の有罪判決を言い渡しました。

 ▽巫氏が同電磁的記録を盗んだ段階では、まだ合法な婚姻関係にあった▽夫婦双方は互いに貞操を守る義務があるが、それは「配偶者の一方は、他方の配偶者から、日常生活および社会活動全般を監視・コントロールされる義務を負う」ことを意味しているわけではない▽そのため、「配偶者を疑っているまたは調査の必要があるという理由だけで、直ちに恣意(しい)的に配偶者が非公開としている活動、言論、会話内容などをのぞき見るなどの行為をしてもよいと理解したことについて、法律上の正当な理由があったと認めることはできない」──。

物とデータの所有権

 巫氏はこの判決を不服として控訴しましたが、台湾高等法院(高等裁判所)台中分院(支部)は17年5月、次のような理由によりその訴えを退けました。

1. 電磁的紀録には、利用者による転送、受け取り、入力、視聴(観察)処理などに関する電磁的データに関する処理過程を記録する機能が備えられている。また電磁的記録に公開性がなく、他者の監督の下に行われたものでもないため、使用者個人のみに属するサイバースペースとなっている。

 それゆえ、同電磁的記録はそれが文字によるものか画像や音声によるものかを問わず、利用者が特定の期間内に見聞きした、または考え欲したものを明確に表現したものであるため、相当程度に高度な精神的創作または感情的な価値を持ち、プライバシーまたは無形財産権としての保護を受ける。

2. 例えば携帯電話、コンピューター設備、撮影・録音機材などの電磁的記録が記録された「物」は、どれも電磁的記録そのものとは異なる。

 そのため、たとえ同「物」の所有者であっても、同所有権は物内の電磁的記録には及ばず、同記録を任意に閲覧、削除、取得することはできないと理解できるはずである。

3. 巫氏は合法な手段によらず、ドライブレコーダー内のメモリーカードに記録されていた電磁的記録を複製し、陳氏が浮気していることを告訴するための証拠として利用した。

 このことは、陳氏が同車内において行った非公開活動に対する合理的なプライバシーにかかる期待を明らかに侵害するものであり、陳氏に対して十分な損害を与えるに至る行為である。

4. 陳氏は控訴人の行為後も同ドライブレコーダー内のメモリーカードを使用でき、またそこに記録されている映像ファイルの電磁的記録に何らかの損壊があったわけではないが、控訴人のこのような行為は、刑法における他者の電磁的記録を「理由なく取得した」罪を構成する。

 巫氏は最高法院(最高裁判所)に対して上訴を行いましたが、同裁判所は18年5月3日、次のような理由により、上訴を退けました。

 ▽刑法第359条の電磁的記録破壊罪の法定刑は5年以下の懲役▽刑法第239条の姦通(かんつう)罪の法定刑は1年以下の懲役▽両者の法定刑を比較すれば、前者の法益について、より多くの保護が必要なことは明らか▽巫氏は妻の浮気を疑ったことを理由としているが、それでも電磁的記録破壊という方法により証拠を収集することは許されるものではない──。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

産業時事の法律講座